Broken happy

たいが

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1話

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あの日から、お兄ちゃんは変わってしまった。私に接する時あまり変わっていないように見えるが、少し元気がないように見える。私の知らないところでなにかしているのだろうか。始まりは3年前、私が11歳の時だ。両親は科学者でとある島に向かっていた。その途中、飛行機の事故に遭い亡くなってしまった
早苗「うっ、うっぅ、うゎー」
私は泣いていた、ただひたすらに。親が帰らぬ人となって悲しい気持ちと、これからどうしたらいいかという不安、そしてお兄ちゃんもどこかえ行ってしまうのではないかという恐怖、私はお兄ちゃんに抱きついていた
裕一「...ッッ...」
お兄ちゃんは泣くのを我慢していた。おそらく私を不安にしないためだろう。体が小刻みに震えていた。
早苗「これから私達..どうなるの..お兄ちゃん...」
しばらく時間がたち少し落ち着いたのでお兄ちゃんに聞いてみる。
裕一「心配すんな、全部何とかする、俺が...」
私の不安が伝わったのだろう。笑って優しく言ってくれた。でもお兄ちゃんの顔はとても悲しそうだった。
裕一「……大丈夫だから……今はゆっくり休んでろよ」
そう言ってお兄ちゃんは階段を上がって行った
早苗「……うっ……グスッ……うわぁああああん」
もう限界だった。今まで溜め込んでいたものが一気に溢れ出してきた。
どれくらい泣いたんだろう。泣き疲れて眠ってしまったようだ。目が覚めると外はまだ薄暗かった。時計を見るとまだ朝の4時半だった。
裕一「起きたのか?」
リビングのソファーに腰掛けていたお兄ちゃんが話しかけてくる。肩には毛布がかけられていた。お兄ちゃんが起こさないように毛布だけ置いてくれたのだろう。
早苗「うん、もう大丈夫...お兄ちゃん、今日早いね」
裕一「寝れなくてな...」
それからしばらくの間沈黙が続いた。お互い何か話さないといけないと思いながらも何を話せば良いかわからなかったのだ。
早苗「私ね、思うんだ、いつまでも泣いてたりしたらお父さんとお母さんも悲しくなっちゃうんじゃないかって。」
沈黙を破ったのは私だった。ずっと考えていたことを言葉にする。
裕一「……そうだな、きっと悲しんでると思うぞ、特に母さんなんかお前の笑顔、大好きだったからな」
早苗「……うん、だから前を向いて歩いて行こうと思うんだ、いつか二人が安心して眠れるように」
裕一「……ああ」
お兄ちゃんは何も言わずに静かに聞いていた。そしてまた長い沈黙が続く。今度はお兄ちゃんの方から口を開いた。
裕一「これからも、今までと変わらずくだらないことで笑って、泣いて、怒って、辛くなっても、生きていかなきゃいけない」
お兄ちゃんの声は静かだが力強かった。
裕一「それが生きているものの義務なんだ」
早苗「うん...そうだね!!」
そうして少し気分が明るくなり1年がたった。
裕一「早苗、12歳の誕生日、おめでとう!」
食卓にはご馳走が並んでいた。
早苗「ありがとう!、お兄ちゃん!」
とても嬉しかった、未だにお父さんとお母さんのことは気にしてるけどそれでも少しマシになっていた。夜になり私はベッドに入った。明日は学校なので早めに眠りについた。
ピピッピピッ 目覚ましの音で目を覚ます。いつも通り支度をして家を出る。すると家の前に見知らぬ男がいた。
おそらくお兄ちゃんが壊れて行ったのはこの辺りからだろう。
男は私の手首を掴み家の玄関に押し倒される。朝早いので誰も見ることがなく扉が閉まる。
早苗「いや...やめ..」
男の手がスカートに近づく。
必死に抵抗するが力で勝てるはずもなくスカートを脱がされそうになる。その時ーーーーーー パスンッ
男の背中から血が飛んできた。
兄の手には先の方に長い筒がついているピストルが握られていた。その銃口から煙が出ている。
裕一「大丈夫か!?早苗」
早苗「うっ……うん……」
一瞬何が起こったのかわからなかった。理解したくなかったのかもしれない。男の手が僅かに動き呻きながら地面を張っている。扉はしまっていて開けるのは無理そうだ。
兄が振り返り男の頭に数発打った。
裕一「早く死ねよ、カスが」
その顔は冷たく笑っていた。とても冷たくて怖い笑顔。
そして男は動かなくなった。
早苗「お兄ちゃん……」
裕一「…………」
兄は黙って私の服を整えてくれた。
早苗「……ッッ……」
涙が止まらなかった。私の知らない兄がそこにいた。
裕一「さっきの男が誰かわかるか?」
早苗「ううん……」
裕一「そっか」
早苗「なんでお兄ちゃんがそんなものを持ってるの!?」
裕一「これは...」
早苗「それにあの人……死んでたよね?どうして殺したの!?」
裕一「それはーーーお前を...」
早苗「私を守るため!?私あの人を殺してなんて言った?なんで警察を呼ばなかったの?最後に頭を撃つ必要あったの?まだ、救急車を呼べば助かったかもしれないのに」
裕一「……俺は...」
早苗「ねぇ答えてよ!!お兄ちゃん!!!」
裕一「お前のためなら何でもするって決めたんだ」
早苗「だからあんな人を簡単に殺せたの?」
裕一「ああ」
早苗「ッッ……」
もう何も言えなかった。
それから数日が経った。ニュースでは殺人のことが報道されていた。犯人は捕まっていないらしい。お兄ちゃんがやったとは誰にも言えない。私はお兄ちゃんを信じている。お兄ちゃんは悪くない。でも、もしあそこでお兄ちゃんが警察に電話していたらどうなっていただろう。私の日常が壊れることはなかっただろう。今でも思う。あの選択は正しかったのか。
でも今更後悔しても遅いのだ。
2年後。
まだ朝の7時、
裕一「少し、出かけてくる」
そう言って玄関から外に出て行った
19時になっても帰ってこず連絡も来なかった。心配になり探しに行こうか悩んだが用事が長引いてるだけだろうと思い家で待機することにした。
そして3時間後、電話が鳴り響いた。
電話の相手は警察だった。「あなたのお兄さんが、亡くなりました」
早苗「え……どういうことですか……?」
警察は淡々と話を続けた。19時頃河川敷が燃えているとの通報があり、行ってみると肉が焼け焦げたような匂いがしたそうだ。急いで消化すると火の中からは男性と思われる遺体が見つかった。全身が焦げており性別すら認識するのが難しかったらしい。しかし現場の近くに兄が通っていた高校の学生証が落ちておりそれで分かったらしい。
早苗「嘘だ……嘘だよぉ……グスッ」
もう泣き叫ぶしかなかった。
私はこの日を境に笑うことを止めた。親をなくし更には、兄すら無くしたのだ。
それからは何一つとして希望が生まれなかった、私はまだ14歳の子どもだったので親戚の家に引き取られることになったが親戚に頼み何とか自分の家に住ませてもらえることになった。受け入れ先の親戚も家に知らない子供がいるのは嫌だったのだろう。1人音のないリビングで電気の着いていない部屋の天井を見つめる。視線を戻しリビングを見る。視界に家具が映る。自分の見ている世界の色が消えていた。何を食べても味がしなくなり、体の感覚さえ分からなくなってきていた。そしてある日のこと、私は突然倒れた。原因不明で医者にはストレス性のものだと言われた。両親はいなくなってしまったがお兄ちゃんだけはずっとそばにいる。それだけが唯一の救いであり生きる理由となっていたが兄がいなくなってからは生きる理由を見いだせずにいた。
倒れてから1週間ほどたった。体は回復したが心までは癒えることは無かった。
早苗「もう...疲れた」
私は病院の屋上に来ていた。柵を越えれば死ねるだろう。
早苗「……お父さん……お母さん……お兄ちゃん……ごめんなさい……」
そう呟くと足を前に出しそのまま落ちた。
落ちる瞬間世界はスローモーションのようにゆっくりと動いて見えた。
でも、神様は私を死なせてはくれなかった。気を失ってはいたものの無傷というありえない結果になった。
失敗したら体が動かなくなったりすると思っていたのに傷ひとつなかった。
早苗「どうして……どうして……」
涙が止まらなかった。また死にたいと思ったが、その度に家族の事を思い出してしまいできなかった。
その日から2年が経った。
毎日自殺しようと考えていたが結局できなくて、今日もまたのうのうと生きてしまっている。
そんな日々を繰り返していた。
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みんなの感想(1件)

sora
2023.04.17 sora

長くていい

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