世にも奇妙なランダム小説

すくらった

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村二分

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 有る田舎に、老人ばかりの村があった。そこでは、移住者――若い人――が入ってくるたびに、次々に用事を言いつけ、使い倒し、そして追い出すのが常だった。草を刈れ、ゴミの分別を確認しろ、雨が降ったら土のうを積め――言いつけられた若者は休む間もなく働かされ、やがて出ていき、老人たちは「若いやつは使えない」と嘆いてみせるのだった。

 ある日、ひとりの若い男が村にやってきた。やせぎすでにこにことした、ひ弱そうな男だった。老人たちは、また使い倒してやろうと考え、まず草刈りを命じた。しかし男は半日で村中の草を刈り、整然と美しく整えてしまった。風に揺れる草の間に、何か目には見えないものまで刈ったような気配があった。

そこで老人たちは、作物の一つでも間違って刈っていたら責めようと確認したが、男は必要な作物には一切手を触れていなかった。まるで深い植物学の知識でもあるかのように。

 次にゴミの分別を言いつけたが、男は嫌な顔一つせず、村中のゴミを完璧に分別した。分別されたゴミは整然と並び、微かに光を帯びているようにも見え、老人たちはそっと視線を逸らした。

 別の老人が今度は、「じゃあ買い物に行ってこい」と命じると、男はいつの間にかドアの外に頼んだ品物を置いてあった。ここは責めたてられると思った老人は、「若いやつは気が利かない。家の中まで持ってこい」と怒鳴り、再び買い物を命じて家中のドアと窓に鍵をかけた。しかし気がつくと、テーブルの上には頼んだものが積まれていた。

 鍵は全てかかったままである。老人は思わず背筋に冷たいものを感じ、他の住民に相談したが、「しげさん、自分で取り込んだのを忘れているんじゃない?」と笑われるだけだった。

 やがて雨が降った。若者を呼びつけようと外に出た老人は、すでに川に土のうが積まれているのを見て、息を詰めた。雨粒がざわつく水面に落ちる音が、普段よりも強く響いているように感じられた。

 さすがに何かがおかしいと感じた老人たちは男の正体を暴くため、家まで行こうとしたが、男の家はどこにもなかった。村のことなら空き家の場所まで把握しているはずなのに、男はどこにも住んでいない。

 よく考えると、道を歩く男の姿も、一度も見ていなかったのだ。恐怖というより、じんわりとした奇妙な居心地の悪さが老人たちの心を満たしていく。

 そんなある日、一人の老婆が犬の散歩をしていると、男と出くわした。これまでの逆恨みを込めて犬をけしかけようとするが、犬は男を見るやいなや尻尾を後ろ足の間に入れ、微かに震えた。空気が少しひんやりしたように感じられ、老婆は思わず足を止める。

「う、うちの犬がおびえているじゃないか!」と老婆が詰め寄ると、男はにこやかに言った。
「普段大切にもしてないくせに」

「なんだとこの!」
老婆が激昂すると、男はさらににこやかに続けた。

「そんな大きい声が出るんなら、普段からちゃんと挨拶してくださいよ」

 すると老婆はなぜかその言葉に逆らえず、自然と背筋を伸ばし、「はい、おはようございます!」と言わずにはいられなかった。

 言い終えた瞬間、老婆は何かが身体に結びつけられたような、妙な束縛感を覚えた。

そこから男は、老人たちに次々に命じるようになった。

「老人なら朝は広場に集まってラジオ体操をしてください」
「老人なら道で出会った若者に小遣いの一つでも渡してください」
「老人なら田植えは機械なんか使わず、手でやってください」
「老人なら……」
「老人なら……」

 老人たちは誰も逆らえず、言われるままに従った。彼らは生活の端々に、常に男の監視のようなものを感じるようになった。

 数年後、村は「日本一礼儀正しい村」としてテレビに取り上げられた。スタッフたちは入り口で歓迎を受け、地元の特産品を使った宴会でもてなされ、田植えの様子も手作業で披露される。

 老人たちは笑顔を見せていたが、よく見るとその表情はどこか引きつっており、笑顔の裏に小さな波のような不安が漂っていたが、テレビ局の誰も気づく様子はなかった。

 夜。一人のテレビクルーが村の夜道を歩いていると、電柱の影から老人が飛び出してきた。

「助けてくれ、あいつは……あいつは……」

 老人は叫びかけたが、次の瞬間、風がすっと抜けるように姿を消した。

 その直後、男が現れ、クルーににこやかに尋ねた。
「どうですか、この村は?」
テレビクルーは一瞬ぼうっとしたが、ハッと我に返り、笑顔を作った。
「皆さん親切で、実にいい村ですね……移住したいくらいです」
男は微笑み、ゆっくりとうなずいた。
「ええ、老人になるまで快適に過ごせる村ですよ」

 男はそう言うと、優しくニッコリと笑うのだった。
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