病弱な幼馴染を溺愛する彼に、愛想が尽きました。

小野 まい

文字の大きさ
41 / 44

第40話 甘い毒の誘い

金糸のように滑らかな髪に透き通るような碧眼、そして上質で仕立ての整った夜会服。

息を呑むほど整った容姿と気品に、どこかユリウスを思わせる面影があった。



「あ、あなたは……?」

「私はシモン。しがない伯爵家の三男坊ですよ。……先ほどの会場での出来事、拝見しておりました。あなたは、冷酷な公爵令嬢によって嵌められたのですね?」


シモンは、リリアーナの泥だらけの頬に優しく手を伸ばし、冷たい指先でそっと涙を拭った。



「こんなに美しく、可憐な方が、不当な借金を背負わされ、酒場に売られるなど……私が許しません。もしよろしければ、私があなたの借金を肩代わりし、私の『個人的な庇護下』にお迎えしたいのですが……いかがですか?」

「ほ、本当ですか……!?」

リリアーナの瞳に、再び狂気じみた希望の光が宿った。



(やっぱり! 私の魅力に気づいてくれる素敵な人がいたんだわ!)


自分がこの場に来たことに間違いはなかった。そう思わずにはいられなかった。


「ええ、本当ですよ。さあ、私の馬車へ」

「はい……っ! シモン様、ありがとうございます……っ!」


シモンに優しく抱き起こされ、彼の豪華な馬車へと導かれるリリアーナ。

彼女は地獄から這い上がり、再び栄光の階段を上り始めたような恍惚とした表情を浮かべていた。



しかし、リリアーナは気づいていなかった。

自分を馬車に乗せた瞬間、シモンの碧眼から紳士の優しさが完全に消え失せ、冷酷な爬虫類のような獲物を値踏みする光が宿ったことに。


(……呆れるほど単純な女だ。これなら、洗脳する手間も省ける)


シモン・フォン・ローラン伯爵令息。

彼は社交界では心優しい紳士として知られていたが、その裏の顔は非合法な地下カジノの運営や、悪辣な貴族たちへ若く美しい玩具を供給する闇組織の元締めの一人だった。



借金取りに追われる身寄りのない元・男爵令嬢。プライドは高いが頭は空っぽで、少し甘い言葉を囁けば自ら首輪をつけに来る。

彼にとって、リリアーナは裏社会のオークションにかけるためのに過ぎなかった。


(まずは薬漬けにして自我を壊し、美しい顔だけを保たせたまま、変態趣味の老貴族たちに高値で売り捌くとするか。……せいぜい、私のためにたっぷりと稼いでくれよ、哀れなお姫様)


王族に愛されていた女だというだけで、オークションの客からの見る目も変わるだろうし、その価値が上がるのを見られるのも一興だ。



(これでまた贅沢ができるわ)


馬車が闇夜に向かって走り出す。温かい毛布に包まれ、夢見心地で眠りに落ちるリリアーナ。

彼女の浅はかな虚栄心は、自らの意思で酒場の酌婦という底辺よりもさらに深く、二度と日の光を拝むことのできないへの扉を開いてしまったのだった。

あなたにおすすめの小説

婚約者のことが好きで好きで好きで仕方ない令嬢、彼に想い人がいると知って別れを切り出しました〜え、彼が本当に好きだったのは私なんですか!?〜

朝霧 陽月
恋愛
 ゾッコーン伯爵家のララブーナは、3日間涙が止まらず部屋に引きこもっていた……。  それというのも、ふとした折に彼女の婚約者デューキアイ・グデーレ公爵子息に想い人がいると知ってしまったからだ。 ※内容はタイトル通りです、基本ヤベェ登場人物しかいません。 ※他サイトにも、同作者ほぼ同タイトルで投稿中。

【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件

よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます 「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」 旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。 彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。 しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。 フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。 だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。 私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。 さて……誰に相談したら良いだろうか。

私の願いは貴方の幸せです

mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」 滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。 私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。

婚約者に好きな人がいると言われ、スパダリ幼馴染にのりかえることにした

みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むさわぎとなり―――――― 🌸お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

毒を飲んだ令嬢は、二度目の人生で誠実な恋を選ぶ

ゆぷしろん
恋愛
幼いころからずっと隣にいて、いつか結ばれるのだと信じていた幼馴染エドガー。 けれど学園へ入ってから彼は少しずつ変わり、創立記念パーティーの夜、レティシアは彼が別の令嬢と口づけを交わす姿を目撃してしまう。やがて告げられたのは、「君が拒んだからだ」という身勝手な別れの言葉だった。結婚前に口づけや身体を許さなかったことさえ責められ、婚約は解消。噂に傷つき、生きる気力を失ったレティシアは、黒い森の魔女から毒を受け取り、自ら命を絶とうとする。 けれど次に目を覚ましたとき、彼女は幼いころへと戻っていた。 もう二度と、幼馴染に人生を預けない。そう決意したレティシアは、将来エドガーと結ばれる流れを少しずつ変えていく。そして二度目の人生で、前世で傷ついた自分に唯一優しい言葉をかけてくれた伯爵令息ルシアンと、今度こそ最初から出会い直す。穏やかで誠実な彼は、決して急かさず、傷ついた彼女の心を静かにほどいていく。 これは、恋に傷つき死を選んだ令嬢が、もう一度与えられた春の中で、自分の気持ちと向き合いながら、本当に大切にしてくれる人を選び直して幸せになるまでのやり直し恋愛譚。 「今度こそ、私は自分で選ぶ」 毒を飲んだ令嬢は、二度目の人生でようやく知る。幸せとは、誰かに選ばれることではなく、自分を大切にしてくれる人を、自分の意志で選び取ることなのだと。