冷めない恋、いただきます

リミル

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【Lesson.2】

二人の時間3

よからぬことを考えないよう、多希は家主に無断でテレビをつける。バラエティ番組のわいわいと賑やかな声を聞きながら、多希は空元気で笑った。

敷き布団の上へ座りながら、多希はアルコールで潤んだ目を明るい画面へ投げた。

「……先生? 由衣濱先生?」
「え……あっ、はい」
「お疲れでしょう。髪乾かしたら暗くするので」
「す、すみません。ちょっとぼーっとしてただけです」

久住は濡れた髪をタオルで拭きながら、冷たい水の入ったペットボトルを渡す。受け取るときに久住の手が触れたことに動揺してしまい、蓋を捻った直後、ペットボトルを敷き布団の上へ落としてしまった。

「え、わっ、わ……! すみません!」

慌てて拾うも、敷き布団には大きな染みができてしまっている。借りたばかりのスウェットにも濃い染みをつくってしまい、それを久住に指摘される。

「由衣濱先生……それ」
「……あっ」

濡れていることではなく、布が盛り上がっていることのほうに反応している声だった。多希は繕うのも忘れ、再び浴室へ直行する。

──さ、最悪……。

久住は完全に気付いていた。多希の股の間を見てしまい「あっ」というような顔をしていた。多希が同性愛者なのだと、確信はしなくとも脳内でよぎっていることだろう。

騙していたわけではないが、この状態を見られてしまった以上、どのような言い訳も通じない気がする。そもそも今日飲みに誘ったのは多希のほうなので、「本当は久住の家に泊まるのが目的であわよくば……」と、思われていてもおかしくはない。

「由衣濱先生」
「その……すみません。黙ってて。すぐに……」
「俺に手伝わせてくれませんか」

──え、な……何を?

緊張で乾いた喉からは、動揺する声すら出てこない。一人でおろおろしているうちに、多希の後ろのドアが開いた。

「久住さん……っ」

多希の身体にぴったり寄り添うように、久住は身体を近付ける。一切の迷いもなく、多希のスウェットのゴム部分に指を入れた。

「や……」
「これ。溢したやつか、先生のやつか、どっちか分からないですね」

下着の色が変わった部分を指差しながら、久住は少し興奮の孕んだ声で囁いた。久住の手が両膝の間に割り込んでくる。多希は咄嗟に足を閉じて久住の手を拒もうとしたが、遅かった。

久住の手を逆に離さまいとしているような格好になってしまった。久住はそれを「続きをしてもいい」というサインに置き換えたらしく、多希の内腿をやわやわと撫でてきた。

「久住さ……だ、ダメです」
「だめって、もうイきそうって意味ですか?」
「ち、ちが……」

久住の低く意地悪な声が、思ったよりも近くでする。

──久住さんって、もしかして、俺と同じ……。

講師と生徒。頭ではいけないことだと分かっているのに、歯止めが利かなかった。正直、久住を初めて見たときに、惹かれてしまったのだ。

望みのない恋だと分かっていても。少し見上げる身長差、大きく節張った手、心地のいい耳に馴染むような声。仕事で久住と一緒にいる時間が積み重なるほど、好きになる理由は増えていく。

今まで付き合ったどの男よりも、久住は多希の理想に近かった。恋人の理想像というものを多希は事細かに描いてはいなかったのだが、当てはめるとしたら、久住そのものだ。

「先生の声。かわいいですね」
「ん……!」

下着に手をかけ、久住はさらに甘く囁いてくる。あんなに飲んでいなかったら、きっと正常な判断もできていたかもしれない。一度は押し固めていた感情が、久住に触れられると、もう自分の意思では止められない。

知られてもいい。興味本位でもいい。久住を知りたいと、胸の奥がじんと疼く。

自らも腰を上下させ、久住が多希の服を脱がせるのを手伝ってやった。冷たい床に肌が触れ、多希はぶるっと身体を震わせる。久住に促され、二人でまだ明るいリビングへ戻り、中断した行為を再開する。

「電気……消してください」
「先生の可愛い顔、ずっと近くで見たいのに」
「恥ずかしいんです」

一夜限りの相手にリップサービスで似たような台詞を何度か吐かれたことはある。心が浮かれるような経験など今までなかったのに、久住は違う。

嬉しさと羞恥が入り混じった感情が、焦れったくてくすぐったい。久住はベッドサイドにあるリモコンを操作すると、帳が降りたみたいに柔らかい暗闇と沈黙に包まれる。

何だか都合のいい夢でも見ているような気がする。酔いの中、多希はそんなことをぼんやりと思う。
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