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7. 明朝
翌朝、目覚めた僕は驚いた。
目の前に、日輪色に染まる鮮やかな赫が広がっていたのだ。柔らかく頬を擽るその髪から逃れようと身を捩れば、自身の体が逞しい腕に包まれていることを知った。
「や、山神様……?」
小さく呼びかけるが、面布に覆われた向こう側からの返事はない。
時折、寝息のような吐息が聞こえる。
どうやら、彼は僕を抱き込んだまま深く眠っているようだった。
(いつ帰ってきたのかな……)
その姿をこっそりと見つめれば、なんだか少し違和感を覚えた。
(なんだろう……。……疲れてる?)
しばらく大人しくしていた僕は、意を決してその腕から逃れた。
起こさずに寝床から出られたことに安堵し、僕は部屋を後にする。
僕の目的の場所は、昨日教わった御台所であった。
「よしっ!やるぞ……」
小さな鼓舞で、自分を奮い立たせた。
竈に火を焚き、鍋を煮立てる。
戸棚から見つけた立派な鰹節は、削って出汁をとらせてもらった。
外の畑から収穫した新鮮な人参や大根・葱を出し汁に入れ、小壺に入っていた味噌で味付けする。
桐箱から見つけた色艶の良い米を釜で炊き上げれば、真っ白な湯気と共に良い香りが御台所を満たしていった。
鍋の具合を慎重に見ていた時だった。
背後から、何やら声が聞こえてきた。
「良い匂いがするぜ!」
「こら、勝手に入っちゃ……っ」
訝しんで振り向くと、小さな影が窓から雪崩れ込むようにして降ってきた。
「ひゃぁ……っ!」
驚きのあまり、思わず悲鳴を上げる。
なんと、それは風神雷神であった。
予想外の出来事に、お玉を片手に持ったまま固まってしまう。
そんな僕を二人は見上げながら、気まずそうに呟いた。
「「ご、ごめんなさい……」」
しゅん……と項垂れる神達を見下ろす。
どのように声をかけたら良いか悩んでいると、廊下から声がした。
「はよう。人の子の朝は早いな」
それは、山神様であった。
純白の着物も真紅の袴も着崩すことなく、先程まで寝床にいた様子など微塵もない。
「申し訳ありません!起こしてしまいましたか……?」
僕は、慌てて謝まった。
しかし、山神様は機嫌よさそうに此方へ近づくと、鍋や釜の中を覗く。
「これは、なんだ?」
「朝餉の支度にございます」
「蒼は、こんなに食すのか」
しげしげと出来上がったものを眺める横顔に、そっと口を開いた。
「あの……、食べ物は嗜好品のように嗜むと仰っておられたので……あの……」
緊張してしまい、上手く言葉が出ない。
すると、山神様は少し驚いたように肩を揺らした後、静かに言った。
「我のために作ったのか?」
その言葉に、コクリと頷く。
すると、
グルルルルルルル…………っ!!!
盛大に腹を鳴らせたのは雷神であった。
次の瞬間ー…………
「はっはっは!」
御台所いっぱいに、山神様の笑い声が響いた。三人で一斉に見上げれば、彼は愉快そうに笑いながら告げた。
「では、皆でいただこう」
楽しげに揺らぐ面布に、嬉しくなる。
「「「はいっ!!!」」」
喜びの返事は、元気に揃ったのだった。
目の前に、日輪色に染まる鮮やかな赫が広がっていたのだ。柔らかく頬を擽るその髪から逃れようと身を捩れば、自身の体が逞しい腕に包まれていることを知った。
「や、山神様……?」
小さく呼びかけるが、面布に覆われた向こう側からの返事はない。
時折、寝息のような吐息が聞こえる。
どうやら、彼は僕を抱き込んだまま深く眠っているようだった。
(いつ帰ってきたのかな……)
その姿をこっそりと見つめれば、なんだか少し違和感を覚えた。
(なんだろう……。……疲れてる?)
しばらく大人しくしていた僕は、意を決してその腕から逃れた。
起こさずに寝床から出られたことに安堵し、僕は部屋を後にする。
僕の目的の場所は、昨日教わった御台所であった。
「よしっ!やるぞ……」
小さな鼓舞で、自分を奮い立たせた。
竈に火を焚き、鍋を煮立てる。
戸棚から見つけた立派な鰹節は、削って出汁をとらせてもらった。
外の畑から収穫した新鮮な人参や大根・葱を出し汁に入れ、小壺に入っていた味噌で味付けする。
桐箱から見つけた色艶の良い米を釜で炊き上げれば、真っ白な湯気と共に良い香りが御台所を満たしていった。
鍋の具合を慎重に見ていた時だった。
背後から、何やら声が聞こえてきた。
「良い匂いがするぜ!」
「こら、勝手に入っちゃ……っ」
訝しんで振り向くと、小さな影が窓から雪崩れ込むようにして降ってきた。
「ひゃぁ……っ!」
驚きのあまり、思わず悲鳴を上げる。
なんと、それは風神雷神であった。
予想外の出来事に、お玉を片手に持ったまま固まってしまう。
そんな僕を二人は見上げながら、気まずそうに呟いた。
「「ご、ごめんなさい……」」
しゅん……と項垂れる神達を見下ろす。
どのように声をかけたら良いか悩んでいると、廊下から声がした。
「はよう。人の子の朝は早いな」
それは、山神様であった。
純白の着物も真紅の袴も着崩すことなく、先程まで寝床にいた様子など微塵もない。
「申し訳ありません!起こしてしまいましたか……?」
僕は、慌てて謝まった。
しかし、山神様は機嫌よさそうに此方へ近づくと、鍋や釜の中を覗く。
「これは、なんだ?」
「朝餉の支度にございます」
「蒼は、こんなに食すのか」
しげしげと出来上がったものを眺める横顔に、そっと口を開いた。
「あの……、食べ物は嗜好品のように嗜むと仰っておられたので……あの……」
緊張してしまい、上手く言葉が出ない。
すると、山神様は少し驚いたように肩を揺らした後、静かに言った。
「我のために作ったのか?」
その言葉に、コクリと頷く。
すると、
グルルルルルルル…………っ!!!
盛大に腹を鳴らせたのは雷神であった。
次の瞬間ー…………
「はっはっは!」
御台所いっぱいに、山神様の笑い声が響いた。三人で一斉に見上げれば、彼は愉快そうに笑いながら告げた。
「では、皆でいただこう」
楽しげに揺らぐ面布に、嬉しくなる。
「「「はいっ!!!」」」
喜びの返事は、元気に揃ったのだった。
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