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第二章
22. 告白
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「ずっと好きだった。蒼大」
ただ、ひたすらに真剣な眼差しに全身が痺れたように動けなくなる。
(祥吾が、俺を……?)
驚きで、声が出なかった。
ようやく告白されていると自覚した時、俺の頭の中に走馬灯のように浮かんだのは、早川の姿だった。
毒のように優しい、本心が見えない言葉。
いつかの、忘れられない香水の香り。
彼だけのものじゃないと知ってしまった、ミルクティー色の髪。
「なぁ、蒼大」
その声に、現実に引き戻される。
目の前には、変わらない祥吾がいた。
「俺だったら、お前を泣かせない。絶対に」
口数が少ない祥吾の告白は、それでも誠実な気持ちが伝わるには十分だった。
(そうだ。祥吾といる時は、不安になんてならない。こんなに惨めで、情けなく泣きそうになんてならない。ずっと、楽しくて、安心できて、ただ心地よくてー……)
ぐるぐると、思考は纏まらない。
茹だるような蒸し暑さがぼんやりとした頭を支配してゆく中に、懇願するような祥吾の声が響いた。
「だから、俺を選んで」
そう言った祥吾の手が、俺の頭に触れた時だった。
あの、鮮やかなヘーゼル色が蘇った。
『アンタ、この子のこと知ってるか?』
『アンタの息子は立派だって話だよ!!!』
『怖がらないで。愛されたいと願って。欲張りになって……』
そして、あの燃えるような夕焼けを思い出した。
『僕がなんだって叶えるから』
「ちがう」
気がつけば、俺はそう呟いていた。
「この手じゃない……」
髪に触れた祥吾の手が止まる。
俺の視界は、膜を張ったように揺れ出す。
それでも、胸の中から湧き上がる言葉を、吐き出さずにはいられなかった。
「俺、自分に自信がなくて、空回りして、自分の気持ちばっかり押しつけて。でも、都合が悪い現実が見えそうになった途端に、怖くなって逃げたんだ……」
でも……と、拳をかたく握る。
「やっぱり、もう一度ちゃんと話し合いたい。それが見たくない現実と向き合うことになったとしても。それくらい……、俺さ、俺……っ、あの人が……」
目頭が熱くなるのを止められない。
声が震えても、叫ばずにはいられなかった。
「好き! 大好きなんだ!」
熱い涙と共に零れ落ちたのは、どうしようもない愛の告白だった。
勝手に自分から離れる宣言をしておいて、さらに祥吾の告白で自分の気持ちに気付かされるなんて……、心底俺は最低だ。
けれど、頬を伝う涙を拭ってくれたのは、やっぱり祥吾だった。
「やっと、素直になったな」
指先が、涙の粒を優しく払う。
見上げた先にいる彼は、悲しそうな、でもどこか満足そうな顔をして笑っていた。
俺は、静かに口を開いた。
「こんな俺を、好きになってくれてありがとう」
そして、
ごめん、祥吾。
ーーそう、紡ぐ筈だった。
声を出すには、遅すぎた。
突然、視界がぶれた。
目を見開く祥吾の顔が遮られ、強引に横から顎を掴み上げられる。
唇に走ったのは、噛み付くような痛みだった。
キスをされた。
そう理解した時、見開いた視界いっぱいに広がったのは、暗闇に鈍く輝くヘーゼル色だった。
唇が、ゆっくりと離れる。
痛いほど顎を掴み上げた手はそのままに、よく知った長い指先が俺の涙の跡をなぞった。
「早川さん……」
掠れる声で、彼の名前を呼ぶ。
早川はにっこりと微笑み、熱い吐息を吐き出しながら俺の名を呼んだ。
「蒼大くん」
けれど、吐息とは裏腹に、それはぞっとするような冷たさを孕んだ声でーー……
「そんなに、好きだったんだ。……彼が」
告げられたのは、思いもよらない言葉だった。
ただ、ひたすらに真剣な眼差しに全身が痺れたように動けなくなる。
(祥吾が、俺を……?)
驚きで、声が出なかった。
ようやく告白されていると自覚した時、俺の頭の中に走馬灯のように浮かんだのは、早川の姿だった。
毒のように優しい、本心が見えない言葉。
いつかの、忘れられない香水の香り。
彼だけのものじゃないと知ってしまった、ミルクティー色の髪。
「なぁ、蒼大」
その声に、現実に引き戻される。
目の前には、変わらない祥吾がいた。
「俺だったら、お前を泣かせない。絶対に」
口数が少ない祥吾の告白は、それでも誠実な気持ちが伝わるには十分だった。
(そうだ。祥吾といる時は、不安になんてならない。こんなに惨めで、情けなく泣きそうになんてならない。ずっと、楽しくて、安心できて、ただ心地よくてー……)
ぐるぐると、思考は纏まらない。
茹だるような蒸し暑さがぼんやりとした頭を支配してゆく中に、懇願するような祥吾の声が響いた。
「だから、俺を選んで」
そう言った祥吾の手が、俺の頭に触れた時だった。
あの、鮮やかなヘーゼル色が蘇った。
『アンタ、この子のこと知ってるか?』
『アンタの息子は立派だって話だよ!!!』
『怖がらないで。愛されたいと願って。欲張りになって……』
そして、あの燃えるような夕焼けを思い出した。
『僕がなんだって叶えるから』
「ちがう」
気がつけば、俺はそう呟いていた。
「この手じゃない……」
髪に触れた祥吾の手が止まる。
俺の視界は、膜を張ったように揺れ出す。
それでも、胸の中から湧き上がる言葉を、吐き出さずにはいられなかった。
「俺、自分に自信がなくて、空回りして、自分の気持ちばっかり押しつけて。でも、都合が悪い現実が見えそうになった途端に、怖くなって逃げたんだ……」
でも……と、拳をかたく握る。
「やっぱり、もう一度ちゃんと話し合いたい。それが見たくない現実と向き合うことになったとしても。それくらい……、俺さ、俺……っ、あの人が……」
目頭が熱くなるのを止められない。
声が震えても、叫ばずにはいられなかった。
「好き! 大好きなんだ!」
熱い涙と共に零れ落ちたのは、どうしようもない愛の告白だった。
勝手に自分から離れる宣言をしておいて、さらに祥吾の告白で自分の気持ちに気付かされるなんて……、心底俺は最低だ。
けれど、頬を伝う涙を拭ってくれたのは、やっぱり祥吾だった。
「やっと、素直になったな」
指先が、涙の粒を優しく払う。
見上げた先にいる彼は、悲しそうな、でもどこか満足そうな顔をして笑っていた。
俺は、静かに口を開いた。
「こんな俺を、好きになってくれてありがとう」
そして、
ごめん、祥吾。
ーーそう、紡ぐ筈だった。
声を出すには、遅すぎた。
突然、視界がぶれた。
目を見開く祥吾の顔が遮られ、強引に横から顎を掴み上げられる。
唇に走ったのは、噛み付くような痛みだった。
キスをされた。
そう理解した時、見開いた視界いっぱいに広がったのは、暗闇に鈍く輝くヘーゼル色だった。
唇が、ゆっくりと離れる。
痛いほど顎を掴み上げた手はそのままに、よく知った長い指先が俺の涙の跡をなぞった。
「早川さん……」
掠れる声で、彼の名前を呼ぶ。
早川はにっこりと微笑み、熱い吐息を吐き出しながら俺の名を呼んだ。
「蒼大くん」
けれど、吐息とは裏腹に、それはぞっとするような冷たさを孕んだ声でーー……
「そんなに、好きだったんだ。……彼が」
告げられたのは、思いもよらない言葉だった。
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