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第11章:決戦の時
7:光
しおりを挟む熱い……、体が燃えているみたいだ……
ワイティアの体内に侵入したリオは、生きていた。
産まれてすぐ、炎の中に落とされても平気だった悪魔の子であるリオは、燃え盛るワイティアの白い炎でさえも耐え抜いたのだ。
だがしかし、長居すれば命を落とす事になると、リオは理解していた。
四方八方を埋め尽くす、燃えるような熱を持った真っ赤な肉壁が、リオの体を溶かそうと迫ってくる中で、喉を真っ直ぐに降りて、ワイティアの臓器の中へと到達したリオは、あらん限りの声で叫んだ。
「テスラ~! テスラ~! どこ~!?」
だがしかし、返答はない。
この真っ赤な世界の中で聞こえてくるのは、ドックン、ドックンという、荒々しいワイティアの心臓の音と、ズザザザザ~という、血管の中を流れていく血液の音だけだ。
それでもリオは諦めない。
いつか、クレイマンが言っていた言葉を思い出していた。
「もし、森で迷子になった時は、気を鎮めて、私の魔力を探すのだ。人は皆、多かれ少なかれ、その体の中に魔力を持っている。それは人によって種類が異なる上に、色も違う。だから、常日頃から私の魔力をよく見て、覚えておくといい。そして、困った時はそれを探すのだ。さすれば道は開けるだろう」
リオは、乱れた呼吸を整えて、心を落ち着かせる。
そして、静かに目を閉じて、辺りに漂う、かすかなテスラの魔力の出所を探し始める。
テスラ、大丈夫。
僕が見つけ出して、助けてあげるからね。
周りの肉壁がうねり、リオをその体内に取り込もうと動き始める。
更に熱を帯びたそれは、怪しい体液をリオの背にある翼に垂らして、溶かし始めた。
鈍い痛みが、リオの背に走る。
それでもリオは、探し続けた。
テスラの持つ、優しくて暖かな、紫色に輝く光の魔力を。
そして……
「見つけたっ! 上だっ!」
リオは、溶け始めた翼を必死に羽ばたかせ、真っ赤な肉の天井を目指す。
するとそこには、熱い肉壁に四肢が埋もれ、魔力を吸い取られて衰弱し、真っ黒だった髪が真っ白に変色してしまったテスラの姿があった。
「テスラ!? テスラ、しっかりしてっ!?」
テスラの、真っ白な頬に両手を当てて、呼びかけるリオ。
だがしかし、もはや事切れる寸前のテスラは、目を開かない。
リオは、一か八か、禁じられた魔法を試す以外に方法はないと悟った。
それは、自分の命を削り、その生命力を相手に分け与える魔法であった。
「テスラ、お願い……。死なないで」
リオは、角の生えた自分の額を、そっとテスラの白い額に合わせた。
そして一心に、己の中に溢れる命の力を、テスラの中へと流し込んだ。
その昔、クレイマンがリオにしてくれたのと同じように…
するとテスラは、その赤と青の瞳を、静かに開いたではないか。
「……リ、オ? ……リオ?」
「テスラ!? あぁ、良かった! 良かったっ!」
満面の笑みを見せるリオ。
しかし、その体力、魔力はもはや底をついていて……
安堵したリオは、ふっと意識を失い、そのまま真っ赤な肉の地面へと落下していった。
「リオ!? リオッ!? くっ……、このっ……」
肉の地面にグシャッと落ち、うねうねと動く肉壁に取り込まれそうになるリオを目にしながら、テスラは必死に体を動かす。
なんとか両手を肉壁から抜き出せたところで、テスラはその首に下げていたネックレスに手をかけた。
それは、テスラの母である、五大賢者が一人、ロドネス・ブラデイロより授かりし、黒竜ダーテアスの牙。
黒竜の血を引くダース族の、選ばれし者のみが持つことを許される、竜化の術が施されたネックレスだ。
つい先ほどまで、テスラは夢を見ているかのように、ワイティアの所業をその目で見ていた。
厳密には、ワイティアの一部となって、ワイティアの目に映るものを、テスラは見ていたのだ。
故に、今ワイティアが空を飛んでいること、マンマチャックやリオの攻撃で、随分と弱っている事を知っていた。
ならば、今ここにいる自分がやるべき事、リオを助ける方法は一つしかない……
テスラは覚悟を決めて、全魔力を解き放とうと、巨大な光の魔法陣を生成した。
光の属性である紫色のオーラと、銀竜イルクナードより授かりし雷の属性である銀色のオーラをまとった、とても強力な魔法陣である。
そして、テスラの額には、銀色に輝く竜の紋章が浮かび上がっていた。
「私はどうなってもいい。リオを……、この国を、救いたいっ! 母さん、父さん、私に力を貸してっ!!」
テスラは光の魔法を発動させ、己の全魔力を解き放った。
その手に、あのダーテアスの牙を、力いっぱい握りしめながら……
一方、地上では。
「あんの馬鹿……、いったい何考えてやがんだっ!?」
事の一部始終を見ていたジークが、額に青筋を走らせて怒る。
「何か考えがあるのではないでしょうか? さすがに……」
ジークの回復魔法によって目を覚ましたマンマチャックも、今しがた目にしたリオの思いもよらない行動の意味を、必死に考えながらそう言った。
「考えがあるって絶対ないでしょっ!? なんでっ!? どうして口の中に自分で入って行ったのっ!?」
パニック気味のエナルカは、いつもの倍の速さで口を動かした。
「まさか……、テスラが生きているのではないか?」
未だ目を覚まさないルーベルを抱えたまま、オーウェンがそう言った。
「生きてるって……、おいおい、そりゃねぇだろうよ。いくら丸呑みにされたからって、相手は銀竜だぜ? しかも、テスラの力を吸って、自分の力に代えた野郎だ。そんな奴の中で、まだ生きているだなんて……。あり得ねぇだろう」
想像もしたくないとばかりに、顔を歪めるジーク。
「現実はそうだとしても、ワイティアがリオを唆したのかも知れない……。リオは馬鹿正直だから、ワイティアの言葉に騙されたのかも知れません」
マンマチャックは、どうか違って欲しいと思いつつも、そうとしか考えられない、といった口調で話した。
「そんな……。じゃあ、リオまで……? そんなの嫌よぉっ!」
大粒の涙を流しながら、エナルカは魔法陣を創生し、風神フシンを呼び出した。
『エナルカ、この空を飛ぶのは危険だ』
現れたフシンは、飛ぶ事を拒む。
「構いませんっ! 銀竜の所へ……、リオの所へ連れて行って!」
フシンの助言に耳を貸すこともせず、涙ながらにそう言ったエナルカは、無理矢理にフシンの背に飛び乗ろうとする。
「馬鹿野郎っ! ほとんど魔力の残ってねぇお前が行ったところで、無駄死にするだけだぞっ!?」
ジークがその大きな手で、エナルカの体を引っ張って、フシンの背から降ろそうとする。
「でもっ! でもリオまで失うなんてっ!」
必死になって、フシンの背にしがみつくエナルカ。
ジークの手を振り解こうと、めちゃくちゃに体を揺する。
「ばっ!? やめろって!」
あまりに強く引っ張る事も出来ず、しかし手を離せば飛んで行ってしまいそうなエナルカの様子に、慌てるジーク。
そんな二人の攻防を他所に、空を見上げ続けていたマンマチャックが……
「様子が……。ワイティアの様子がおかしいですよ」
小さな目を凝らしながら、そう呟いた。
その言葉に、ジークとエナルカも頭上を見上げる。
真っ暗闇の空の中、一際光を放つ銀竜ワイティアの体。
そして、その光はどんどんどんどん大きくなっていき……
ギュララララァ~!!!
真っ白な光に飲み込まれるかのようにして、ワイティアの肉体は消滅した。
そして、眩い光の中に現れたのは、ワイティアに比べれば、随分と小さな竜。
その背にリオを乗せた、光り輝く、美しい黒竜の姿だった。
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