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第24話 圧倒的な格の違い
数日後。王都の高級サロン『白薔薇の館』に友人たちはいた。ここは貴族たちが夜な夜な集まり、情報の交換を行う社交場だ。
今夜の主役は、ブライアンとニーナだった。
「聞いてくださる? レインバーグ家の内情を」
ニーナが貴婦人たちの中心で、悲劇のヒロインのように語り始めた。
「エリザ様は、ご主人のオスカー様を幽閉同然に扱っているんですって。食事も与えず、怪我した子供に薬も買わせない。まるで監獄よ」
「まあ、恐ろしい……」
「やはり『氷の令嬢』という噂は本当だったのね」
周囲がざわつく。ブライアンも、男性陣の輪の中でグラスを片手に熱弁を振るっていた。
「俺は親友として許せないね。エリザは、マリアという純粋な女性を嫉妬から虐めているんだ。愛のない結婚をしておいて、真実の愛を見つけた夫を憎むなんて、女の腐ったような性格だよ」
あることないこと。いや、ほとんどが歪曲された事実。
しかし、ゴシップに飢えた貴族たちにとって、清廉潔白で知られるエリザのスキャンダルは蜜の味だった。
噂は瞬く間に広がり、会場は冷酷な悪女エリザへの批判一色に染まりつつあった。
その様子をサロンの入り口付近の柱の陰から、オスカーとマリアが見ていた。
彼らは招待状がないため中には入れないが、ボーイに賄賂を渡してこっそり覗いていたのだ。
「やったわねオスカー! みんなエリザの悪口を言ってる!」
「ああ……これなら、世間体を気にして金を出すかもしれん」
二人が希望を見出した、その時だった。
カツン、カツン、カツン。
サロンの喧騒を切り裂くような、硬質で規則正しい足音が響いた。入り口の扉が大きく開かれ、現れたのは――
「……随分と楽しそうな話題で盛り上がっていますのね」
空気が凍りつく。凛とした声と共に現れたのは、第一王女ヴィヴィアン。
そしてその斜め後ろには、氷のような無表情を張り付けたレオナルド・フォン・ヴェルンシュタイン辺境伯が控えていた。
「ヴィ、ヴィヴィアン殿下……!? それに次期宰相の有力候補まで……」
ブライアンとニーナの顔が引きつる。ヴィヴィアンは気品よく扇子を開き、ニーナの前に歩み寄った。
「ニーナ嬢。貴女、先ほど申しておりましたわね。『エリザは傷を負った子供に薬も買わせない』と」
「は、はい! 事実ですわ! マリアがそう言って泣いて……」
「事実?」
ヴィヴィアンの後ろから、レオナルドが一枚の書類を提示した。
「これは王都医師会の診療記録だ。カイル君は先週、王宮御用達の医師の診察を受けている。費用はすべてレインバーグ家、つまりエリザ様が支払っている」
レオナルドの冷徹な声がサロンに響く。診察記録という反論の余地のない事実が突きつけられた。
「えっ……? で、でも、オスカー様は食事も満足に……」
「それは当然だろう」
レオナルドは冷ややかに言い放った。
「彼がレインバーグ家の資金を横領し、私的に流用した金額は、国家予算の一部に匹敵する。現在、彼はその返済のために節制を強いられているだけだ。犯罪者が贅沢な食事を要求する権利が、この国の法にあるのか? 騎士ブライアン殿」
レオナルドは、エリザ様が離婚協議書を提出していない分、まだ彼は温情をかけてもらっているほうだ。とは心に留めて口には出さなかった。
今夜の主役は、ブライアンとニーナだった。
「聞いてくださる? レインバーグ家の内情を」
ニーナが貴婦人たちの中心で、悲劇のヒロインのように語り始めた。
「エリザ様は、ご主人のオスカー様を幽閉同然に扱っているんですって。食事も与えず、怪我した子供に薬も買わせない。まるで監獄よ」
「まあ、恐ろしい……」
「やはり『氷の令嬢』という噂は本当だったのね」
周囲がざわつく。ブライアンも、男性陣の輪の中でグラスを片手に熱弁を振るっていた。
「俺は親友として許せないね。エリザは、マリアという純粋な女性を嫉妬から虐めているんだ。愛のない結婚をしておいて、真実の愛を見つけた夫を憎むなんて、女の腐ったような性格だよ」
あることないこと。いや、ほとんどが歪曲された事実。
しかし、ゴシップに飢えた貴族たちにとって、清廉潔白で知られるエリザのスキャンダルは蜜の味だった。
噂は瞬く間に広がり、会場は冷酷な悪女エリザへの批判一色に染まりつつあった。
その様子をサロンの入り口付近の柱の陰から、オスカーとマリアが見ていた。
彼らは招待状がないため中には入れないが、ボーイに賄賂を渡してこっそり覗いていたのだ。
「やったわねオスカー! みんなエリザの悪口を言ってる!」
「ああ……これなら、世間体を気にして金を出すかもしれん」
二人が希望を見出した、その時だった。
カツン、カツン、カツン。
サロンの喧騒を切り裂くような、硬質で規則正しい足音が響いた。入り口の扉が大きく開かれ、現れたのは――
「……随分と楽しそうな話題で盛り上がっていますのね」
空気が凍りつく。凛とした声と共に現れたのは、第一王女ヴィヴィアン。
そしてその斜め後ろには、氷のような無表情を張り付けたレオナルド・フォン・ヴェルンシュタイン辺境伯が控えていた。
「ヴィ、ヴィヴィアン殿下……!? それに次期宰相の有力候補まで……」
ブライアンとニーナの顔が引きつる。ヴィヴィアンは気品よく扇子を開き、ニーナの前に歩み寄った。
「ニーナ嬢。貴女、先ほど申しておりましたわね。『エリザは傷を負った子供に薬も買わせない』と」
「は、はい! 事実ですわ! マリアがそう言って泣いて……」
「事実?」
ヴィヴィアンの後ろから、レオナルドが一枚の書類を提示した。
「これは王都医師会の診療記録だ。カイル君は先週、王宮御用達の医師の診察を受けている。費用はすべてレインバーグ家、つまりエリザ様が支払っている」
レオナルドの冷徹な声がサロンに響く。診察記録という反論の余地のない事実が突きつけられた。
「えっ……? で、でも、オスカー様は食事も満足に……」
「それは当然だろう」
レオナルドは冷ややかに言い放った。
「彼がレインバーグ家の資金を横領し、私的に流用した金額は、国家予算の一部に匹敵する。現在、彼はその返済のために節制を強いられているだけだ。犯罪者が贅沢な食事を要求する権利が、この国の法にあるのか? 騎士ブライアン殿」
レオナルドは、エリザ様が離婚協議書を提出していない分、まだ彼は温情をかけてもらっているほうだ。とは心に留めて口には出さなかった。
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