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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

437:ガッチャンッ!!!

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   ウィーヨン!

   ウィーヨン!!
  
   ウィーヨン!!!

   ウィーヨン!!!!

   ウィーヨン!!!!!

「……くっ、うるさい」

   鳴り響くサイレンの音に、思わず俺は両手で耳を塞ぐ。
   研究室の中は、そこかしこに現れた赤く点滅するランプのせいで、真っ赤に染まっている。
   部屋の中央にあるあの気味の悪い巨大な球体も、先ほどのまま、中の液体は血のような赤色となっていた。

   とりあえず……、鉄扉のレバーだ!

   俺は、辺りの状況を確認しつつ、走り出す。
   真っ赤な世界の中、けたたましいサイレンの音に紛れて聞こえてくるのは、苦しげな呻き声だ。
   助けを求めているようなその声は、この研究室に無数にある檻の中から聞こえてきている。
   檻の中には、生命エネルギーの結晶体、イリアステルを作り出す為に捕らえられた者達が、沢山収監されているのだ。
   彼らは、走り去る俺の姿をその目に捉えて、助けを乞うように、こちらに腕を伸ばしている。
   
   助けてあげたいけど……、今は無理だ! ごめんねっ!!
   けど、後で必ず助けるからねっ!!!

   心が張り裂けそうになりながらも、俺は鉄扉のレバーがあるであろう製造室に向かう為、何故だか開かれたままの扉から、研究室の外へと走り出た。

   城の中は、先ほどまでと変わりなく、やけに静かだ。
   つまり、あのサイレンは、研究室の中でのみ鳴っているようなのだ。
   ただ、この静けさの中でも、俺のよく聞こえる耳は、階下の物音をしっかりと捉えていた。

   一階のホールから続く廊下の先にある、鉄扉の前……、そこから聞こえてくる音……
   ホムンクルス達の無数の足音と、魔法を行使するカービィの声、そしてカサチョが巨大な鎌で石化したホムンクルスを打ち砕く音だ。

   俺は、弾む息を整えながら、思考をフル回転させる。

   あの小部屋には、体感にして十五分ほどいたはすだ。
   なのに、二人はまだ戦いを続けている……
   さすが、カービィとカサチョだ……
   まだ二人はやられてないっ!

   二人の生存を確認した俺は、再度駆け出す。
   廊下を挟んで向かい側にある製造室の扉は、研究室のものと同様、とても頑丈そうで、尚且つピタリと閉じている。
   しかも、ドアノブは俺の手の届かない高い場所に位置している為、小さな俺が開く事は不可能に思えた。

   だけど今……、この場に助けを呼ぶ事は出来ない。
   精霊は召喚出来ないのだ。
   だったらもう……、自分でなんとかするしか無いじゃないかっ!!
   俺は覚悟を決めて、腕まくりをする。
   鼻から息をフンッ! と吐いて、準備は万端だ!!!

「うぉらぁあぁぁ~!!!!!」

   俺は雄叫びをあげながら、製造室の扉に向かって全速力で走り、思いっきりジャンプした。
   例えるなら、跳び箱をする時のようなフォームで……、そこにロイター板はないけれど、両足で踏ん張って、力一杯上へとジャンプしたのだ。
   すると! なんとっ!!

「はっ!? 届いたっ!??」

   俺の右手が、ドアノブに届いたではないか!?
   絶対に放すもんかと、掌に力を込めて、目一杯ドアノブを握りしめる俺。
   すると、俺の体重がうまい具合に重しとなって、ドアノブが下がり……

   ガチャリ

   開いたっ!
   やったぁあっ!!
   でも……、あっ!??
   あぁあっ!!??

   ドーーーン!

「へぶぅうっ!?!!?」

   全力でジャンプした為か、勢い余って、俺は全身と顔面を扉に強打した。
   しかしながら、その衝撃のおかげで、頑丈そうな製造室の扉は見事開かれたのだった。
   
   うぅ……、ぐぐぐ、痛い……
   元々低い鼻が、余計に低くなった気がするぞ……?
   いや、でもまぁ、結果オーライだ!

   全身と顔面の痛みに耐えながら、俺はそっと右手をドアノブから放し、着地する。
   そして、かすかに開かれた扉の隙間から、製造室の中へと、スルリと潜入した。
   
 





「確かレバーは……、うっ!? うわぁあ~……」

   薄暗い製造室の内部に潜入した俺は、目の前の光景に絶句した。

   そこにあるのは、幾本もの、巨大な細長いガラスの試験管だ。
   俺でもすっぽりと入れそうな大きさのその試験管の中には、沢山の管に繋がれた、何かの生き物のような物が入れられている。
   多分これは……、あの地下の保管庫にあったホムンクルスの肉体の……、作りかけのものだろう。
   そのどれもが、不完全な形をしていた。

   様々な種族の姿形をしていながら、まだ完全には体が形成されていないそれらは、手足が短かったり、頭が小さかったりと、とても歪なものだった。
   全体的に体が小さくて、皮膚は艶めかしく透けており、身体中の血管が外から見て取れるほどだ。
   胸の中央に位置する心臓は、それこそ形がくっきりと確認できて、どくどくと激しく鼓動していた。
   時折、小刻みに震えたり、四肢を動かしたりする様は、まるで胎児のようだ。
   そして、既に意識があるのであろうその瞳は、微かに瞬きをしながら、ぼんやりと俺の事を見つめていた。

   やっべぇ……、まるでクローンだ。
   SF映画には欠かせない存在、クローン人間。
   けど、ここはどっちかというと、魔法のあるファンタジー世界だぞ?
   クローン人間なんて、お呼びでないっ!?

   俺は、それらを見ないようにしながら、辺りを見回す。
   すると、地図に示されていた場所の壁際に、オレンジ色をした手動のレバーのような物がちゃんとあるではないか。

   おぉっ! 絶対にあれだ!!

   俺はすぐさまレバーに駆け寄る。
   幸いにも、レバーはかなり大きいものの、手が届く高さにあるのだ。
   これなら出来るぞっ!!!

   俺は、少し背伸びした体制で、オレンジ色のレバーに両手をかける。
   そして、上を向いているそのレバーを、力一杯、全体重をかけて、下へと引き下げた。

   ググ……、ググググ……、ガッチャンッ!!!
   
   くぅあぁ~っ!
   お、重かったぁあっ!?
   けど、ちゃんとレバーは下がったぞ!!
   お願いだから、鉄扉よ、開いてぇえっ!!!

「どうしてそんな事するの?」

   ……ん? え??

   不意に誰かの声が聞こえて、俺はゆっくりと背後を振り返る。
   そこには、見覚えのある姿形の……、しかしながら、全身の皮膚が気味の悪い緑色をしている、女性が立っていた。
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