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★寄り道・魔法王国フーガ編★

471:白薔薇の騎士団ギルド本部

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   王都フゲッタの、大商店街を全力疾走すること数分。

「はぁ、はぁ、はぁ……、や、やっと……、着いた?」

「おうよ。ここが王国一の魔導師ギルド、白薔薇の騎士団のギルド本部だ!」

   俺たちは、王都の中央にそびえ立つ王宮にほど近い、白薔薇の騎士団のギルド本部へと辿り着いた。

   目の前にあるのは、煉瓦造りの五階建ての大きな建物。
   街並みに同化しながらも、独特の雰囲気を持つその建物は、壁面が棘を持つつたに覆われていて、そこには白い薔薇がぽつぽつとまばらに咲いている。
   そして、入り口であろう両開きの大きな扉のすぐ上には、薔薇を模した巨大な騎士団のエンブレムと、《白薔薇の騎士団》と書かれた金色のネームプレートが設置されていた。

「はぁ、はぁ……、すっごく、立派だね、はぁ……」

   呼吸を整えながら、俺はそう言った。

   建物の至る所から、騎士団のエンブレムを描いた幾本もの旗が垂れ下がり、夜風に吹かれてパタパタとなびいている。
   沢山ある窓からは暖かい光が漏れていて、ガヤガヤと大勢が中に居るのであろう音が聞こえてきた。
   少し異質だったのが、入り口の両脇にある街灯の火が、他とは違って白色だという事。
   そして、それら全てを含めた建物の外観を見る限りでは、何処と無く他より新しく、それでいて気品が漂っているなと、俺は感じたのだった。
   
「そりゃそうさ。ローズはなんでも一流が好きだからな。この建物も、国一番の建築師に依頼して建ててもらったもんなんだ。たぶん……、建設からまだ十年も経ってねぇんじゃねぇかな?」

「え? そうなの?? 通りでここだけ新しい……」

「だろ? 騎士団の本部は前からここにあったんだけど、ローズが団長になった後、前の建物が余りに好みじゃないからって理由で建て替えられたんだ。そんな理由でギルド本部を建て替えるギルドマスターなんざ他にはいねぇから、当時はだいぶ揉めたみたいだな。これまでの騎士団の歴史が~とか、街の景観がどうたらこうたら……。けど、おまいも見た通り、ローズはああいう奴だから、違う意見は全て力でねじ伏せて、自分の好きなように造り替えちまったのさ」

「なるほど……。何から何まで凄いね、ローズ団長は」

「なははっ! 凄いっちゃ凄いんだけどな~。なかなかあれには付き合い切れねぇよ!! さ、追っ手が来る前にノリリア連れ出さねぇと。急ごうぜ!!!」

   カービィはそう言うと、身につけている騎士団のローブのフードを目深に被った。
   俺もそれに習って、顔がすっぽり隠れるくらいに、ローブのフードを前へと引っ張った。

   こうして俺たち二人は、白薔薇の騎士団のギルド本部へと、潜入を開始したのだった。
(両開きの大きな扉には、前世でいう犬猫が通り抜ける為のような小さな扉がついていて、小さな俺たち二人はそこから入りましたよ~)






   中に入ってこれまたビックリ!

「うひゃ~!? 広いねっ!??」

   中は思った以上に広かった。
   だがそれは、魔法で空間を広げているわけではなく、本当に敷地面積が広いのだろう。
   中央のホールは五階の天井まで吹き抜けていて、二階から五階までの各階の部屋へと続く扉と廊下が、この位置からでも全て一望できた。
   そして、目に映るもの全て、ほとんどの内装が、白い大理石のような、高級感のある石造りだった。

   外から見ていた時は煉瓦造りだったのに、中はどうして石造りなんだ?
   二重に壁を造ったのだろうか??
   だとしたら……、すげぇこだわりだな。

   そんな事を考えながら、辺りをキョロキョロと見渡しつつ、カービィの後に続いてホールを横切る俺。

   ホールには、様々な物が設置されていた。
   剣や杖、鎧やローブ、偉業を成し遂げた際に授与されたのだろう勲章やトロフィーなどが展示してあるショーケースに、ちょっとした作業をする為の小さな机と椅子。
   左右の壁際には、クエストの募集であろう、依頼用紙が大量に張り出された掲示板があり、中央には郵便局や銀行の窓口のようなカウンターと受付があって、その奥には事務室のような部屋が広がっている。
   その全てが白い大理石で造られていて、重厚感が半端ない。
   そして……

「あれ、誰かしら? 新入り??」

「それにしては堂々としてねぇか?」

「あの後ろのは従魔かしら? それにしては……、体の大きさがほぼほぼ同じだけど……」

   同じ白薔薇の騎士団のローブに身を包んだ見知らぬ団員達が、周りには沢山いた。
   その誰もが、首を傾げながら俺たちを見ている。

「入り口にいる奴らはだいたい、入団したての下っ端だ。だから、おいらの事を知ってる奴はいねぇだろうな」

   ヘラヘラと笑いながら、中央のカウンターへと真っ直ぐに向かって行くカービィ。
 遅れないようにと、駆け足でついていく俺。
   窓口には、短い銀髪にキリリとした表情の、とても綺麗な顔立ちの見知らぬエルフの女性が座っている。

「よぉ、セーラ。調子はどうだ?」

   親しげに話し掛けるカービィに対して、エルフは怪訝な視線を向けてきた。
   だがしかし、そのパッチリと開いた青い瞳がカービィを捉えるや否や……

「きゃっ!? カッ!?? カカカッ、ビッ!?!?」

   セーラと呼ばれたエルフの女性は、驚きのあまり、目をパチパチ、口をパクパクさせた。
   かなり素っ頓狂なその顔に、俺は思わずブッ! と笑ってしまった。

 せっかく綺麗な顔してるのに、そんな変顔しちゃうのねっ!?

「おっと、名前を呼ぶなよ? 騒ぎになっちまう」

   両手をパッと前に出して、セーラを制止するカービィ。

「どうっ!? ちょ……、やっぱり帰ってたんですか!?? だ、団長は!?!?」

   目をまん丸に見開き、眉間に皺を寄せ、綺麗なお顔を目一杯に崩して慌てるセーラ。
   周りの者に会話を聞かれないようにと、カウンターからグッと身を乗り出して、小声でカービィに話し掛ける。

「あ~、ちょいといろいろあってな……、事情は聞かねぇでくれ。ノリリア探してんだ、どこにいるか知らねぇか?」

「いろいろってそんなっ!? ま……、また何かしでかしたんですかっ!??」

「またっておまい……、人聞き悪いぞ。とにかく、これ以上おいらが王都にいるとまずいから、ノリリア連れてさっさと出てくよ」

「えっ!? ノリリアさんっ!?? ……いやっ、それもまずいですよぉっ!!! 団長は、ノリリアさんの聴取を中断して出て行ったんですから!!!! 戻った時にノリリアさんがいないと……、駄目駄目、ヤバイですってぇえっ!!!!!」

   手をバタバタ、足をガタガタと鳴らして、とても豪快な慌て方をするセーラ。
 せっかく美人なのに、こんな動作をしちゃあ残念である。

「だ~いじょ~ぶ、だ~いじょ~ぶ。どうにかなるっ!」

   いつも通りの、無責任カービィ。

「むっ!? 無理無理無理っ!! ほんと、そんなの無理ですよカービィさんっ!!!」

   もはやセーラは半泣きだ。  
   鼻と耳が赤くなっているし、声はちょっぴり震えている。

   その言葉と態度に、埒があかないと踏んだのだろうカービィは、身を乗り出していたセーラの綺麗なおでこに、おもむろに手を伸ばしてピタリと触れた。
   すると、触れたそばから、カービィの指先がホワンと光って……

「三階の、第五会議室だな?」

   そう言って、カービィはいつになく悪い顔でニヤリと笑った。
   
「なっ!? 読みましたっ!?? 読んだんですか今っ!?!?」
   
   セーラは慌てて身を引くも、時既に遅し……

「ありがとよセーラ。埋め合わせはまた今度するぜ」

   キラーン☆ とキメ顔スマイルを残し、カービィはスタスタと歩き出す。

「そんなっ!? あわわわわっ!?? だ、団長にもしバレたら……、ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!」

   綺麗な顔立ちのセーラは、カービィに触れられたおでこを必要以上に擦りながら、先程よりも更に慌て出す。
   無駄に手元の書類を持ち上げたり、椅子から立ち上がったり、また座ったり……、ラジバンダリ……

   そんなに慌ててちゃ、綺麗なお顔が台無しですよ?
   それに……、ほらほら、ホールにいる若手さん達が、何事かと見てますよ??

   俺はそんな事を思いつつ、焦るセーラに対し、なんとなしにペコリとお辞儀をしてから、カービィの後を追った。
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