五人の賢者 〜白の王と黒い竜〜

玉美-tamami-

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第10章:銀竜の巣

4:イルクナード

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「ルーベル様……、ルーベル様!」
  
 どこか懐かしさを覚えるその声に、ルーベルはゆっくりと目を開く。

「ルーベル様! 大丈夫ですかっ!?」
  
 その目に映ったのは、今にも泣き出しそうな顔をした、テスラだった。

「テ、スラ……。あぁ、テスラ……。良かった、無事だったんだね……」
  
 微笑むルーベル。
 ゆっくりと身を起こして、自分の身に何が起きたのだろうと辺りを見渡す。
 すると、その目に何かを捉えるより先に、その鼻が、何か強烈な腐敗臭を嗅ぎ取った。

「なんだ、この臭いは?」
  
 まるで、食べ物が腐ったかのような……、いや、焼け焦げたような匂いも混じっている。

「臭いの原因はあれだ」
 
 見覚えのない、大層体の大きな青年が、顎をしゃくる。 
 そこにあるものは、銀竜ワイティアの亡骸に守られる、竜の子ワイティアの卵……、だったものだ。  
 銀色の巨大な卵は、その殻にヒビが入り、所々が粉々に砕けていて、中にあったものが外へ出てしまった事を物語っていた。
 ただ、その殻の中や周りには、ルーベルでさえも見たことのない、何なのかわからない緑色のネバネバしたものが大量に撒き散らされており、それが強烈な悪臭を放っているのだった。

「まさか……、生まれて、しまったのか?」
  
 ルーベルの問い掛けに、テスラもジークも、答えることが出来なかった。
 ようやく意識がはっきりしてきたルーベルは、先ほどの出来事を思い出し、二人に尋ねる。

「リオは? リオはどこだ??」
  
 ルーベルの問い掛けに、テスラは後方を指差す。
 そこには、地面に倒れたままのリオと、涙をポロポロと流しながら治癒魔法をかける見慣れぬ服装の少女、そしてもう一人、こちらも治癒魔法を行使している最中であるタンタ族の青年がいた。

「息はあるのですが、かなり衰弱していて……。先ほどからああして、エナルカとマンマチャックが回復を試みているのですが、一向に目を覚まさないのです」
  
 テスラの言葉に、ルーベルは立ち上がり、フラフラとした足取りでリオの元へと歩いて行く。
 ルーベルに気付いたエナルカは、ギュッと唇を噛み締め、大粒の涙を流しながら言った。

「もしかしたら、何か呪いをかけられて、それで、目を覚まさないのかも知れません……。うぅ、リオ~」
  
 絶望的なその様子に、ルーベルはガクッと膝をつき、項垂れる。

「リオ……。すまない、私が付いていながら……。なんという事だ、クレイマンの弟子を、失うとは……」
  
 ルーベルの言葉に、マンマチャックがピクリと反応する。

「まだ、失ったわけではありません。必ず戻ってくる……。リオは弱くない。めちゃくちゃな奴ではあるけれど、そんな、簡単に諦めるような、腰抜けではありません。自分の使命を果たさぬままにこの世を去るなんて……。リオがそんな事をするはずがありません」
  
 マンマチャックの力強い言葉に、ルーベルが顔を上げる。

「命の光が消えない限り、治癒魔法は有効だ。ああしていれば、もしかしたら、目覚めるかも知れねぇだろう?」
  
 背後から、ジークがルーベルに問うた。

 魔法では、死者を蘇らせる事は出来ない。
 如何なる方法を用いても、死した者を助ける事など不可能なのだ。
 だが、生きている者であれば、必ずや救う道はある。
 それが、ルーベルの信じる魔法であった。
  
 ルーベルは静かにリオに近づいて、その額に優しく手を当てた。
 そして、ゆっくりと、語りかける。

「リオ……。お前は、まだ死すべき時ではない。戻ってこい。仲間の元へ……、友の元へ、戻ってくるのだ……」

 リオの心の中に語りかけるルーベル。
 治癒魔法を続けるエナルカとマンマチャック。
 その様子を、心配そうに見守るテスラとジーク。
 ここにいる全員が、リオの復活を望み、神に祈りを捧げていた。





「……ここは、どこだろう?」
  
 気がつくとリオは、真っ白な空間にいた。
 一瞬、王都の光の城にある、玉座の間にでもいるのかと思ったが……
 どうやらここは、もっとずっと広くて、果てのない空間のようだ。
 四方八方を見渡すも、視線の先には、どこまでもどこまでも、眩しいほどの白が続いていた。

「初めまして、リオ・クレイマン」
  
 不意に声をかけられて、振り向くリオ。
 そこにあるものに、リオは驚き、目を見開いた。

「あ、あなたは……、もしかして……。銀竜、イルクナード!?」
 
 リオの目に映ったのは、見上げるほどに大きな体を持った、偉大なる銀竜だ。
 眩いばかりの光を放つ、身体中の銀色の鱗。
 尾は長く、爪は鋭く、背中に生えた翼はとても美しい。
 そして、見た事のない、荘厳なる金の瞳が、リオを優しく見下ろしていた。

「我が名はイルクナード。竜の王にして、このヴェルハーラの地を守護する神である」

 深みのある声でそう言ったイルクナードに対し、リオは少々困惑する。

「でも、あなたは……。ずっと昔に、亡くなったはずでは? だってさっき……、僕はあなたの亡骸を見ました! なのにどうして!? ……そもそもここは、どこなんですかっ!?」
  
 矢継ぎ早に質問するリオ。

「まず最初に……。ここは、お前の心の中だよ、リオ。我は今、お前の心の中に入り込み、語りかけている。お前が言ったように、我はもう、この世には存在しない者。しかしそれは、肉体の話だ。我の心、我の魂はまだ、消滅してはいないのだ」
  
 イルクナードの言葉に、リオは頭の中を必死に整理する。

「じゃ、じゃあ……、えと……。どうして!? その……、イルクナードの魂が、僕の心の中にいるのですか!?」
  
 懸命に問いかけるリオを見つめ、目を細めるイルクナード。

「我は、お前に真実を告げ、未来への道を切り開くために、ここへ来た。いいか、リオ・クレイマン。これから我が話すことをよく覚えて、目覚めた時に、お前の仲間達にしかと話して聞かせるが良い。さもなければ、このヴェルハーラは、死と灰の世界になってしまうだろう」
  
 イルクナードの言葉にリオは、息を飲み、呼吸を止めて、静かにその話に耳を傾けた。
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