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第108話 子供たちの冷眼
「――以上をもって、被告人両名の罪を確定とする。よって本法廷は、元レインバーグ侯爵オスカー、並びにマリアの両名に対し、『北の氷獄への永久追放、および終身の強制労働』を言い渡す!」
王宮大講堂に響き渡った裁判官の宣告は、分厚い氷の刃のように冷酷で、一切の慈悲を含まない絶対的なものであった。
木槌が硬質な音を立てて振り下ろされた瞬間、それは二人の人間が輝かしい貴族社会から永遠に放逐され、死ぬまで極寒の地で石を砕き続ける奴隷へと身分を落としたことを意味していた。
「な……っ!? ひ、氷獄……!? 嘘だ、嘘だっ!!」
一瞬の硬直の後、オスカーは鎖に繋がれた両腕を振り乱し、血走った目で絶叫した。
「嫌だ! 私は王族で侯爵だぞ! あんな太陽の昇らない凍てつく地獄で、ツルハシなど振るえるわけがない! 死んでしまう! 頼む、許してくれ! 財産ならいくらでも国に差し出す! だから氷獄だけは、氷獄だけは勘弁してくれェェッ!!」
「いやああぁっ!! 寒いのは嫌! 苦しいのも嫌ああぁっ! 誰か助けて、私をここから出して!!」
マリアもまた、長い髪を振り乱しながら石の床に転げ回り、赤ん坊のように泣き喚いた。
しかし、彼らのその醜態に同情する者は、広い法廷内にただの一人もいなかった。傍聴席を埋め尽くす貴族たちは皆、露骨な嫌悪と嘲笑の視線を向けている。
「黙れ、罪人どもが! 往生際が悪いぞ!」
屈強な衛兵たちが左右から駆け寄り、暴れるオスカーの背中を容赦なく蹴り飛ばし、マリアの腕を乱暴に捻り上げた。
かつてであれば、彼らの体に触れただけで不敬罪で首が飛んだだろう。だが、今の彼らはただの汚らわしい罪人である。
衛兵たちの腕力によって床に顔を押し付けられ、オスカーとマリアは無意味な足掻きを物理的に封じ込められた。
「あ……あがっ……! エリザ……! エリザァァッ!!」
床に頬を擦り付けられながら、オスカーは最後の望みをかけて、特等席に座る元妻の名を血を吐くような声で呼んだ。
しかし、エリザは微動だにしなかった。彼女は、足元で蠢く泥だらけの虫でも見るかのように、ただ冷ややかに微塵の感情も動かさずに、その光景を上から見下ろしていた。
(汚物の処理が終わりましたね)
そこには、復讐を果たした喜びすらなく、ただ事務的な確認があるだけだった。
そして、エリザの両脇に座る二人の少年ノアとカイルもまた、親たちの無様な姿を静かに見下ろしていた。
ノアは、床に押さえつけられてヨダレを垂らすオスカーを見つめていた。以前、ノアは父の関心を引こうと、オスカーに懸命に愛想を振りまき健気に頑張っていた。
(元お父様、そんなに騒いで……情けないです)
だが今はどうだろう。男は自らの罪によってすべてを失い、惨めに命乞いをして這いつくばっている。
ノアの小さな胸の中にあった父への恐怖は、すっかり消え去ってしまっていた。
(……悪いことをしたから、神様から罰を受けたんだ。それだけのことだ)
カイルもまた、髪を振り乱して狂乱するマリアの姿から目を逸らさなかった。
王宮大講堂に響き渡った裁判官の宣告は、分厚い氷の刃のように冷酷で、一切の慈悲を含まない絶対的なものであった。
木槌が硬質な音を立てて振り下ろされた瞬間、それは二人の人間が輝かしい貴族社会から永遠に放逐され、死ぬまで極寒の地で石を砕き続ける奴隷へと身分を落としたことを意味していた。
「な……っ!? ひ、氷獄……!? 嘘だ、嘘だっ!!」
一瞬の硬直の後、オスカーは鎖に繋がれた両腕を振り乱し、血走った目で絶叫した。
「嫌だ! 私は王族で侯爵だぞ! あんな太陽の昇らない凍てつく地獄で、ツルハシなど振るえるわけがない! 死んでしまう! 頼む、許してくれ! 財産ならいくらでも国に差し出す! だから氷獄だけは、氷獄だけは勘弁してくれェェッ!!」
「いやああぁっ!! 寒いのは嫌! 苦しいのも嫌ああぁっ! 誰か助けて、私をここから出して!!」
マリアもまた、長い髪を振り乱しながら石の床に転げ回り、赤ん坊のように泣き喚いた。
しかし、彼らのその醜態に同情する者は、広い法廷内にただの一人もいなかった。傍聴席を埋め尽くす貴族たちは皆、露骨な嫌悪と嘲笑の視線を向けている。
「黙れ、罪人どもが! 往生際が悪いぞ!」
屈強な衛兵たちが左右から駆け寄り、暴れるオスカーの背中を容赦なく蹴り飛ばし、マリアの腕を乱暴に捻り上げた。
かつてであれば、彼らの体に触れただけで不敬罪で首が飛んだだろう。だが、今の彼らはただの汚らわしい罪人である。
衛兵たちの腕力によって床に顔を押し付けられ、オスカーとマリアは無意味な足掻きを物理的に封じ込められた。
「あ……あがっ……! エリザ……! エリザァァッ!!」
床に頬を擦り付けられながら、オスカーは最後の望みをかけて、特等席に座る元妻の名を血を吐くような声で呼んだ。
しかし、エリザは微動だにしなかった。彼女は、足元で蠢く泥だらけの虫でも見るかのように、ただ冷ややかに微塵の感情も動かさずに、その光景を上から見下ろしていた。
(汚物の処理が終わりましたね)
そこには、復讐を果たした喜びすらなく、ただ事務的な確認があるだけだった。
そして、エリザの両脇に座る二人の少年ノアとカイルもまた、親たちの無様な姿を静かに見下ろしていた。
ノアは、床に押さえつけられてヨダレを垂らすオスカーを見つめていた。以前、ノアは父の関心を引こうと、オスカーに懸命に愛想を振りまき健気に頑張っていた。
(元お父様、そんなに騒いで……情けないです)
だが今はどうだろう。男は自らの罪によってすべてを失い、惨めに命乞いをして這いつくばっている。
ノアの小さな胸の中にあった父への恐怖は、すっかり消え去ってしまっていた。
(……悪いことをしたから、神様から罰を受けたんだ。それだけのことだ)
カイルもまた、髪を振り乱して狂乱するマリアの姿から目を逸らさなかった。
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