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第4章:魔導師ケットネーゼの弟子、マンマチャック
1:土人
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地の魔導師ケットネーゼは言った。
「どうせ石になるならここがいい! 日当たりが良いし、動物達も沢山いる! マンマチャックよ、事の全てが終わったら、必ず戻って来い! そして、石になったわしを磨け! 手向けの花も忘れるなよ! おっと、食べ物も忘れるな!! 達者で暮らせよっ! がっはっはっはっ!!」
豪快なその表情には、己の人生に対する後悔の念は微塵もなかった。
そうして、石になってしまった師を前に、マンマチャックは旅に出る決意をした。
ここは、山々に囲まれた東の土地。
小さな村が点在するこの土地は、王都から最も離れた国の端に当たる。
その一角、一際高くそびえ立つ、人を寄せ付けないボボバ山に、五大賢者の一人である地の魔導師ケットネーゼは暮らしていた。
弟子を務めるはマンマチャック。
茶色の肌をしたこのマンマチャックは、太古からこの地に暮らす先住民族であるタンタ族と、肌の白い王国民との間に生まれた混血児である。
それはつまり、魔導師ケットネーゼと、その妻であったナンナテッカの子どもだということだ。
母親の血を濃く受け継いだマンマチャックは、タンタ族特有の小太りな体格に、丸まった癖毛が特徴だ。
ただ、その顔はケットネーゼの生き写しそのもので、凛々しい太眉とつぶらな瞳、分厚い唇が印象的だ。
性格はやや生真面目ながらも、基本的には温厚で、山に暮らす動物達と遊ぶ事と、食べる事が大好きな青年だ。
そんなマンマチャックも、五大賢者の弟子として、師から受け継いだペンダントを胸に、王都を目指すのであった。
ケットネーゼの最後の願いはこうだ。
「魔導師クレイマンを探せ! そして伝えてくれ! 三十年前、お前が密かに楽しみにしていたティモンパイを食べたのは、このケットネーゼだと! がっはっはっはっ!!」
全身が石になる謎の現象に陥りながらも、ケットネーゼがマンマチャックに頼んだのはそんな事だった。
しかし、マンマチャックも馬鹿ではない。
口ではそんな事を言いながらも、ケットネーゼがこの国の行く末を案じている事ぐらい理解していた。
そして、偉大な魔導師である父でさえどうにもできないことが、この国で起こっているのだという事も……
何が起きているのかは皆目検討もつかないが、それでも旅に出た。
クレイマンを探し、この国に今何が起きているのかを確かめる為に。
住み慣れた家を離れ、ボボバ山を下ること数日。
雨の降る中、マンマチャックは、ようやく視界に村を捉えた。
小さいながらも山の恵みに支えられ、穏やかな空気の漂う村だ。
山の動物達に別れを告げて、マンマチャックは村へと入った。
村人たちは皆、マンマチャックを見て不思議そうな顔をする。
「おい、土人だ……。何故この村にいるんだ?」
村人達の囁きが、マンマチャックの耳に届く。
マンマチャックは、出来るだけ目立たないようにと、身に付けているローブのフードを深く被った。
古くからこの地に暮らすタンタ族。
彼らは、後からやって来た他民族である現王国民達から、分かり易い差別を受けていた。
タンタ族は、自然と共生する為に、必要最低限の物しか作らない。
故に、時代が進んだ今もなお、森の奥深くに暮らすタンタ族達は、動物の毛皮を身に纏い、石槍を持って狩りをする、所謂原始的な生活を送っている。
その姿から彼らは、知能の低い野蛮な民族であると、王国民より蔑まされ……
その結果、彼らを貶める呼称として、土人という呼び名で呼ばれる事もしばしばあった。
だが、今現在、マンマチャックは魔導師の衣服を身に付けている。
それはケットネーゼから受け継いだ、複雑な魔除けの刺繍が施された、一見高価に見えるローブだ。
タンタ族の風貌でありながら、そのような衣服を身にまとうマンマチャックの事を、村人たちが不思議がるのは至極当然の事だった。
それと同時に村人たちは、マンマチャックに疑いの目を向けていた。
土人は高度な文化を持たない、遅れた慣習のみで生きる野生人だという認識が、人々の間では広まっている。
そんな土人が、魔導師のローブを身につけているということは、誰かから盗んだのではないかと、村人たちは考えているのだ。
しかしながら、マンマチャックにそれを尋ねる者はいないし、近付く者さえいない。
野蛮な土人に関わる事なかれ……、そういった古臭い考え方が残っているのは、辺境のこの村も王都も同じ事。
マンマチャックはそれを理解して、できるだけ目立たないようにと道の端を歩き、小さな宿屋に入っていった。
宿屋のカウンターでは、小さな女の子が店番をしていた。
マンマチャックを見るなり、女の子は目をまん丸にして、声こそ出さないが、大口を開けて驚いた。
マンマチャックは、できるだけゆっくりと、静かに歩き、爽やかな笑顔でカウンターに向かう。
女の子も、そんなマンマチャックの様子に安心したのか、警戒心を解く。
「こんにちわ。あの、今晩泊まる所を探しているのだけど、部屋は空いてますか?」
マンマチャックの丁寧な物言いに、女の子は笑顔になる。
「あ、はいっ! お一人様、二十センスになります」
女の子の言葉に頷いて、マンマチャックはポケットから二十センス分の硬貨を取り出して渡した。
そのついでに、ポケットに入っていた綺麗な薄紅色の小石を、女の子にプレゼントした。
その夜、宿屋の部屋の窓辺で、雨が上がって雲一つない星空を眺めながら、マンマチャックは考えていた。
この先、どうやって王都を目指すべきか。
別段、急いでいるわけではない。
馬を買うにはお金がかかる。
ならば、地道に歩いて行くか……
しかし、あまりのんびりもしていられない。
ケットネーゼの身に起きた事、その原因がわからない以上、自分の身にいつそれが起こり得るかも定かではない。
やはり、お金をかけてでも馬を買うべきか……
だが果たして、この村で馬が手に入るだろうか?
見たところ、馬屋には良い馬が何頭も並んでいたが、タンタ族である自分に売ってもらえる馬などあるだろうか?
マンマチャックは、溜め息を一つついた。
「どうせ石になるならここがいい! 日当たりが良いし、動物達も沢山いる! マンマチャックよ、事の全てが終わったら、必ず戻って来い! そして、石になったわしを磨け! 手向けの花も忘れるなよ! おっと、食べ物も忘れるな!! 達者で暮らせよっ! がっはっはっはっ!!」
豪快なその表情には、己の人生に対する後悔の念は微塵もなかった。
そうして、石になってしまった師を前に、マンマチャックは旅に出る決意をした。
ここは、山々に囲まれた東の土地。
小さな村が点在するこの土地は、王都から最も離れた国の端に当たる。
その一角、一際高くそびえ立つ、人を寄せ付けないボボバ山に、五大賢者の一人である地の魔導師ケットネーゼは暮らしていた。
弟子を務めるはマンマチャック。
茶色の肌をしたこのマンマチャックは、太古からこの地に暮らす先住民族であるタンタ族と、肌の白い王国民との間に生まれた混血児である。
それはつまり、魔導師ケットネーゼと、その妻であったナンナテッカの子どもだということだ。
母親の血を濃く受け継いだマンマチャックは、タンタ族特有の小太りな体格に、丸まった癖毛が特徴だ。
ただ、その顔はケットネーゼの生き写しそのもので、凛々しい太眉とつぶらな瞳、分厚い唇が印象的だ。
性格はやや生真面目ながらも、基本的には温厚で、山に暮らす動物達と遊ぶ事と、食べる事が大好きな青年だ。
そんなマンマチャックも、五大賢者の弟子として、師から受け継いだペンダントを胸に、王都を目指すのであった。
ケットネーゼの最後の願いはこうだ。
「魔導師クレイマンを探せ! そして伝えてくれ! 三十年前、お前が密かに楽しみにしていたティモンパイを食べたのは、このケットネーゼだと! がっはっはっはっ!!」
全身が石になる謎の現象に陥りながらも、ケットネーゼがマンマチャックに頼んだのはそんな事だった。
しかし、マンマチャックも馬鹿ではない。
口ではそんな事を言いながらも、ケットネーゼがこの国の行く末を案じている事ぐらい理解していた。
そして、偉大な魔導師である父でさえどうにもできないことが、この国で起こっているのだという事も……
何が起きているのかは皆目検討もつかないが、それでも旅に出た。
クレイマンを探し、この国に今何が起きているのかを確かめる為に。
住み慣れた家を離れ、ボボバ山を下ること数日。
雨の降る中、マンマチャックは、ようやく視界に村を捉えた。
小さいながらも山の恵みに支えられ、穏やかな空気の漂う村だ。
山の動物達に別れを告げて、マンマチャックは村へと入った。
村人たちは皆、マンマチャックを見て不思議そうな顔をする。
「おい、土人だ……。何故この村にいるんだ?」
村人達の囁きが、マンマチャックの耳に届く。
マンマチャックは、出来るだけ目立たないようにと、身に付けているローブのフードを深く被った。
古くからこの地に暮らすタンタ族。
彼らは、後からやって来た他民族である現王国民達から、分かり易い差別を受けていた。
タンタ族は、自然と共生する為に、必要最低限の物しか作らない。
故に、時代が進んだ今もなお、森の奥深くに暮らすタンタ族達は、動物の毛皮を身に纏い、石槍を持って狩りをする、所謂原始的な生活を送っている。
その姿から彼らは、知能の低い野蛮な民族であると、王国民より蔑まされ……
その結果、彼らを貶める呼称として、土人という呼び名で呼ばれる事もしばしばあった。
だが、今現在、マンマチャックは魔導師の衣服を身に付けている。
それはケットネーゼから受け継いだ、複雑な魔除けの刺繍が施された、一見高価に見えるローブだ。
タンタ族の風貌でありながら、そのような衣服を身にまとうマンマチャックの事を、村人たちが不思議がるのは至極当然の事だった。
それと同時に村人たちは、マンマチャックに疑いの目を向けていた。
土人は高度な文化を持たない、遅れた慣習のみで生きる野生人だという認識が、人々の間では広まっている。
そんな土人が、魔導師のローブを身につけているということは、誰かから盗んだのではないかと、村人たちは考えているのだ。
しかしながら、マンマチャックにそれを尋ねる者はいないし、近付く者さえいない。
野蛮な土人に関わる事なかれ……、そういった古臭い考え方が残っているのは、辺境のこの村も王都も同じ事。
マンマチャックはそれを理解して、できるだけ目立たないようにと道の端を歩き、小さな宿屋に入っていった。
宿屋のカウンターでは、小さな女の子が店番をしていた。
マンマチャックを見るなり、女の子は目をまん丸にして、声こそ出さないが、大口を開けて驚いた。
マンマチャックは、できるだけゆっくりと、静かに歩き、爽やかな笑顔でカウンターに向かう。
女の子も、そんなマンマチャックの様子に安心したのか、警戒心を解く。
「こんにちわ。あの、今晩泊まる所を探しているのだけど、部屋は空いてますか?」
マンマチャックの丁寧な物言いに、女の子は笑顔になる。
「あ、はいっ! お一人様、二十センスになります」
女の子の言葉に頷いて、マンマチャックはポケットから二十センス分の硬貨を取り出して渡した。
そのついでに、ポケットに入っていた綺麗な薄紅色の小石を、女の子にプレゼントした。
その夜、宿屋の部屋の窓辺で、雨が上がって雲一つない星空を眺めながら、マンマチャックは考えていた。
この先、どうやって王都を目指すべきか。
別段、急いでいるわけではない。
馬を買うにはお金がかかる。
ならば、地道に歩いて行くか……
しかし、あまりのんびりもしていられない。
ケットネーゼの身に起きた事、その原因がわからない以上、自分の身にいつそれが起こり得るかも定かではない。
やはり、お金をかけてでも馬を買うべきか……
だが果たして、この村で馬が手に入るだろうか?
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マンマチャックは、溜め息を一つついた。
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