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第9章:立ち向かう勇気
6:洞窟のドワーフ
しおりを挟む「わしの名はチムッキ。さっきおめぇが言うたように、ドワーフ族じゃ。ここより遥か北に位置するドワーフの国より、この洞窟に鉱石採掘をしに来とるんじゃて」
チムッキと名乗ったドワーフ族の男は、洞窟内をずんずん進んでいく。
四方八方に枝分かれする道には目もくれず、ただただ真っ直ぐに、暗闇を歩いて行く。
リオは、ドワーフ族など初めて見聞きする種族である為に、ジロジロとチムッキを観察する。
マンマチャックは、このままこのチムッキについて行っていいものなのかと少々戸惑っているし、ジークは、どうでもいいから早くマハカム魔岩を手に入れたいと考えている。
エナルカは、またもや奇妙な種族と出くわしてしまったと混乱しているし、テスラは、本で読んだことのあるドワーフ族が目の前にいる事がちょっぴり嬉しく感じられて、がらにもなくドキドキしていた。
「ここにある破魔の石は、そりゃもう質がええでの。わしの国でも重宝されとるんじゃ。そんで、小さいもんが大きく育つまで、他のもんが下手に掘り出さんように、わしが管理しておるんじゃよ」
なるほど、それでドワーフ族の者がここにいるのか……、と、五人が納得できるわけもなく……
しかし、チムッキは話を続ける。
「クレイマン殿とは古くからの友人での。何度もここに破魔の石を採りに来ておった。最近はめっきり見かけんようになったが……。弟子が来たとなると、おおよその見当はつくのぉ」
チムッキは、少し悲しげな声でそう言った。
「クレイマンさんは、その……」
話すべきかどうか迷うリオ。
「いや、話さんでもええ。分かっておる……。わしも、少しばかり話を聞いておったからの。この国に巣くう、邪悪なる力の恐ろしさとやらを……。おめぇら五人が、その最期の仕事を任された、そういう事じゃろう?」
チムッキは、何もかもを悟ったかのように、そう言った。
余計な事を言わずとも、このチムッキは、今この国に起きていること、その現状を把握しているようだと、五人は思う。
「本来ならば、手土産を貰いたいところじゃが……。急を要する事じゃろうて、対価は後日で構わん。ほれ、そこがわしの住処じゃ」
チムッキが指さす前方には、洞窟の中だというのに、天井が抜けて外の光が差しこむ、小さな明るい空洞が現れた。
そこには木製の小屋が建てられており、どうやらチムッキの家らしいと五人は判断した。
「ちょいと、ここらで待っとれ」
そう言って、チムッキは小屋へと入って行った。
ずっと暗い洞窟内を歩いてきた五人は、眩しすぎるほどの外の光に目を細める。
今まで土や岩だけだった地面には草花が生え、朝露に濡れたその体に日の光を浴びて、キラキラと光を反射させていた。
「ドワーフ族って何なんだ?」
ぶっきらぼうに、ジークが尋ねる。
「書物でしか拝見した事がないのですが……。ここより遥か北の地に住まう、妖精の一族であると記憶しております。とても働き者な一族で、鉱石採掘を生業としているとか……。しかし、我が国との交流はなく、その存在は国民には知らされていないでしょう」
テスラの言葉に、ジークは「ふ~ん」と呟く。
「クレイマン様と、お知り合いのようだったわね?」
辺りをキョロキョロと見渡しながら、エナルカが言った。
「そうみたいだね。一応僕も、会った事があると思ったんだけど……」
「彼は覚えていないようでしたね。まぁ、あまり小さい事を気にするタイプには見えませんでしたから」
リオの言葉に、マンマチャックは少しばかり皮肉を込めてそう言った。
すると、小屋の中で何やらゴソゴソとしていたチムッキが、その手に大きな箱を持って外に出てきた。
「クレイマンの為にととっておいたもんじゃが、おめぇらに渡すしかもう使い道はないじゃろて……」
ドスン! と箱を地面に置いて、その蓋を開けるチムッキ。
その中には……
「あ……、あぁっ! これはっ!?」
五人は一斉に息を飲んだ。
「邪悪なる力の根源を封印する為、破魔の石を磨いて欲しい。クレイマンはわしにそう言うておった。いつ取りに来るのかと、ずっと待っておったが……。これを、クレイマンの弟子である、おめぇらに託そう。クレイマンの意志を、しっかりと受け継いでいるおめぇらにのぉ」
チムッキはそう言って、箱の中にある物を取り出し、五人に一つずつ、それらを手渡していった。
五人の手の中で七色の光を放つそれは、間違いなく、マハカム魔岩でできた、美しいブローチだ。
そしてそれは、師である五大賢者が、弟子であるリオ達に託したペンダントのものよりも遥かに大きく、またそれらが放つ魔力は、もっとずっと強大なものであると、五人は感じていた。
「それを持って、邪悪なる力とやらに立ち向かえ。若き五人の魔導師たちよ」
そう言ってチムッキは、出会って初めての笑顔を、リオ達五人に見せたのだった。
風神フシンの背に乗って、リオ達は空を行く。
太陽は高く昇り、さんさんと光り輝いていた。
眼下に広がる景色は森ばかり。
しかし、そのところどころで、村だったであろうものの陰が、いくつもいくつも存在していた。
竜の子ワイティアの思念体は、王都周辺の村や町を、次々と白い炎で消し去っているようだ。
何故このように残酷な事ができるのかと、五人は心を痛めていた。
『エナルカ。あそこがモルトゥルの森の深部……、妖精の森だ』
フシンが視線を向けるその先には、これまで以上に木々が密集して生い茂る、深く薄暗い森が見えてきた。
「フシン様、あの森の手前で私達を下ろしてください」
エナルカの言葉に従って、フシンは徐々に高度を落としていき、リオ達五人は、王都より東の地、モルトゥルの森の深部へと足を下ろした。
リオ達を背から下ろしたフシンは、すーっと風のように消えていった。
「ここが……、妖精の森」
辺りを見渡して、息を飲むリオ。
「本当に、とても静かですね」
マンマチャックは頭上を仰ぎ見て、森が薄暗いのは生い茂る木々のせいかと考える。
「しかしまぁ……、すげぇなここは。確かにここなら、マハカム魔岩に魔力を込める為に、十分過ぎる程の魔力があるぜ」
ジークはそう言って、地面に咲き誇る一凛の花に視線を落とした。
一見すると、とても儚げで、か弱そうに見えるその花からは、美しく穏やかな魔力が流れ出ている。
ジークの言ったように、このモルトゥルの森の深部である妖精の森には、そこかしこに魔力が満ち満ちているのだ。
木々より出る魔力、草花より出る魔力、大地そのものから出ている魔力。
様々な種類の魔力が森全体を覆い、五人には計り知れないほどの大きく強い力が、辺りには流れていた。
「しかし、ここはまだ境目に過ぎません。もっと深く、森の奥へと参りましょう」
テスラが四人を促した。
「……おい、チビ女。またおぶってやろうか?」
乱暴な物言いながらも、フシンを呼び出した事によって疲れてしまったエナルカを、気遣うジーク。
「チビ女って言わないでよ!」
疲れてはいるけれど、負けん気だけは人一倍なエナルカ。
「あ~あ~分かったよ。エナルカ、ほら、早く乗れ」
そう言ってジークは、エナルカの前で背を向けて、膝をついた。
エナルカは、少々恥ずかしがりながらも、再度ジークの背に乗った。
「ねぇ、ここって、妖精の森なんだよね?」
歩き出そうとした四人に対し、リオが問い掛ける。
「ロドネス様はそのように仰っていましたね。それが何か?」
マンマチャックが問う。
「じゃあさ、あそこにいるのは……、妖精?」
リオは、前方を指さしてそう言った。
リオの言葉に、四人は一斉に、その指が差す方を見やる。
そこには、深緑色の、足首まであるとても長いローブに身を包み、フードを目深に被った何者かが立っており、そして……
「ようこそ、モルトゥルの森の深部、妖精の森へ。私が案内して差し上げましょう」
透き通るような美しい声で、そう言った。
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