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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

418:ミッション3

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【ミッション3:ホムンクルスを殲滅せよ!】


   パカラッ! パカラッ!! パカラッ!!!

「お!? 見えてきたぞっ!??」

   カービィの声に、俺は前方を見やる。
   そこには、まるでどこぞの国壁の様な、大きくて平たい三つの岩が並んでいた。

   朝食を済ませ、テントを片付けて、俺たちは早々に移動を開始。
   昨日と同じくカービィは箒、ギンロはレズハンの背に乗り、俺とカサチョとメラーニアはゲイロンの背に跨った。
   森の中を小一時間ほど走ると、無事、目的地である三子岩まで辿り着いたのだった。

   グレコが言っていた様に、タウラウの森は三子岩の場所で突然に終わっていた。
   立ち並ぶ巨大な三つの岩の向こう側は、不自然なくらいに真っ直ぐな、なんの変哲もない平原が広がっている。
   グレコとケンタウロス達、アイビーと白薔薇の騎士団の残留メンバーはまだ到着していないらしく、その姿は見当たらなかった。

「よし、着いた……、って、なんじゃありゃ?」

   先頭を飛んでいたカービィが、三子岩の中央の岩の付近に降り立ち、その向こう側を見るなりそう言った。
   何か見えるのだろうか? と、足を止めたゲイロンの背から飛び降りる俺とカサチョ。
   小走りでカービィの元まで行き、三子岩より向こう側を見て……

「うわぁ……、マジか」

「これはまた……、奇怪な国でござるな。あれだけの透明ゆえ、遠目では拙者も気付けなかったでござるよ」

   俺とカサチョはそう言って、口をまん丸に開けたまま固まってしまった。

   ホムンクルスの国であるフラスコの国は、本当の本当に、フラスコの中にある国だった。
   国の外周を形作っているのは、オレンジ色の高い煉瓦の壁。
   その周りを、ほんのちょっとだけ水色がかっているガラスの様な物が、スッポリと覆っているのだ。
   水色のガラスは、綺麗に湾曲しながら空へと伸びて、国全体を覆い尽くし、その上部の中央からは、同じくガラスの透明な煙突のような長い突起物が飛び出している。
   つまりそれは……、でっかいでっかい……、巨大な丸底フラスコなのだった。

「んん? なぁ、何か煙みてぇなの出てねぇか?? ほら……、あの一番上んところ」

   そう言ってカービィが指差しているのは、フラスコの口に当たる部分だ。
   どうやらそれは、見た目通りに中が空洞で筒状をしているらしく、その口からは薄っすらとピンク色の煙が立ち上っていた。

「煙? ……拙者には見えぬでござるが」

   なに? あれが見えないだと??
 カサチョこいつ……、さては目が良くないな???
   だから、遠目とはいえ、かなりインパクトのあるあれが見えなかったんだろう。

「僕には見えるよ。ピンク色の煙」

   とりあえず、幻覚ではないという事をカービィに伝えたくて、俺はそう言った。

「モッモにも見えるのか!? って事は……、あれは魔力の放つオーラとは別もんだって事か。おまいには見えねぇもんな、魔力」

   ……ぬ、なんだろうな?
   やんわりディスられた気がするぞっ!?
   俺だって、たまには見える事もあるんだからな、魔力のオーラ!!!
   
   カービィの言葉に俺が憤慨していると、後ろから来たギンロがポツリと呟く。

「妙な場所だな……」

   そう言ったギンロの視線は、目の前の奇妙なフラスコの国ではなく、すぐそばの三子岩に向けられていた。
  
   妙な場所、とはいったい……?
   なんかギンロ、昨日から変な事ばっか言ってるよな。
   どっかで誰かに呪われたんじゃない??

「妙って、何がだ?」

   なんとなしに尋ねるカービィ。
   
「この岩……、自然に出来た物ではなさそうだ……。見ろ、あそこにも、あそこにも……。根元から折れていてわかりにくいが、この辺りにはかつて、この三子岩と似たような岩が、いくつも立っていたのではなかろうか?」

   ギンロが指差す先を、俺たちは揃って見る。
   するとそこには、俺たちの間近にある三子岩に比べればとても小さいが、それらしき岩が等間隔で、かなり遠方まで規則正しく並んでいるのだ。
   ……んん? いや、違うな。
   地面のデコボコから考えるに、等間隔というよりも、それこそ昔は岩が連なって壁を成していたかのような、そんな風にも見て取れる。
   というか……、ギンロがそんな事に気付くなんて、とっても意外だ。
   いつもはボーッとしてるのにね。

「どうなってんだ? これは……、まさか、岩の壁でもあったのか?? 誰かがここに、岩の壁を造った……???」

「だとしても、誰が何の為にでござるか? 確かに岩はあるでござるが……。これじゃあまるで、フラスコの国を囲っているように見えるでござるな。彼の国はその昔、ここまで領土を保っていたのでござろうか??」

「いや……、それだと変じゃねぇか? 時が経つに連れて奴らの数が増え、領土を広げていったっていうなら分かるが、その逆だぞ?? ……ん~、わっかんねぇな~」

   カサチョの言葉に、ポリポリと頭を掻くカービィ。
   すると、俺のよく聞こえる耳に、沢山の蹄の音が聞こえて来た。
   ケンタウロスが走る際に鳴り響く、なんとも間抜けな……、いや、軽快な足音だ。
   そして……

「モッモ~! カービィ~!! ギンロ~!!!」

   聞き覚えのある高い声が聞こえて、俺たちは背後を振り向く。
   そこには、勇ましい女ケンタウロス、シーディアの背に跨って、大きく手を振るグレコの姿があった。
   その背後に、大勢の武装したケンタウロスを引き連れているその様は、まさに馬の女王……

   てかグレコ!
   敵はすぐそこにいるんだよっ!?
   大声出しちゃ駄目ぇえっ!!!






   太陽が、空の真ん中まで登った頃。
   晴天の下、俺たちは三子岩に集結した。

   シーディア率いる武装ケンタウロスの集団、二百二十名。
   アイビー率いる白薔薇の騎士団、九名。
   そして、モッモ様御一行プラスメラーニアの五名。
   総勢二百三十四名。
   この大人数でフラスコの国を襲撃し、ホムンクルス達をやっつけて、ノリリア達を救出する。
   
(ちなみに騎士団のメンバーの詳細だが、ここにいるのはアイビー、レイズン、エクリュにブリック、モーブとヤーリュとロビンズ、そしてチリアンとカサチョの九名。フラスコの国に向かって連絡が取れなくなっているのが、ノリリア、インディゴ、サン、ポピー、メイクイ、ライラック、パロット学士とミルクの八名だ)

   そして、みんなが揃った所で、カービィが今回の作戦を発表した。
   俺が先陣切って戦いに向かうという、あの無謀かつ危険極まりない馬鹿げた作戦だ。
   俺は、そんなのきっと、みんな反対するさっ! と、たかを括ってのだが……

「名案ね。それで行きましょう!」

   なんとっ!?
   止めてくれるはずと期待していたグレコが、真っ先に賛成してしまったではないかっ!??
   グレコぉっ!???
   見損なったぞぉおぉぉっ!!!!!

「しかし、それではモッモさんがあまりに危険では?」

   止めに入ってくれたのは、騎士団のアイビーだ。
   さすがは今回のプロジェクトの副リーダーである、ただイケメンなだけのエルフでは無い。

 ちなみに余談だが、アイビーはいつも、コロンか何かをつけているようだ。
 ノリリア曰くそれは、甘ったるくて嫌な匂い、らしいが……、優しいアイビーにピッタリの、品の良い香りだと、俺は思っている。

   そんなアイビーの、俺の無力さ加減を重々鑑みてくれている発言に対し、信じられない事を言ったのはカサチョだ。

「石化魔法がホムンクルスに対抗する唯一の方法なのでござる。拙者とカビやんで先陣を切っても良いが、それだと後が不安故……。モッモ殿には申し訳ないが、捨て駒になってもらうでござるよ」

   俺は目をひん剥いて驚いた。

   すぅっ!? 捨て駒だとぉおぉぉっ!??
   そんなつもりだったのかカサチョこの野郎っ!?!?

「……案ずるな、小さいの。私が背に乗せて走ってやる。先陣を切るのはこの私、ケンタウロスが蹄族の次期族長、シーディアだっ!」

   おおうっ!? いつに増しても勇ましいですな、シーディア様っ!!
   しかし、お尻に注意なさいませっ!!?
   ど変態ピンク毛玉野郎が、チラチラとあなたのお尻を見ては鼻の下を伸ばしてますよっ!?!?

「モッモよ、安心しろ。シーディア殿の背は、我が守る故」

   ギンロも鼻息が荒いですね。
   シーディアの背中って……、要はシーディアに対して良い格好がしたいだけでしょ?
   俺を守る為ではないよねそれ??
   下心が丸見えですよぉおっ!?!?

「いよっし! じゃあ行くかっ!? ホムンクルス供を倒しにぃっ!!!」

「おぉお~~~!!!!!」

   カービィの号令に、高く武器を振り上げて、雄叫びを上げるケンタウロス達。
   今まさに、命懸けの戦いが、始まろうとしていた。

   ……い~や。
   ちょっと待てぇ~いっ!?
   俺はまだ了承してないぞぉっ!??
   そ、そんな作戦……
   いっ……、嫌だぁああぁぁぁっ!!!!
   助けて母ちゃあぁぁ~んっ!!!!!
   
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