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第33話 傷ついた子供の心
(夫の私がいないのに、なぜあんなに幸せそうなんだ? いや、あれは強がりだ。私に見せつけるための演技に違いない!)
オスカーは、生垣を強引に掻き分け庭に侵入した。枝が顔に当たり、頬に切り傷ができるが気にも留めない。
「おーい、エリザ! ノア!」
彼は胸を張り、王族としての威厳(と彼が信じているもの)を保ちながら、テラスへと歩み寄った。
「……!」
エリザとノアが振り返る。二人の表情が、瞬時に凍りついた。笑顔が消え、まるで汚物を見るような冷ややかな無表情へと変わる。
(ふふ、驚いているな。あまりの嬉しさに言葉も出ないか)
オスカーはポジティブに解釈し、さらに近づいた。
「やあ、エリザ。久しぶりだね。どうだい、元気そうで何よりだ」
彼は泥のついた雑草の束を、バッと突き出した。
「これ、君へのプレゼントだ。道端で可愛らしく咲いていてね。まるで君のようだと思って摘んできたんだ。……どうだ、嬉しいだろう?」
自信満々の笑み。しかし、反応は予想外だった。
エリザは立ち上がることもなく、ただ静かにティーカップをソーサーに置いた。カチャリ、という音がやけに大きく響く。
「……警備の方」
エリザの声は、氷点下の冷たさだった。彼女はオスカーを見ようともせず、控えていた衛兵に声をかけた。
「『不審者』が庭に入り込んでいます。早急に排除してください」
「なっ……!?」
オスカーの顔が引きつる。
「おいおい、エリザ! 冗談がきついぞ。夫の顔を忘れたのか? 私だ、オスカーだ!」
「……オスカー様?」
エリザは初めて彼の方を向いた。その瞳には、かつて彼に向けられていた愛情も、執着も怒りさえもなかった。あるのは、道端の石ころを見るような完全なる無関心。
「どなたのことでしょう? 私の知る夫は、もっと気品があり、清潔で、このような雑草を『愛情を込めた贈り物』のように突き出す方ではありませんでしたけれど」
「そ、それは……今、ちょっと金回りが悪くて……いや、これは金の問題じゃない! 心の問題だ!」
オスカーは必死に弁解し、今度はノアに視線を向けた。
「ノア! パパだぞ! お前の好きなパパが会いに来てやったんだ。ほら、こっちへ来て抱きしめて……」
「来ないで!」
ノアが鋭く叫んだ。彼はエリザの背後に隠れ、怯えたような表情を浮かべつつも、オスカーに対する強い反感を隠しきれなかった。
「臭い! おじさん、臭いよ!」
「く、臭い……?」
オスカーは自分の袖の匂いを嗅いだ。確かに、何日も風呂に入っていない体臭と、カビの匂いが染み付いている。
しかし、実の父親に向かって臭いとは! どうしても許せなかった。
「ノア、なんて口をきくんだ! パパに向かって……」
「あなたはもう、パパなんかじゃない!」
父親だったはずの男を完全に否定するかのように、ノアは声を震わせながら再び叫んだ。
その言葉には、これまで父親に裏切られ続けて、苦しんだ子供の思いが込められていた。
「僕のパパは、もっと強くて優しくて、いい匂いがするもん! レオナルドおじ様みたいに!」
レオナルド。その名前が出た瞬間、オスカーの脳裏で何かが弾けた。
オスカーは、生垣を強引に掻き分け庭に侵入した。枝が顔に当たり、頬に切り傷ができるが気にも留めない。
「おーい、エリザ! ノア!」
彼は胸を張り、王族としての威厳(と彼が信じているもの)を保ちながら、テラスへと歩み寄った。
「……!」
エリザとノアが振り返る。二人の表情が、瞬時に凍りついた。笑顔が消え、まるで汚物を見るような冷ややかな無表情へと変わる。
(ふふ、驚いているな。あまりの嬉しさに言葉も出ないか)
オスカーはポジティブに解釈し、さらに近づいた。
「やあ、エリザ。久しぶりだね。どうだい、元気そうで何よりだ」
彼は泥のついた雑草の束を、バッと突き出した。
「これ、君へのプレゼントだ。道端で可愛らしく咲いていてね。まるで君のようだと思って摘んできたんだ。……どうだ、嬉しいだろう?」
自信満々の笑み。しかし、反応は予想外だった。
エリザは立ち上がることもなく、ただ静かにティーカップをソーサーに置いた。カチャリ、という音がやけに大きく響く。
「……警備の方」
エリザの声は、氷点下の冷たさだった。彼女はオスカーを見ようともせず、控えていた衛兵に声をかけた。
「『不審者』が庭に入り込んでいます。早急に排除してください」
「なっ……!?」
オスカーの顔が引きつる。
「おいおい、エリザ! 冗談がきついぞ。夫の顔を忘れたのか? 私だ、オスカーだ!」
「……オスカー様?」
エリザは初めて彼の方を向いた。その瞳には、かつて彼に向けられていた愛情も、執着も怒りさえもなかった。あるのは、道端の石ころを見るような完全なる無関心。
「どなたのことでしょう? 私の知る夫は、もっと気品があり、清潔で、このような雑草を『愛情を込めた贈り物』のように突き出す方ではありませんでしたけれど」
「そ、それは……今、ちょっと金回りが悪くて……いや、これは金の問題じゃない! 心の問題だ!」
オスカーは必死に弁解し、今度はノアに視線を向けた。
「ノア! パパだぞ! お前の好きなパパが会いに来てやったんだ。ほら、こっちへ来て抱きしめて……」
「来ないで!」
ノアが鋭く叫んだ。彼はエリザの背後に隠れ、怯えたような表情を浮かべつつも、オスカーに対する強い反感を隠しきれなかった。
「臭い! おじさん、臭いよ!」
「く、臭い……?」
オスカーは自分の袖の匂いを嗅いだ。確かに、何日も風呂に入っていない体臭と、カビの匂いが染み付いている。
しかし、実の父親に向かって臭いとは! どうしても許せなかった。
「ノア、なんて口をきくんだ! パパに向かって……」
「あなたはもう、パパなんかじゃない!」
父親だったはずの男を完全に否定するかのように、ノアは声を震わせながら再び叫んだ。
その言葉には、これまで父親に裏切られ続けて、苦しんだ子供の思いが込められていた。
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