4 / 15
4
しおりを挟む一人で台所に立っても良し、と母から許可がでた日から忙しい母に代わって料理は私が担当していた。
休日などはたまに母が作ってくれたり、一緒に作ったりもしているが、再婚したからといって母の仕事量が減った訳ではないので家族が増えた今でもその習慣は続いている。
これ幸いと私は葉子の助言(?)を実行することにした。
まずは義弟の好物のリサーチからだ。
これは帰宅した義父にたずねてすぐに判明した。
どうやら、義弟は卵料理が好きらしい。
そういえばこの間、夕食時にやけに機嫌が良さそうだった。
そのとき作ったご飯はオムライス。
学校でいいことでもあったのかな? 程度にしか思っていなかったけれど、もしかしたら好きなものが出て喜んでいたのかもしれない。
……そういうとこはやっぱりかわいいんだよなぁ、本当。
卵なら主菜にも副菜にも取り入れやすくてありがたい。
早速私は次の日の朝から必ず一品は卵料理を作ることに決めた。
そうして、卵料理で餌付け作戦(命名、葉子)開始から一週間。
今日の朝食はご飯に味噌汁、焼き鯖。
それとお砂糖が入った甘めの卵焼きだ。
個人的にはしょっぱい系の方が好みだけれど、甘い系の卵焼きもたまに食べたくなるもので。今日は甘めの気分だった。
ちょっぴり焦げてしまったのは、まあ、ご愛嬌ということで。
「いただきまーす」
「……」
今日も今日とて無言の義弟は、手を合わせてから食べ始めた。
作戦の効果は、なんとなく出ている気がする。
ご飯のときに限るが、いつも寄せてる眉間の皺が取れていたり、義弟の雰囲気がほんの少し柔らかくなったように感じるのだ。ほんとうに、少しだけど。
好物パワー様々だなぁと思いながら卵焼きを頬張る義弟を見る。
口元がほんのり弧を描いているので、どうやら口に合ったようだ。なによりである。
義弟は好きなものは最初に食べるタイプなようで、卵焼きは早々に無くなった。
最後の一口は味わうようにゆっくりと咀嚼している。
名残惜しげに空のお皿へと視線を向ける義弟に、おや? と内心で首を傾げながらお味噌汁を啜った。
普段なら、すぐにご飯とか他のおかずを食べ始めるのに。
「翔くん、卵焼き足りなかった?」
なんとなくピンときてたずねた言葉に義弟がぎくっと肩を揺らした。そしてもはや慣れ親しんだ、睨みを軽く一つ。
どうやらビンゴのようだ。
言い当てられたのが恥ずかしかったのからその頬は少し赤くなっていた。
分かりやすい反応に笑みが漏れる。
「まだ卵焼き残ってるけど、食べる?」
本当は、お弁当用に分けて置いたやつなんだけど。
食べ足りないと感じるぐらい気に入ってもらえたようなのが嬉しくて、思わずそう声をかけてしまっていた。
てっきりいつも通り無視されると思いきや。
「…………………………食べる」
返事が、あった。
たった一言。一言だけど。
一瞬呆気にとられた私は、すぐにはっと意識を取り戻してそれから急いで台所に向かった。
義弟が喋った。
あれほど母と私がどんなに話かけても頑なに無言を貫き通していたと言うのに。
久しぶりに聞いた義弟の声に、なんだか妙に胸がどきどきと鳴った。
おまたせ、と卵焼きを義弟に差し出した私はきっとこれ以上なく笑顔だったことだろう。
驚きと嬉しさでいっぱいになりながら、これから卵焼きは甘めのやつを作ろう、と固く心に誓った私なのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私はバーで強くなる
いりん
ライト文芸
33歳、佐々木ゆり。仕事に全力を注いできた……つもりだったのに。
プロジェクトは課長の愛人である後輩に取られ、親友は結婚、母からは元カレの話題が飛んできて、心はボロボロ。
やけ酒気分でふらりと入ったのは、知らないバー。
そこで出会ったのは、ハッキリ言うバーテンダーと、心にしみる一杯のカクテル。
私、ここからまた立ち上がる!
一杯ずつ、自分を取り戻していく。
人生の味を変える、ほろ酔いリスタートストーリー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる