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第二夜
それは、心理学における現象名一つ。
子どもと同性で年齢も同じくらい、人の姿をしていることが多い。
子どもの友人として遊び相手になったり、本人の都合の良い振る舞いや、自身の思いを代弁してアドバイスを行ったりするとされる。第三者からは、その姿は見えない。
**
7月2日(土)晴れ
「黒髪で長身の男?」
面会に来ていた兄が、パイプ椅子に行儀悪く足を組みながら言った。
「そうなんだよ。昨日の夕方、病室に突然やって来て、だれ?って聞いたら、僕の友達だって……」
「お前にそんな友達いねーよ。不審者じゃん。ナースコールするか俺呼べよ」
「いやぁ、なんか悪い人じゃなさそうだったしさ」
僕がそう言うと、兄は不服そうに顔を顰めた。此方を睨んでいるが、目が大きく童顔なせいで全く怖くない。彼が首を傾げれば、短い栗色の髪がサラリと靡いた。
「つーか、お前!さっさとその足の怪我治せよな。大学の単位やべぇぞ」
「わっ、わかってるよ!耳の痛い事言わないでよ。僕だって、好きで階段から落ちた訳じゃないもん」
「本当にお前はどん臭えな」
「……おっしゃる通りです」
兄が去ると、病室は静かだった。
上半身を起こしてベッドに座りながら、ギブスの嵌った右足を眺める。
『本当にお前はどん臭えな』
言われた言葉を思い出して溜息をついた時だった。
「今日は何を見てるんだ?」
その言葉に顔を上げれば、いつの間にかパイプ椅子に男が座っていた。
『ナースコールするか俺呼べよ』
どこか遠くに響いたその声を掻き消したのは、自分の声だった。
「僕って、どん臭いなって……」
落ち込んでいました。
そう言ってから、慌てて自分の口を塞ぐ。
羞恥心で頬に熱が集まるのを感じていると、男が言った。
「そんなことないだろう?お前は何でもできる」
首を傾げれば、男が大きな手の平を翳して指折り語り出した。
「掃除が得意で綺麗好きだ。お前が掃除するおかげで部屋はいつだって清潔だし、とても過ごしやすい。料理だって得意だろう。お前が作る料理は何でも美味しいし、何度でも食べたくなる。それから、朝は早起きだし……」
突然始まった賛辞に僕は慌てて声を上げた。
「なっ、えっ?ちょ、恥ずかしいんで……、っていうか、何で…………?」
知っているんですか?
その質問は、声にはならなかった。
何故なら、彼の長い指先が僕の唇を塞ぐように翳したから。
その瞳に見つめられるだけで、触れられてもいない筈の唇が熱を帯びる。
「俺は、何でも知っている。だって、お前の…………友達だから」
友達。
こんなに美しい人に言われた言葉に、胸が震えた。それは、歓喜か。それともー……?
子どもと同性で年齢も同じくらい、人の姿をしていることが多い。
子どもの友人として遊び相手になったり、本人の都合の良い振る舞いや、自身の思いを代弁してアドバイスを行ったりするとされる。第三者からは、その姿は見えない。
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7月2日(土)晴れ
「黒髪で長身の男?」
面会に来ていた兄が、パイプ椅子に行儀悪く足を組みながら言った。
「そうなんだよ。昨日の夕方、病室に突然やって来て、だれ?って聞いたら、僕の友達だって……」
「お前にそんな友達いねーよ。不審者じゃん。ナースコールするか俺呼べよ」
「いやぁ、なんか悪い人じゃなさそうだったしさ」
僕がそう言うと、兄は不服そうに顔を顰めた。此方を睨んでいるが、目が大きく童顔なせいで全く怖くない。彼が首を傾げれば、短い栗色の髪がサラリと靡いた。
「つーか、お前!さっさとその足の怪我治せよな。大学の単位やべぇぞ」
「わっ、わかってるよ!耳の痛い事言わないでよ。僕だって、好きで階段から落ちた訳じゃないもん」
「本当にお前はどん臭えな」
「……おっしゃる通りです」
兄が去ると、病室は静かだった。
上半身を起こしてベッドに座りながら、ギブスの嵌った右足を眺める。
『本当にお前はどん臭えな』
言われた言葉を思い出して溜息をついた時だった。
「今日は何を見てるんだ?」
その言葉に顔を上げれば、いつの間にかパイプ椅子に男が座っていた。
『ナースコールするか俺呼べよ』
どこか遠くに響いたその声を掻き消したのは、自分の声だった。
「僕って、どん臭いなって……」
落ち込んでいました。
そう言ってから、慌てて自分の口を塞ぐ。
羞恥心で頬に熱が集まるのを感じていると、男が言った。
「そんなことないだろう?お前は何でもできる」
首を傾げれば、男が大きな手の平を翳して指折り語り出した。
「掃除が得意で綺麗好きだ。お前が掃除するおかげで部屋はいつだって清潔だし、とても過ごしやすい。料理だって得意だろう。お前が作る料理は何でも美味しいし、何度でも食べたくなる。それから、朝は早起きだし……」
突然始まった賛辞に僕は慌てて声を上げた。
「なっ、えっ?ちょ、恥ずかしいんで……、っていうか、何で…………?」
知っているんですか?
その質問は、声にはならなかった。
何故なら、彼の長い指先が僕の唇を塞ぐように翳したから。
その瞳に見つめられるだけで、触れられてもいない筈の唇が熱を帯びる。
「俺は、何でも知っている。だって、お前の…………友達だから」
友達。
こんなに美しい人に言われた言葉に、胸が震えた。それは、歓喜か。それともー……?
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