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第18話 幼馴染の本性
「え、ええと……マリア、すまない。手違いがあったようだ。今日は……出直そう」
「えーっ! やだ! 欲しいもん! 約束したじゃない!」
「しっ、静かにしろ! みんな見ている!」
店内で喚き出したマリアを、オスカーは無理やり引きずって店を出た。背中に突き刺さる嘲笑の視線。
「見て、あれが噂の……」
「愛人に貢ごうとしてカードが止まったんですって」
「みっともない」
その後、レストランに行こうとしたが、予約必須の高級店は門前払いだった。
「あいにく満席で」
顔パスで入れてくれていた店も冷たく扉を閉ざした。レオナルドの根回しは完璧だった。王都の主要な店には、すでにオスカーのツケは無効という情報が回っていたのだ。
結局、彼らは安っぽい屋台のサンドイッチを買い、馬車の中で惨めに腹を満たすしかなかった。マリアの不満は、もはや隠しきれないほど膨れ上がっていた。
一方、その頃。レインバーグ家の敷地内にある東の離れでは、まったく別の時間が流れていた。
日当たりの良いサンルーム。白いテーブルクロスの上には、色とりどりの料理が並んでいた。
新鮮な野菜のサラダ、濃厚なカボチャのポタージュ、メインディッシュは王都で一番の精肉店から届けられた特選フィレ肉のステーキ。
「おいしい!」
ノアが目を輝かせて肉を頬張る。その隣には私と、なぜか当然のように席についているレオナルド様がいた。
「よく食べるな、ノア。育ち盛りだ、遠慮なくおかわりしなさい」
「うん! ありがとう、レオナルドおじ様!」
レオナルド様は、公務の合間を縫って監査の進捗報告(という名目のランチ)に来ていたのだ。
彼が持参したのは最高級の食材と、そしてノアのために新調されたいくつかの図鑑だった。
「それにしても、見事な手際ですわ、レオナルド様。まさか半日で王都中の店に手を回すなんて」
私がワイングラスを傾けると、レオナルド様は悪戯っぽく笑った。
「君のためなら、王都を封鎖することさえ厭わないよ。それに、商売人たちは鼻が利く。落ち目のオスカーより、実家が公爵家で実権を握る侯爵夫人と次期宰相候補の私に恩を売る方を選ぶのは当然だ」
レオナルド様が、さりげなくノアの口元のソースをナプキンで拭う。その手つきは自然で優しい。
昨日まで父親という存在に怯えていたノアが、今はこんなにも無防備に笑っている。本来あるべきだった家庭の姿がここにあった。
「さて、そろそろ本館の方も『限界』が来る頃だろう」
レオナルド様が窓の外、本館の方角を見やった。
「空腹と貧困は、愛の化けの皮を剥がす最強の溶剤だ。……仕上げにかかろうか」
夕暮れ時。手ぶらで疲労困憊して帰宅したオスカーたちを出迎えたのは、暗く沈んだ屋敷だった。
経費節減のため、使用人たちは最低限の灯りしかつけていない。
「夕食は……夕食はどうなっている!」
オスカーが食堂へ駆け込む。テーブルに置かれていたのは、昼よりもさらに酷いものだった。
具のほとんどない薄い野菜スープ。そして昼の残りの硬いパン。それだけ。
「ふざけるな! これは家畜の餌か!」
オスカーが皿を薙ぎ払う。ガシャン、とスープが床にぶちまけられた。しかし、誰も片付けに来ない。
「シェフを呼べ! 執事はどこだ!」
「皆様、すでに本日の業務を終えて退出されました」
唯一残っていたメイド長が、冷ややかに告げた。
「奥様の指示により、残業代が出ませんので。夜間のサービスはございません」
「なんだと……!? 私は主人だぞ!」
「給与をお支払いいただいていない以上、旦那様は『無職の同居人』という扱いでございます」
メイド長は一礼し、さっさと部屋を出て行ってしまった。
残されたのは、空腹の大人二人と子供一人。そして床に散らばったスープの残骸。
しばらく静寂が続いた。そして、その静寂を破ったのはマリアの叫び声だった。
「もうやだぁぁぁッ!!」
マリアが髪を振り乱して叫んだ。
「何なのよこれ! 話が違うじゃない! 侯爵夫人になれるって言ったじゃない! お金持ちになれるって言ったじゃない!」
「マ、マリア、落ち着け。これは一時的なことで……」
「一時的っていつまで!? ドレスも買えない、美味しいご飯も食べられない、使用人も言うこと聞かない! こんなの詐欺よ!」
マリアがオスカーの胸をポカポカと叩く。その力は甘えではなく本気の憎しみがこもっていた。
「あんたが王族だからついてきたのよ! お金があるから優しくしてあげたのよ! ただの貧乏なおじさんなら、誰が好きになるもんですか!」
決定的な一言に、オスカーの動きが止まった。
「えーっ! やだ! 欲しいもん! 約束したじゃない!」
「しっ、静かにしろ! みんな見ている!」
店内で喚き出したマリアを、オスカーは無理やり引きずって店を出た。背中に突き刺さる嘲笑の視線。
「見て、あれが噂の……」
「愛人に貢ごうとしてカードが止まったんですって」
「みっともない」
その後、レストランに行こうとしたが、予約必須の高級店は門前払いだった。
「あいにく満席で」
顔パスで入れてくれていた店も冷たく扉を閉ざした。レオナルドの根回しは完璧だった。王都の主要な店には、すでにオスカーのツケは無効という情報が回っていたのだ。
結局、彼らは安っぽい屋台のサンドイッチを買い、馬車の中で惨めに腹を満たすしかなかった。マリアの不満は、もはや隠しきれないほど膨れ上がっていた。
一方、その頃。レインバーグ家の敷地内にある東の離れでは、まったく別の時間が流れていた。
日当たりの良いサンルーム。白いテーブルクロスの上には、色とりどりの料理が並んでいた。
新鮮な野菜のサラダ、濃厚なカボチャのポタージュ、メインディッシュは王都で一番の精肉店から届けられた特選フィレ肉のステーキ。
「おいしい!」
ノアが目を輝かせて肉を頬張る。その隣には私と、なぜか当然のように席についているレオナルド様がいた。
「よく食べるな、ノア。育ち盛りだ、遠慮なくおかわりしなさい」
「うん! ありがとう、レオナルドおじ様!」
レオナルド様は、公務の合間を縫って監査の進捗報告(という名目のランチ)に来ていたのだ。
彼が持参したのは最高級の食材と、そしてノアのために新調されたいくつかの図鑑だった。
「それにしても、見事な手際ですわ、レオナルド様。まさか半日で王都中の店に手を回すなんて」
私がワイングラスを傾けると、レオナルド様は悪戯っぽく笑った。
「君のためなら、王都を封鎖することさえ厭わないよ。それに、商売人たちは鼻が利く。落ち目のオスカーより、実家が公爵家で実権を握る侯爵夫人と次期宰相候補の私に恩を売る方を選ぶのは当然だ」
レオナルド様が、さりげなくノアの口元のソースをナプキンで拭う。その手つきは自然で優しい。
昨日まで父親という存在に怯えていたノアが、今はこんなにも無防備に笑っている。本来あるべきだった家庭の姿がここにあった。
「さて、そろそろ本館の方も『限界』が来る頃だろう」
レオナルド様が窓の外、本館の方角を見やった。
「空腹と貧困は、愛の化けの皮を剥がす最強の溶剤だ。……仕上げにかかろうか」
夕暮れ時。手ぶらで疲労困憊して帰宅したオスカーたちを出迎えたのは、暗く沈んだ屋敷だった。
経費節減のため、使用人たちは最低限の灯りしかつけていない。
「夕食は……夕食はどうなっている!」
オスカーが食堂へ駆け込む。テーブルに置かれていたのは、昼よりもさらに酷いものだった。
具のほとんどない薄い野菜スープ。そして昼の残りの硬いパン。それだけ。
「ふざけるな! これは家畜の餌か!」
オスカーが皿を薙ぎ払う。ガシャン、とスープが床にぶちまけられた。しかし、誰も片付けに来ない。
「シェフを呼べ! 執事はどこだ!」
「皆様、すでに本日の業務を終えて退出されました」
唯一残っていたメイド長が、冷ややかに告げた。
「奥様の指示により、残業代が出ませんので。夜間のサービスはございません」
「なんだと……!? 私は主人だぞ!」
「給与をお支払いいただいていない以上、旦那様は『無職の同居人』という扱いでございます」
メイド長は一礼し、さっさと部屋を出て行ってしまった。
残されたのは、空腹の大人二人と子供一人。そして床に散らばったスープの残骸。
しばらく静寂が続いた。そして、その静寂を破ったのはマリアの叫び声だった。
「もうやだぁぁぁッ!!」
マリアが髪を振り乱して叫んだ。
「何なのよこれ! 話が違うじゃない! 侯爵夫人になれるって言ったじゃない! お金持ちになれるって言ったじゃない!」
「マ、マリア、落ち着け。これは一時的なことで……」
「一時的っていつまで!? ドレスも買えない、美味しいご飯も食べられない、使用人も言うこと聞かない! こんなの詐欺よ!」
マリアがオスカーの胸をポカポカと叩く。その力は甘えではなく本気の憎しみがこもっていた。
「あんたが王族だからついてきたのよ! お金があるから優しくしてあげたのよ! ただの貧乏なおじさんなら、誰が好きになるもんですか!」
決定的な一言に、オスカーの動きが止まった。
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