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第11章:決戦の時
1:再会
しおりを挟む風神フシンの背に乗って、リオ達は一路、王都を目指す。
時刻はまだ昼間であるはずなのに、空には灰色の雲がどこまでも広がっていて、世界を暗闇へと閉じ込めていた。
ものの数時間で、リオ達はその目に王都を捉えた。
しかし、それはもはや、リオ達の知っている王都ではなかった。
王都の北側にある、屈強であるはずの国壁は無残にも砕かれ、町は白い炎に包まれていた。
王都の中央に位置する光の城も、ところどころが崩れ落ち、以前の美しく壮大であった城の面影はどこにもない。
王都の上空は、これまで以上に分厚い黒い雲に覆われていて、時折その中で、ピカリと稲妻が走る様子が見て取れる。
間違いなく、竜の子ワイティアの仕業であると、リオ達は唇を噛みしめ、拳を握りしめた。
『エナルカ、これ以上は近付けぬ。このまま進めば、邪悪なる者に気付かれてしまう』
王都より少し手前の森の上で、フシンは止まった。
「分かりました! ありがとう、フシン様! ここで降ろしてください!」
フシンの背を下り、森へと入るリオ達。
すると……
「止まれぇっ!」
四方八方から、武器を手に持った国属軍の兵士達が現れて、リオ達六人を取り囲んだ。
兵士達は皆、疲れの色が濃い怯えきった顔をして、とても興奮した様子でリオ達を見つめている。
「武器を下ろせっ! 我を誰と心得る!? ヴェルハーラ王国国属魔導師団長、ルーベル・メウマであるぞっ!」
威厳に満ちたルーベルの言葉に、兵士達はたじろぎ、後退る。
「ルーベル……? おぉ、ルーベル! 無事だったかっ!」
兵士達の間をかき分けて姿を現したのは、国属軍団長のオーウェン・ポロロスだ。
「オーウェン! 良かった、生きていたかっ!」
力強く抱き合うルーベルとオーウェン。
「一年前にお前が城を出て行った時は、何を血迷った事をと思ったが……。なるほど、私が間違っていたようだ」
悔しそうに、顔を歪めるオーウェン。
「お前に責任はない、オーウェン。全ては竜の子ワイティアの強大な魔力故だ。それよりも、ここに五大賢者の弟子達を連れてきた。彼らならあるいは……、いや、必ずや、竜の子ワイティアを倒してくれる!」
ルーベルの言葉にオーウェンは、リオ達五人の存在に気付く。
「おぉ……、君達はあの時の……。よくぞ無事で。すまなかった。私が未熟なばかりに……」
リオ達に向かって、深く深く、その頭を下げるオーウェン。
しかしリオ達は、そのようなオーウェンの謝罪など望んでいない。
「顔を上げてくださいオーウェンさん。謝らなくてもいいです。オーウェンさんは何も悪くないんだから」
リオの優しい言葉に、オーウェンはゆっくりと頭を上げ、そして……
「なっ!? リオ!? なんだその姿はっ!? 何があったっ!?」
リオが、悪魔の姿へと変貌してしまっている事にようやく気付いたオーウェンは、目を見開いて驚いた。
それと同時に、周りの兵士達もリオの姿に気付いて、リオに向かって武器を構える。
だがしかし、オーウェンはすぐさま態度を改めた。
「皆の者、武器を下ろすのだ! この者は、姿形こそ我々が恐れるべき者ではあるが……、心に思う事は皆変わりない。このヴェルハーラを救おうと、命を懸けて戦ってきた者だ!!」
オーウェンの力強い言葉に、兵士達は戸惑いつつも、手に持った武器を下ろした。
「色々と事情があってな……。どこか、落ち着いて話せる場所はあるか?」
ルーベルの問い掛けに、オーウェンが頷く。
「すぐそこの、フダの樹が群生している森に……。少数ではあるが、ワイティアの攻撃から逃れる事の出来た者達の為に、避難所を設置している。そこで話を聞こう。そして、これからどうすればよいのか、作戦を立てようではないか」
オーウェンの言葉に従って、ルーベルとリオ達五人は、フダの樹の森の避難所へと向かった。
フダの樹は、王国領土内に生息する他のどの種類の木よりも背丈が高く、また高所で葉が沢山生い茂る。
その為に、それらが群生するこの森は、身を隠すにはうってつけの場所だ。
森には、オーウェン率いる国属軍のテントがいくつも張られており、沢山の人々が避難していた。
人々は皆、一様に疲れきった顔をしており、髪の毛や衣服が焼け焦げていたり、土や煤で汚れていたりしている。
負傷している者も大勢いるようで、テントの中からは苦しそうな呻き声が多数聞こえてきた。
避難所の中で、一際大きなテントへと案内された、ルーベルとリオ達五人。
歩く道すがら、悪魔の姿をしたリオや、体の大きなジーク、見慣れぬ服装のエナルカに、タンタ族の風貌であるマンマチャック、更には赤と青のオッドアイを持つテスラと、見るからに異質な者たちの集まりであるリオ達五人に対し、人々は不審な目を向けていた。
しかしながら、いつぞやの盛大なパレードを覚えている者も中にはいて、辺りからは何やらひそひそと声が聞こえてきたが……
リオ達五人はそれを聞こうとはしなかったし、彼らの視線にも全く臆さなかった。
自分達の成すべきことはただ一つ、竜の子ワイティアの暴走を止める事。
それだけを胸に、リオ達は前を見据えていた。
テントの中に入るオーウェンとルーベル、そしてリオ達。
中は、ただ地面に一枚の敷物が敷かれているだけの、とても簡素な造りだ。
真ん中には明かりが灯ったランプが吊るされているものの、他にある物といえば、水が入っているのであろう小さな壺が二つと、就寝用の物と思われるくたびれた毛布が数枚だけ。
「敵の攻撃が急だったものでな……。ほとんどの者が、手ぶらで逃げてきたようなものなのだ。ここにある物資は、なんとか無事であった馬を走らせて、近くの町から調達してきた物なのだが……。つい先ほど戻ってきた者の話によると、ここから一番近い隣町も、火の海になったという事だった」
オーウェンは、大きく息を吐きながら、敷物の上にドカッと腰を下ろした。
「これまでの事、そして今何が起きているのかを、話して聞かせてくれるか?」
オーウェンの言葉に、ルーベルは頷いて腰を下ろし、続いてリオ達も腰を下ろした。
ルーベルは、十五年にも及ぶワイティアの強力な魔法の事、その正体、リオ達五人がワイティアに対抗し得る力を手に入れた事などを、とても分かりやすく、簡潔にオーウェンに伝えた。
オーウェンは、時折質問を挟みつつも、全てを理解してくれたようだ。
「なるほどそれで……。となると、これからどう動くかが問題だな」
「その事なのだが……。今、王都はどうなっている?」
ルーベルの問い掛けに、オーウェンは額に手を当てて項垂れる。
「分からぬ……。本当に、一瞬の出来事だった。北の空から黒い雲が広がってきたかと思うと、無数の雷が落ちてきたのだ。そしてそれらは、町の家々に火をつけ、王都は白い炎に飲み込まれた。その時点ではまだ、何が起きたのか皆目見当もつかなかった。王に報告せねばと、玉座の間へと走って……、その時に、ようやく私は理解したのだ。ワイティアなどという名の王族はいなかったはず……。ホードラン様の跡を継ぐべき者は他にいたはずではなかったか、とな……。しかし、時既に遅しとは正にこの事。落雷によって、城は大きく崩れ、私はわずかな兵士達と共に、生き残った民を引き連れて王都を出た。それが、ほんの数時間前の事だ。ようやく、近くの町から物資が届いたかと思えば、その町も焼け落ちたと兵士は言う……。もう、私には成す術がなく……」
そこまで話して、オーウェンは言葉を詰まらせた。
小刻みに震えるオーウェンの背を、ルーベルが優しくさする。
「大丈夫、大丈夫だ……。お前は一人ではない。これからどうするべきか、ここにる皆で、共に考えよう。その為にはお前の知識も必要だ。気をしっかり持ってくれ」
ルーベルの言葉に、オーウェンは大きく深呼吸をし、気持ちを落ち付かせる。
「済まない、取り乱した。では……、これからどうするか、だが……。北地区はほぼ壊滅し、他の地区にも火の手が回っている。王都にはもはや安全な場所などない。しかし……。竜の子ワイティアはおそらく、まだ、光の城にいるはずだ」
オーウェンの言葉に、リオ達は首を傾げる。
何故、自らが滅ぼそうとする王都の、壊したはずの城の中に、ワイティアはまだいるというのだろうか?
「それは確かか?」
「あぁ。東門を守っていた兵士が、見張台よりそれを確認したのだ。白く巨大な竜が、光の城の中心へと降りていく姿をな」
「だけど……、どうして? ワイティアは何故、滅ぼそうとしている王都の城に、今もなおその身を置いているのでしょうか?」
テスラの問い掛けに、答えを出したのはリオだった。
「もしかしたら……、弱っているのかも知れない」
その言葉に、マンマチャックがハッとする。
「そうか。ワイティアは、本来ならとうの昔に死したはずの体を、無理矢理動かしてここまで来た……。リオの言う通り、弱っているんです、きっと」
「じゃあ……、あいつは今、あの城の中から動けねぇって事か?」
ジークの問には、エナルカが答える。
「きっとそうね、そう考える他ないわ。だとすれば……、倒すなら今よ! 休んで回復されちゃひとたまりもないもの。弱っている今のうちに、倒しに行きましょう!」
エナルカの言葉に、マンマチャック、ジーク、テスラは頷く。
しかしリオは……
「でも……、それも罠だとしたら?」
リオにしては疑り深く、核心をついたかのようなその言葉に、皆が言葉を失う。
「え……、罠って……、どうしてです? 私達をおびき寄せる為、とか?」
テスラの問い掛けに、リオは首を横に振る。
「理由は分からないけれど……。でも、僕達は一度騙されている。オーウェンさんも、ルーベルさんも、国中の人々が十五年もの間ずっと、騙され続けてきたんだ。そんな事をしてきたワイティアが、弱っているにしても、おとなしく城の中にいるなんて……。なんだか裏があるような気がする」
必死に、何かを考えているリオ。
「けど、弱っているのは事実だと思うぜ。あの異臭……、間違いなくワイティアの肉体は腐っていた。いくら魔力が強かろうが、この世に死者を蘇らせる魔法なんてない。ましてや、数百年も昔に朽ち果てた自分の体を再構築するだなんて。尚更無理だ。奴が弱っているうちに何か手を打たねぇと……」
ジークがそう言った。
「ならばやはり、今やらねばなるまいな……。私に案がある。皆、聞いてくれるか?」
ルーベルの言葉に、皆はルーベルを見つめた。
そして、その口から告げられた作戦に、リオ達五人は同意した。
「やってみましょう! 自分達が力を合わせれば、出来るはずです!」
マンマチャックは拳を握りしめ、立ち上がる。
「よし、そうと決まれば、すぐさま兵士を集めよう」
オーウェンも立ち上がって、テントの外へといち早く出て行った。
「リオ、よろしいですね?」
テスラの問い掛けに、リオは頷く。
「だけどテスラ……。僕の傍を離れないでね、いい?」
リオの言葉、その真っ直ぐな瞳に、言葉の真意は分からないものの、テスラはこくんと頷くのであった。
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