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わたりどり 1/2
しおりを挟むあぁ、こいつももう潮時かな。次がどうにか見つかってからにしてほしいなぁ。
なんてことを思いながら、いつものように笑顔で目の前でモンスターを切り殺した男を賞賛した。
何のためらいもなく、恥ずかしげもなく。ロールをこなすように。
周りの人間――パーティーメンバーもまた、同じく。そこには笑顔があふれている。
この世界はゲームに似ている。
なんてことを、ユッタは聞いたことがある。
全くその通りだと思った。
(現実はいつだってファンタジーだなぁ。奇跡も魔法もモンスターも――カミサマだって多分いるんだろう。本物かモドキか知ら無いし、いても人間が思う都合のいいもんなんかじゃないんだろうけど)
異常現象はある。
超能力はある。
ファンタジーはファンタジーではない。
確かにここにある。
それがどれだけ馬鹿げたことに見えても、確かにここに。
人が想像できることは現実としてありうるとはよくいったものだとユッタは思う。
(それ以前に自分がファンタジーといえばファンタジーだしねぇ……危機察知、それも弱弱しいものでしかないから、超能力的なカテゴリでいえば木っ端でしかないんだろうけど……それでも、いや、だからこそ?)
ユッタには特別な力がある。産まれた時から当たり前にもっていたもの。
普通ではなく――しかしそれは同時に弱弱しいものでもあった。
なにせ、とびきりでなければそいつが危険かわからないのだ。危機的なものかわからないのだ。
日常の――例えばそれが大けがする可能性があるものだとしても、たった1人くらいにしか影響しないなら。その程度では決して反応してはくれない役立たず。
いつかはないほうがましだと思ったほどの中途半端な力。
それだけで自分が特別だなんて思えないほど、微弱な。
しかし――ユッタは感謝していた。
より特別なものを見た時、これのせいで打ちひしがれたこともあった。特別だったはずのものが、とても小さなものだったと知れば誰だって落ち込むくらいはするだろうし、人によっては支柱が壊れるようなことになったってなんらおかしいことはない。
それでも、ユッタは感謝している。
整っている方だが、決してトップには立てないし、強い光があれば隠れてしまうだろう容姿にも。
あざとい等と同性には排斥されがちだった程度しかないが、ないわけではなかった演技力という才能にも。
決して天才とは呼べない程度でしかない自覚がある知能さえ。
ユッタは感謝しているのだ。
(とびきりのものだったらわかるんだもの。とびきりじゃないからこそ、わかることだってある)
現実はいつだってファンタジーだ。
ユッタはそれを見た時から、ずっとそう思っている。
(作者もちがいる。これは間違いないことだった)
いくつか種類があるうち――とあるとびきり達を、ユッタは作者もちといつしか呼ぶようになった。
この世界には、まるで世界に愛されたように見える人間がいる。中でも物語のようにご都合主義が動いたような。
そのことに気づいてから。
その人物の周りでは、まるでゲームのように、創作のように。
イベントが起こり、収束していくのをその目で確認した。
(主人公を見つけることが大事。そして、この力はそれによくよく役に立った――)
とびきりなのだ。
まるで創作の主人公というような人物は、とびきりの危険でもあるのだ。
神経に直接電気を流されるような感覚。人には耐えられない、焼け消えてしまうだろうと諦めてしまうような。
ユッタほどの鈍感さでも、それだけの衝撃を受けるほどの差。
それはその人物というよりも――その先の何かだということが、ユッタは鈍感だからこそ理解できるのだ。
目の前の人間ごときにこの感覚はありえない、と。
いいや、いなければおかしいのだ、ということを確信していたのだ。微弱だからこその力で。
それを用意している何かがいる事を、ユッタが推測するのはたやすい事だった。どこともなく向けてやれば、何かがあれば察知できるのだから――それが、やばければやばいものであるだけ。
(きっと、私程度で、力だけが敏感だったなら、そこで焼き切れていたことでしょう――分相応というものがあるもんね。私は私で良かったと、心から思えたよ。私だから上手くできる可能性が残されていた)
危険。
危険ではある。
しかしそれ以上に――その人物が主人公である限り、近くにうまくいることができて認められたなら――甘い汁を吸うことができることも、ユッタは知っているのだ。
バッドエンド一直線でない限りにおいて、創作というのは幸せが配置されているものだから。
そして――甘い汁以上に、それに乗ることが自らの望みをかなえる道に一番近いだろうということも。
(大事なのは、余計なことをしない事だった)
ユッタは知っている。
知ってしまっている。
そんな主人公をつくっている作者気取りより危険なモノも知っている。
ふと、自分の――それ以外の、ただただ未来というものについて考えた時に――寒気すら感じないほどの危機が、直視すればそこでショック死してしまいそうな危機があることを知ってしまっているのだ。死だけで終わらないような悪寒。
どういうことが起こるのかまではわからないし、わかりたいとも思わなかった。
(死にたくない、その危機がやがて来る場所にいたくない――生きたい。生きたかったんだ、私は。死にたくなかったんだ。出会いたくなかった。逃げたかった、何よりも怖いものから)
ただ、ユッタは死にたくなかったのだ。
そして、何よりもその異常な悪寒が走る危機と接触したくないと怯えて、逃げたかった。
だから、それよりは小さな、しかし確かに知る限り下手を踏まなければまだ安心できる巨大な力を感じる危機によりそう道を選んだのだ。
それを知るまでは、誰かれ構わずとにかく大きな力の元にいたいと媚びたりそれを馬鹿にされたりもした。それを逆に見下しながら、一定の安心を得るまでずっとずっと、ユッタは震えの中にいたのだ。いつだって、隣には恐怖があり続けた。一度知れば、それを忘れることは不可能なものだったから。
だから、願いをかなえるためには見つけねばならなかったのだ。
ユッタは自分の程度というものをよく理解していた。自分自身だけではどうにもならないことを納得している。
そうして、それを見つけたのだ。
(正解だった! 正解だった……! 私は賭けに勝ったんだ……! 間違っていなかった。媚びへつらっても、屈辱に思おうが、試行錯誤は正解だった。そのうえで、余計なことを知れてよかった……!)
足りはしない。一生どころか生まれ変わっても抜けないようなトラウマからすれば小さすぎるのだといってもいい――しかし、これより大きな力は、自分では見つけられないとも思った。ユッタは己を知っていたから、程度というものを知っていたから、それ以上を求めるのは単なる悪手だと見極めた。飛び出しそうな心を押さえつけることができた。
(ざまぁみろ! ……ざまぁみろよ! そうなる前まで私をさんざん馬鹿にしていた、見下してきたゴミ共! 私は生きるんだ、お前らと違って、私は! きっときっと私が正解なんだ! 潰されろ、潰されてしまえよ、あの怖いものに。離れることができた正解の私を、その時羨むこともできずに死んでいけ!)
そして、賭けたのだ。
まさに、ユッタにとっての人生全てをベットした。
失敗すれば――大きな存在にいとも簡単に潰されてしまっただろう。恐怖は、ないわけではなかった。
しかし――
(あぁ……とびきりじゃなくて良かった! 本当に、本当に、思い上がれるほどに優秀でなくて! 死や、近いうちに来たんだろうあれを目の前にして、人間レベルで優秀であることや天才であることが何の意味があっただろうか……!)
選んできた。
渡り歩いてきた。
薄氷の上だと知りながら。
(どういう物語なのか、それが……それを見極めるのが大切なことだった。失敗しそうな時だってあった……それでも諦めなくて、本当に良かった……)
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