五人の賢者 〜白の王と黒い竜〜

玉美-tamami-

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第5章:出会いは偶然か、必然か……

1:王都

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「王都ヴェルハリスへようこそ。お名前と出身地、滞在期間と滞在理由は?」

 国衛軍の青い軍服に身を包んだ、凛々しい顔つきの男が尋ねる。

「名前はリオ。五大賢者であるクレイマンさんの弟子です。出身は北西のベナ山です。滞在期間は決めてなくて……。人を探しに来たので、その人が見つかるまでは王都にいるつもりです」

 リオは、自分よりもはるかに背の高い男に向かって、臆することなくそう言った。
 リオの言葉を聞き、男の表情が変わる。
 男は齢四十ほどに見えるのだが、まるで何かを悟ったかのように、す~っと息を吸い込んだ。

「なるほど、クレイマン殿の……。しかし、遥々遠くから来てくれたところ申し訳ないが、滞在期間は長くても一か月だ。それ以上は移住とみなし、住民税を払う義務が生ずる。……これは余談だが、もし一か月以上かかりそうならば、一度王都を出て、数日後にまた入ればいい」

 男は優しく微笑んで、リオに旅行者証を手渡す。
 旅行者証は、旅の者が王都で生活する為の必需品だ。
 王都への出入りにはもちろんの事、何かを買ったり、宿に泊まる際にも必要となる。

「ありがとう!」

 旅行者証を受け取ったリオは、それを大事そうに服の内側にしまった。

 王都ヴェルハリスは、十五年前に王位についた十七代目の国王によって、近年急速な発展を遂げていた。
 それと並行するように、町での犯罪が増え、国衛軍の働きも忙しくなっているようだ。
 以前は、旅人の王都への出入りは申請などなく自由だったと聞くが、今では旅行者証を発行しなければならないほどになってしまっているらしい。
 リオの前にも後にも、沢山の人達が王都へ入る為の旅行者証を発行してもらおうとひしめいていた。

 とうとう、辿り着いたんだ……

 リオは深く息を吸い込んで、頭上を仰ぐ。
 王都をぐるりと囲む灰色の石の外壁が、余所者を中には入れまいと威圧してくるようだ。
 その一部をくりぬいて作られている巨大な門が、まるで大きな魔物の口のようにリオには見えた。

 ここからだ……、ここから全てが始まる…… 

 強い決意を胸に、リオは王都へと足を踏み入れた。





 門の内側は、リオにとって、まるで別世界だった。
 見た事もないような石造りの高い建物がいくつも並び、荷車とは程遠い煌びやかな装飾が施された馬車が、きちんと整備された石畳の道を走っていく。
 聞こえてくるのは陽気な音楽と、沢山の人々の声。
 あちこちに人がいて、往来が激しく、リオは目が回ってしまいそうになる。
 大人たちは商売に勤しみ、子ども達は楽しげに通りを駆けていく。
 様々な衣服を身に纏った人々は、これといって統一性もなく、皆が皆自由に生きている、という雰囲気である。
 通りには多種多様な店が並び、鮮やかな色に町は溢れている。
 活気があるというのは、正しくこういうことを言うのだろう、とリオは思った。

 人の波に流されるように大通りを歩いていくと、前方に、妙な人だかりを発見した。
 小柄なリオは、人の間をすり抜けて、人だかりの中心にあるものを目にした。
 そこにいるのは、若い大人の男が三人と、馬を連れた見慣れない風貌の青年だ。

「だからよぉ、俺様にぶつかった罪を、その馬で許してやろうってんだよ、あぁ?」

 三人のうち、真ん中に立っている男が、決して気持ちの良くない口調でそう言った。
 他の二人はにやにやと笑いながら、ズボンのポケットに手を入れて、だらしのないポーズでその場に立っている。
 リオはなんとなく、その三人が悪い奴等なのではないかと考える。

「断ります。自分は、あなたにぶつかっていないし、罪も犯していません。何度も言うように、この馬は知人から頂いた大切な馬です。差し上げるわけにはいきません」

 見慣れない風貌の青年が、冷静な口調でそう言った。
 こちらの方は、肌が茶色く小太りで、あまり見た事のないような顔つきをしているが、何故だか好印象を感じるリオ。
 もう少し近くに行って、状況を知りたいと思ったリオは、さらに歩を進めようする。
 しかし、近くにいた大人の女に腕を捕まれた。

「坊や、駄目よ。それ以上前に行くと狙われるよ……」

 女は、心配そうな顔でリオを見下ろしている。

「あの……。何があったんですか?」

 キョトンとした表情で尋ねるリオに、女は顔をしかめる。

「坊や、知らないのかい? 他所から来たのかい?」

 リオは、そんな話はどうでもいいと言わんばかりに、女から視線を外す。

「あの三人はね、ここいらじゃ有名な悪党なんだ。あの真ん中の男、親が資産家でね。逆らった者はみんな職を失ったり、酷い目に遭ってるんだよ。それに……。あの、絡まれている方の男は、タンタの者だろうからね……。誰も助けやしないさ……」

 女の口からは、聞きなれない言葉が沢山出てきた為、リオは人に頼る事をやめた。
 人に聞いてわからない事は、自分で確かめればいい。
 そう思って、リオは女の手を逃れ、人だかりをかき分けて、三人の男達と見慣れない風貌の青年の前に姿を現した。

 リオの行動に、周りで見ていた人々が騒めく。
 口々に、「馬鹿、よせ!」「こっちに戻れっ!」などと言っている。
 しかしリオは、そのような言葉などお構いになしに、四人に近付いていく。

「あの、何があったんですか?」

 リオの言葉に、三人の男達と、見慣れない風貌の青年が、一斉にリオを見た。
 人々のざわめきが更に大きくなる。
 三人の男達は、それぞれに顔を醜く歪ませて、リオを睨みつける。
 見慣れない風貌の青年はというと、少しばかり、先ほどより緊張した面持ちになった。

 リオは首を傾げる。
 いったい何が起こっているのか、この場で全く理解出来ていないのはリオだけだろう。
 長年、山奥で、クレイマンとのみ過ごしてきたリオには、様々な経験が不足している。
 その為か、今この状況を目にしても、何が問題でどうすれば解決するのか、などという事は全く分かっていないのだ。
 目の前の見慣れない風貌の青年が、国民から忌み嫌われるタンタ族という一族の血を引く者であり、その外見のために謂れのない因縁をつけられて、町の厄介者達に絡まれている、……などという発想は、全くもって念頭にないのである。
 ただ単に、もし誰かが困っているのなら、自分にできることがあるかも知れない、という漠然とした正義感のもと、ここに立っているのだった。

「誰だてめぇっ!? 餓鬼はすっこんでろっ!!」

 三人のうち、真ん中の男が怒鳴る。
 リオは少し驚いたが、後半部分の言葉の意味が分からず、何を言われたのか理解できなかった。
 言葉が通じないのかも知れないと思ったリオは、視線を移す。

「あの……、あなた、お名前は?」

 今度は、見慣れない風貌の青年に尋ねるリオ。

「あ……。自分は、マンマチャックと言います」

 マンマチャックの言葉に、どうやらこちらの人は言葉が通じるようだと笑顔になるリオ。

「僕はリオです、よろしく。何があったんですか? それは、あなたの馬ですか?」

 リオは、できるだけ丁寧な物言いで尋ねる。
 クレイマンから、初めて会った人と話す時は丁寧な言葉で話しなさい、と教わっていたからだ。

「あ、はい。これは自分の馬です。けれど、あの方達がよこせと言うので、断っていたところです」

 マンマチャックは、どうしてこんな小さな男の子が仲裁に入ったのかと、不思議に思いながらも答える。

「じゃあ、どうしてこの馬を欲しいのですか? 馬が必要なのですか?」

 今度は、三人の男達に向かって尋ねるリオ。
 その余りの丁寧さと、空気が読めていない雰囲気に、真ん中の男の額には青筋が走る。

「うるせぇっ! そいつは俺様のもんだぁっ! 逆らう奴は容赦しねぇぞぉっ!」

 男は、懐から刃物を取り出して、リオに向かって走り出す。
 マンマチャックは咄嗟に、リオを守ろうと腕を伸ばす。
 突然の出来事に、周りからは悲鳴が上がり、人だかりが大きく揺れる。

 常人ならば、それは一瞬の出来事で、反応すらできなかったかも知れない。
 だが、リオは違う。
 リオには、それら全ての動きが、スローモーションの如く、細部まで見て取れた。
 男がこのまま走れば、おそらく、リオの左腕に刃物が突き刺さるだろう。
 マンマチャックがリオを庇えば、その右肩に刃物が突き刺さってしまうだろう。
 周りの人々は騒ぐだけで、きっと何もしてくれないだろう。

 だとしたら、やっぱり……

「僕しか、いないじゃないか」

 リオは、小さくそう呟いて、右手をふっと男にかざした。
 そして、その小さな手の平から、紅の炎を放った。
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