5 / 16
第五夜
悩みがある時に自身が作り上げたイマジナリーフレンドに質問をすれば、回答を得ることで次第に対話が可能となり、もうひとつの人格が生まれると言われている。
*****
7月5日(火)曇り時々雨
「やっぱり、毎年晩御飯の約束してない」
「あぁ」
「カレーも作ってなかった気がする」
「そうだろう?」
「僕は辛口が好きだし」
「だな」
「君は、甘口派だもんなぁ」
「全く好みが合わねぇよな」
その返事に耐えきれずに笑えば、栗色の髪を揺らして友人もゲラゲラ笑い出した。
「周りからはよく、見た目と中身が逆って言われたよね。僕達ー……」
笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙を拭えば、その向こうには、いかにも甘口が似合いそうな男がいた。
笑っている彼は、何も言わなかった。
「今夜は何を見てるんだ?」
夕方の太陽は分厚い雲に隠され、すっかり夜の気配に包まれた部屋の中で男は言った。
「空を、見てました」
そう答えれば、彼はいつものパイプ椅子ではなく、ベッドの端へと腰掛けた。
いつもより縮まる距離に、自分の鼓動が少し速くなるのを感じた。
しとしとと降り頻る雨を見つめながら、七夕の日を想う。今年はー……
「今年は、晴れるかな」
その言葉を紡いだのは、彼だった。
まさに、頭の中で思い浮かべた言葉を発した彼に、さすがイマジナリーフレンドだと感心する。しかし、そこで気がついた。
甘くて爽やかなムスクの香り。
それを嗅いでしまったのは、いつもより近い距離のせいだった。
甘い。
優しい。
大好きな香り。
知らない筈の香りだった。
知っている筈の香りだった。
「…………あの」
気がつけば、声を発していた。
「カレーは、何口派ですか?」
すると、彼は微笑んだ。
「甘口派」
雨音は、もう聞こえなかった。
*****
7月5日(火)曇り時々雨
「やっぱり、毎年晩御飯の約束してない」
「あぁ」
「カレーも作ってなかった気がする」
「そうだろう?」
「僕は辛口が好きだし」
「だな」
「君は、甘口派だもんなぁ」
「全く好みが合わねぇよな」
その返事に耐えきれずに笑えば、栗色の髪を揺らして友人もゲラゲラ笑い出した。
「周りからはよく、見た目と中身が逆って言われたよね。僕達ー……」
笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙を拭えば、その向こうには、いかにも甘口が似合いそうな男がいた。
笑っている彼は、何も言わなかった。
「今夜は何を見てるんだ?」
夕方の太陽は分厚い雲に隠され、すっかり夜の気配に包まれた部屋の中で男は言った。
「空を、見てました」
そう答えれば、彼はいつものパイプ椅子ではなく、ベッドの端へと腰掛けた。
いつもより縮まる距離に、自分の鼓動が少し速くなるのを感じた。
しとしとと降り頻る雨を見つめながら、七夕の日を想う。今年はー……
「今年は、晴れるかな」
その言葉を紡いだのは、彼だった。
まさに、頭の中で思い浮かべた言葉を発した彼に、さすがイマジナリーフレンドだと感心する。しかし、そこで気がついた。
甘くて爽やかなムスクの香り。
それを嗅いでしまったのは、いつもより近い距離のせいだった。
甘い。
優しい。
大好きな香り。
知らない筈の香りだった。
知っている筈の香りだった。
「…………あの」
気がつけば、声を発していた。
「カレーは、何口派ですか?」
すると、彼は微笑んだ。
「甘口派」
雨音は、もう聞こえなかった。
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
happy dead end
瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」
シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!