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第31話 助けを願う王子
灰色の空から、氷のように冷たい雨が王都に降り注いでいた。
鉄製のどっしりした門が、ローゼンクロイツ公爵の邸宅を守るように構えていた。
その陰に、雨に打たれてずぶ濡れになりながら、ガタガタと震えているボロボロの身なりの者がいた。
(凍える……体の芯まで冷たい……)
粗末な灰色の平服は泥と雨水を吸って重く張り付き、手入れもされず伸びた金糸の髪は、濡れた海草のように顔にへばりついている。
その正体は、つい数日前までこの国の次期国王として栄華を極めていた男、ユリウス・フォン・グランディエであった。
(なぜ、私がこんな目に遭わなければならないのか……)
ユリウスは両腕を擦りながら、恨めしそうに公爵邸の門を睨みつけた。
王宮の離れからの脱走は、拍子抜けするほど簡単だった。見張りの兵士たちは酒を飲んで談笑しており、使用人たちはユリウスとすれ違っても「薄汚れた浮浪者」としか認識しなかった。
誰の目にも、彼はすでに存在しない者として扱われていたのだ。だが、ユリウスの歪んだ脳内では、それが天の配剤に変換されていた。
(神が、私にエレオノーラと寄りを戻せと言っているのだ。……そうだ。私がわざわざこんな冷たい雨の中を訪ねてやり、この惨めな姿を見せれば、いくら彼女でも同情するはずだ。そして、彼女の温かい胸に私を抱きしめ、すべての借金を帳消しにしてくれる……!)
狂気じみた妄想に縋りつき、彼は待ち続けた。
やがて、雨を弾く車輪の音とともに、公爵家の豪華な馬車が門前に近づいてきた。その威厳は、王家の紋章にも負けないほどだった。王家の紋章にも負けないほどだった。
「エ、エレオノーラ……っ!!」
ユリウスは弾かれたように飛び出し、馬車の前に両手を広げて立ち塞がった。
「ヒヒィーンッ!!」
「な、何奴!! 控えよ、ここはローゼンクロイツ公爵家の令嬢、エレオノーラ様の馬車であるぞ!!」
御者が慌てて手綱を引くと、馬は前脚を上げて叫ぶように嘶いた。
護衛の騎士たちが一斉に剣の柄に手をかけたが、その泥まみれの男の顔を見てギョッと息を呑んだ。
「ユ、ユリウス元殿下……!?」
騒ぎを察したかのように、馬車の扉が静かに開いた。
最初に降り立ったのは、漆黒の外套を羽織った長身の専属騎士アーサー。彼は鋭い警戒の視線を周囲に巡らせた後、振り返って恭しく手を差し出した。
その手を取って馬車を降りたのは、光り輝く栗色の髪を美しく結い上げ、深い瑠璃色のドレスに身を包んだエレオノーラだった。
傍らに控える侍女が、すぐに傘を差し掛けて彼女を守る。濡れることも汚れることもないその姿は、眩い華やかさと気高い上品さを放っていた。
「……何の騒ぎかしら」
「お嬢様。王宮の粗大ゴミが、不法投棄されていたようです」
アーサーが、ユリウスを一瞥もせずに吐き捨てるように言った。
「エ、エレオノーラ!! 私だ! ユリウスだ!!」
ユリウスは、泥水が溜まった水たまりの中に、バシャッと勢いよく両膝をついた。
そして、そのまま泥の中に額を擦りつけるように深々と土下座する。これほどの屈辱は、生まれて初めてだった。
鉄製のどっしりした門が、ローゼンクロイツ公爵の邸宅を守るように構えていた。
その陰に、雨に打たれてずぶ濡れになりながら、ガタガタと震えているボロボロの身なりの者がいた。
(凍える……体の芯まで冷たい……)
粗末な灰色の平服は泥と雨水を吸って重く張り付き、手入れもされず伸びた金糸の髪は、濡れた海草のように顔にへばりついている。
その正体は、つい数日前までこの国の次期国王として栄華を極めていた男、ユリウス・フォン・グランディエであった。
(なぜ、私がこんな目に遭わなければならないのか……)
ユリウスは両腕を擦りながら、恨めしそうに公爵邸の門を睨みつけた。
王宮の離れからの脱走は、拍子抜けするほど簡単だった。見張りの兵士たちは酒を飲んで談笑しており、使用人たちはユリウスとすれ違っても「薄汚れた浮浪者」としか認識しなかった。
誰の目にも、彼はすでに存在しない者として扱われていたのだ。だが、ユリウスの歪んだ脳内では、それが天の配剤に変換されていた。
(神が、私にエレオノーラと寄りを戻せと言っているのだ。……そうだ。私がわざわざこんな冷たい雨の中を訪ねてやり、この惨めな姿を見せれば、いくら彼女でも同情するはずだ。そして、彼女の温かい胸に私を抱きしめ、すべての借金を帳消しにしてくれる……!)
狂気じみた妄想に縋りつき、彼は待ち続けた。
やがて、雨を弾く車輪の音とともに、公爵家の豪華な馬車が門前に近づいてきた。その威厳は、王家の紋章にも負けないほどだった。王家の紋章にも負けないほどだった。
「エ、エレオノーラ……っ!!」
ユリウスは弾かれたように飛び出し、馬車の前に両手を広げて立ち塞がった。
「ヒヒィーンッ!!」
「な、何奴!! 控えよ、ここはローゼンクロイツ公爵家の令嬢、エレオノーラ様の馬車であるぞ!!」
御者が慌てて手綱を引くと、馬は前脚を上げて叫ぶように嘶いた。
護衛の騎士たちが一斉に剣の柄に手をかけたが、その泥まみれの男の顔を見てギョッと息を呑んだ。
「ユ、ユリウス元殿下……!?」
騒ぎを察したかのように、馬車の扉が静かに開いた。
最初に降り立ったのは、漆黒の外套を羽織った長身の専属騎士アーサー。彼は鋭い警戒の視線を周囲に巡らせた後、振り返って恭しく手を差し出した。
その手を取って馬車を降りたのは、光り輝く栗色の髪を美しく結い上げ、深い瑠璃色のドレスに身を包んだエレオノーラだった。
傍らに控える侍女が、すぐに傘を差し掛けて彼女を守る。濡れることも汚れることもないその姿は、眩い華やかさと気高い上品さを放っていた。
「……何の騒ぎかしら」
「お嬢様。王宮の粗大ゴミが、不法投棄されていたようです」
アーサーが、ユリウスを一瞥もせずに吐き捨てるように言った。
「エ、エレオノーラ!! 私だ! ユリウスだ!!」
ユリウスは、泥水が溜まった水たまりの中に、バシャッと勢いよく両膝をついた。
そして、そのまま泥の中に額を擦りつけるように深々と土下座する。これほどの屈辱は、生まれて初めてだった。
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