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我儘令息、辺境伯へ嫁ぐ
マーレイン辺境伯の正体1
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ルシアスの気がジゼルへと逸れたわずかな隙に、ルダンはわずかな魔力を振り絞って攻撃の術へと変えた。一瞬で皮膚を焼くほどの、火炎に襲われる。
「ルシアス様っ……!」
ルシアスの腕に直撃し、服が焼け落ちる。肉の焦げる嫌な匂いが鼻腔に届き、ジゼルは負傷した部分に回復魔法をかけようとした……が、ルシアスはそれを制す。
人間の腕にはあり得ない、銀灰色に輝く鱗が生えていた。
「よい。そなたは魔力を温存せよ」
「でも……でも!」
火炎の魔法を放ったルダンは、とうにいなかった。下の階では竜が現れたときよりも大きな悲鳴が起こっている。ルダンが下階に助けを求めに行ったのだろう。足音が徐々に近づいてくる。
「あやつ……やはりとどめを刺しておくべきだったか。じきにここへ人が来る。私の城へ帰るぞ」
「え……アノーレイ……アノーレイは?」
「そなたはこんなときでも人……いや、他の竜の心配か」
ルシアスはおかしそうに笑う。眩い光が辺りを包み、ジゼルが目を瞑った後には、ルシアスの姿は消えていた。痺れの残る身体は、先ほどの大きな竜の腕の中にいた。
「君は……」
「そなたにこの姿を見せるつもりはなかった」
碧眼の瞳が揺れる。銀灰色の鱗を纏った竜は、マーレイン領の方角へと飛んだ。
この竜はルシアスなのだ。ジゼルが嫁いだ先の、辺境を統べる男。
──僕は、この竜を知っている……。
蓋をされていた記憶が徐々に蘇る。湖に足を滑らせて落ちた日、同じ竜に救われたことを。
「ジル。何故あの男の腕を治した?」
「だって、あの出血量だと治癒師に診てもらう前に死んでしまっていた。……ルシアス様も、分かっていたんでしょう?」
竜は不貞腐れたように喉を鳴らした。
屋敷へ着く頃には、ジゼルは自力で立てるようになっていた。ルシアスの身体から降り立ったとき、金色の竜がルシアスの側に来た。ルシアスよりは小柄だが、王都で見た個体よりも充分に大きい。
二頭は元の姿に戻ると、ジゼルがよく知っている人間が現れる。
「アノーレイ!?」
アノーレイは竜の姿を解くと、その場にくずおれる。ルシアスは冷たい瞳を称えながら、アノーレイの腹を蹴り上げた。その行動にジゼルは呆然とした。何が起こっているのか、理解が追いつかない。
「私はジルの身を守れと命じた」
「申し訳、ございません」
「我が一族に弱い竜はいらぬ。貴様もあの男と同罪だ。私は貴様が殺されるのだと知って逃げるものだと思っていた。だが、私の意思は変わらぬ」
ルシアスは躊躇いもなく、風の刃をアノーレイへ向けた。ジゼルは痺れの残る足で地面を蹴り、アノーレイの前へ出た。
「ジル。何をしやる?」
「僕が……アノーレイに夜会の場から離れるよう、命じたのです。だから、どうか……アノーレイは悪くな……」
頭の中に靄がかかる。やがて言葉を紡ぐことができなくなり、ジゼルはその場へ倒れ込んだ。
「アノーレイを……ころさないで」
願いはルシアスに届いただろうか。朦朧とする中で、ジゼルは「どうか」と、ルシアスに懇願し続けた。
……────。
七つのとき、湖の畔で足を滑らせて、ジゼルは深く冷たい水底へと落ちた。水を吸った服は重りのようで、肺の中の空気を吐ききった後、藻掻く力もなくなりジゼルは静かに沈んだ。
「……は……っ」
意識が鮮明になり、ジゼルは悪い夢から逃げるようにして目を開いた。ベッドの上で仰向けになっているジゼルを、心配そうに覗き込むのはルシアスだ。目尻を下げ、悲痛そうな表情をしている。ルダンやアノーレイに向けていた殺意は、全く感じられなかった。
「ジル。無事か?」
「うん……身体があつい」
毒の類も混ぜられていたのか、と、ジゼルは浅い呼吸を繰り返す。しかし、苦しいどころか、妙にふわふわと心地よい気分なのだ。
「僕、天国に行くのかな」
ルシアスは否定した。
「案ずるな。毒ではない。だが、厄介な代物だ」
「え……?」
「ジルよ……許せ」
すでに寛げられているシャツの釦を、ルシアスは外していく。布地が素肌に擦れるだけでもどかしく、上擦った声が出る。
「あ……なんで、こんな……」
自分の身体を見下ろして、ジゼルはショックを受けた。常時と異なると分かるほど、胸の突起は鮮やかに色付き、さらに下腹のほうでは、布地が隆起していた。
盛られた薬の正体がどのようなものかと理解し、恐ろしさで震える。あのままルシアスが助けに来なければ──。
「ルシアス様……」
と呼びかけたが、慰めてと口にすることは憚られた。しかし、ジゼルの物言わぬ意思を汲み取ったルシアスは、言うことの利かないジゼルの身体に寄り添った。
「案ずるな、ジルよ。手筈は理解している。だが、私も初めてなのだ。人のやり方というものを教えてくれ」
「あ……」
ルシアスの手が、ジゼルの下腹へと伸びる。身に纏った布を取り払われ、泣き出しそうなほどとてつもない羞恥に襲われた。
中心に熱が溜まり、鈴口からは透明な蜜がとめどなく溢れる。怜悧な顔立ちをしているルシアスにじっとその様子を見つめられ、次の行動を促されているようだった。
「う……」
楽になりたい一心で、ジゼルは痛いほど張り詰めている自身へ手を伸ばした。両方の手のひらで擦り上げる速度は、快感を得れば得るほどに大きくなる。
「ルシアス様っ……!」
ルシアスの腕に直撃し、服が焼け落ちる。肉の焦げる嫌な匂いが鼻腔に届き、ジゼルは負傷した部分に回復魔法をかけようとした……が、ルシアスはそれを制す。
人間の腕にはあり得ない、銀灰色に輝く鱗が生えていた。
「よい。そなたは魔力を温存せよ」
「でも……でも!」
火炎の魔法を放ったルダンは、とうにいなかった。下の階では竜が現れたときよりも大きな悲鳴が起こっている。ルダンが下階に助けを求めに行ったのだろう。足音が徐々に近づいてくる。
「あやつ……やはりとどめを刺しておくべきだったか。じきにここへ人が来る。私の城へ帰るぞ」
「え……アノーレイ……アノーレイは?」
「そなたはこんなときでも人……いや、他の竜の心配か」
ルシアスはおかしそうに笑う。眩い光が辺りを包み、ジゼルが目を瞑った後には、ルシアスの姿は消えていた。痺れの残る身体は、先ほどの大きな竜の腕の中にいた。
「君は……」
「そなたにこの姿を見せるつもりはなかった」
碧眼の瞳が揺れる。銀灰色の鱗を纏った竜は、マーレイン領の方角へと飛んだ。
この竜はルシアスなのだ。ジゼルが嫁いだ先の、辺境を統べる男。
──僕は、この竜を知っている……。
蓋をされていた記憶が徐々に蘇る。湖に足を滑らせて落ちた日、同じ竜に救われたことを。
「ジル。何故あの男の腕を治した?」
「だって、あの出血量だと治癒師に診てもらう前に死んでしまっていた。……ルシアス様も、分かっていたんでしょう?」
竜は不貞腐れたように喉を鳴らした。
屋敷へ着く頃には、ジゼルは自力で立てるようになっていた。ルシアスの身体から降り立ったとき、金色の竜がルシアスの側に来た。ルシアスよりは小柄だが、王都で見た個体よりも充分に大きい。
二頭は元の姿に戻ると、ジゼルがよく知っている人間が現れる。
「アノーレイ!?」
アノーレイは竜の姿を解くと、その場にくずおれる。ルシアスは冷たい瞳を称えながら、アノーレイの腹を蹴り上げた。その行動にジゼルは呆然とした。何が起こっているのか、理解が追いつかない。
「私はジルの身を守れと命じた」
「申し訳、ございません」
「我が一族に弱い竜はいらぬ。貴様もあの男と同罪だ。私は貴様が殺されるのだと知って逃げるものだと思っていた。だが、私の意思は変わらぬ」
ルシアスは躊躇いもなく、風の刃をアノーレイへ向けた。ジゼルは痺れの残る足で地面を蹴り、アノーレイの前へ出た。
「ジル。何をしやる?」
「僕が……アノーレイに夜会の場から離れるよう、命じたのです。だから、どうか……アノーレイは悪くな……」
頭の中に靄がかかる。やがて言葉を紡ぐことができなくなり、ジゼルはその場へ倒れ込んだ。
「アノーレイを……ころさないで」
願いはルシアスに届いただろうか。朦朧とする中で、ジゼルは「どうか」と、ルシアスに懇願し続けた。
……────。
七つのとき、湖の畔で足を滑らせて、ジゼルは深く冷たい水底へと落ちた。水を吸った服は重りのようで、肺の中の空気を吐ききった後、藻掻く力もなくなりジゼルは静かに沈んだ。
「……は……っ」
意識が鮮明になり、ジゼルは悪い夢から逃げるようにして目を開いた。ベッドの上で仰向けになっているジゼルを、心配そうに覗き込むのはルシアスだ。目尻を下げ、悲痛そうな表情をしている。ルダンやアノーレイに向けていた殺意は、全く感じられなかった。
「ジル。無事か?」
「うん……身体があつい」
毒の類も混ぜられていたのか、と、ジゼルは浅い呼吸を繰り返す。しかし、苦しいどころか、妙にふわふわと心地よい気分なのだ。
「僕、天国に行くのかな」
ルシアスは否定した。
「案ずるな。毒ではない。だが、厄介な代物だ」
「え……?」
「ジルよ……許せ」
すでに寛げられているシャツの釦を、ルシアスは外していく。布地が素肌に擦れるだけでもどかしく、上擦った声が出る。
「あ……なんで、こんな……」
自分の身体を見下ろして、ジゼルはショックを受けた。常時と異なると分かるほど、胸の突起は鮮やかに色付き、さらに下腹のほうでは、布地が隆起していた。
盛られた薬の正体がどのようなものかと理解し、恐ろしさで震える。あのままルシアスが助けに来なければ──。
「ルシアス様……」
と呼びかけたが、慰めてと口にすることは憚られた。しかし、ジゼルの物言わぬ意思を汲み取ったルシアスは、言うことの利かないジゼルの身体に寄り添った。
「案ずるな、ジルよ。手筈は理解している。だが、私も初めてなのだ。人のやり方というものを教えてくれ」
「あ……」
ルシアスの手が、ジゼルの下腹へと伸びる。身に纏った布を取り払われ、泣き出しそうなほどとてつもない羞恥に襲われた。
中心に熱が溜まり、鈴口からは透明な蜜がとめどなく溢れる。怜悧な顔立ちをしているルシアスにじっとその様子を見つめられ、次の行動を促されているようだった。
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