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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★
523:全責任
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『呪縛の間……、時には禁断の間とも呼ばれるその場所には、並大抵の者では作り出す事の出来ない結界が施されています。俗に【印】と呼ばれるその結界陣は、例え私たち精霊であっても、簡単には壊せないものなのです。しかしながら、この部屋に施されている結界には、複数の隙間が見受けられます。おそらくですが、さほど経験のない者が、見様見真似で作ったのでしょう。その隙間を狙えば、床を掘ることも可能ですが……。正直なところ、呪縛の間に穴を開けるなんて事、私はしたくありません。何が起こるか分かりませんから』
チルチルの言葉に俺は、文字通り頭の中が真っ白になっていた。
……は? 何が?? どうなってんの???
何から尋ねればいいのかも、自分は何が理解出来ていないのかも分からない。
つまり……、全然、何にも分からない。
「えっと……、じゃあ……。とりあえず、床は掘れるんだよね?」
一番簡単なところから確認する俺。
『はい、掘れます』
「なるほど。……でも、掘りたくはないんだよね?」
『はい、掘りたくないです。……怖いです』
「な……、なるほど。……何がそんなに怖いの?」
『私がこの床を掘る事によって、呪縛の間の結界に傷がつき、そのせいでここにある外に出てはならないものが解き放たれれば、世界が危機に陥ってしまう……。そんな事になってしまえば、私は……、責任なんてとれません、絶対に』
そう言ったチルチルは、かなり怯えた様子だ。
スコップを握り締めている小さな手が、小刻みに震えている。
う~んと……、だから、どういう事だ?
俺が今いるこの場所は、呪縛の間という外に出しちゃいけないものを閉じ込めておく場所で、結界が張られているから、それを壊したくないとチルチルは言っているわけだな??
……その、外に出しちゃいけないものって、何なのさ???
「あ~っと……。外に出てはならないものって、具体的には何なの? 何のこと??」
『具体的にと言われても……、種類は様々です。人々を死に追いやる疫病であったり、呪いであったり……。太古からの怪物や、神代の悪霊、異形のものなど、本当に様々なのです。ただし、それらに共通して言えることは、世界を滅ぼす力を有しているという事。呪縛の間は、それら災厄から世界を守る為に造られるものなのです』
あ~……、駄目だ。
チルチルの話は、俺の理解の範疇を超えている。
呪い? 怪物?? 悪霊???
世界を滅ぼす力を有している、だと????
まぁ仮に、チルチルが言うように、ここがその呪縛の間だとしてだ、一つ疑問が残る。
「えっと……、この先の部屋にいるのは、小さな紅竜人の男の子一人だけなんだけど……。ちょっと風貌は変わってるけど、決して悪い子じゃないよ? だからその……。チルチルがそんな風に怯えるような相手じゃないと、僕は思うんだけどなぁ」
そうなのだ。
ここにいるのは、チャイロだけだ。
確かに姿形は異様だけど、ゼンイだってほぼ同じ見た目なんだし、そこまで驚くほどのものでもない。
それに、チャイロが世界を滅ぼす力を有しているなんて、全くもって考えられない。
……いや、でも待てよ?
チャイロは、眠っている間ではあるものの、恐ろしい言葉を発していた。
夜言と呼ばれる殺人寝言。
もしあれが、本当のチャイロなのだとしたら……??
俺は、昨夜の事を思い出し、悩み始める。
チルチルの言っている事がもし、正しいとしたら……?
チャイロが本当は、解き放ってはならない恐ろしい化け物なんだとしたら……??
この部屋の床を掘って、結界を傷つけてしまったとしたら……???
俺は珍しく、様々な事由を仮定して、冷静かつ論理的に考えていた。
そして、正しい答えを導き出したのだ。
よしっ!
この床は掘らない方がいいっ!!
下階に降りて、自分の足で書庫を探そうっ!!!
俺は考えを改めた。
何も危険を冒す事はない。
チルチルが危ないと言うのだから、きっとそれは本当に危ない事なのだろう。
むしろ、前もって教えてくれて良かったと考えよう。
どこに何があるのか分からない王宮内を、一人で歩かなければならないのは正直不安だが……
世界が滅びるよりは、俺がちょっぴり困る方がいいってもんだ。
よしっ!
頑張るぞっ!!
自力でなんとかしてやるぞ!!!
てやんでいっ!!!!
気を持ち直して、俺はチルチルにそれを伝えようとした。
が、しかし……
『私は、モッモ様に使役する精霊です。主であるモッモ様がここを掘れと仰られるのなら、私はここを掘ります。ですが……、いいですか? 私は止めましたからね?? もしもの時、全責任はモッモ様にありますからね!??』
キッとした表情でそう言うと、チルチルは手に持ったスコップを高く振り上げて……
「あ、ちょと待」
サクッ! サクサクサクッ!!
勢いよく、黒い床に突き刺さるスコップ。
まるで焼き立てのクッキーをかじったかのような軽い音がしたかと思うと、見るからに固そうだった黒い床は、砂のようにバラバラになって宙を舞った。
俺が止める間も無くチルチルは、意図も簡単に、真っ黒な床にポッカリと、大きな穴を掘ってしまったのだった。
オーマイ……、ガァーーーーンッ!?!!?
予想外の出来事に混乱を隠し切れない俺は、ムンクの叫びの絵のように、昇天しかけた。
なななっ!? なんでっ!!?
俺、まだちゃんと、掘れって命令してませんけどぉおっ!?!?
床に空いた穴からは、少しの光と土の匂いが漏れてくる。
完全に、下階にある書庫まで貫通してしまったようだ。
『さっ! 出来ましたよっ!!』
何故か、ちょっと怒った顔でチルチルはそう言った。
……いやいや、……いやいやいやいや。
怒りたいのはこっちだよっ!?
せっかく代替案を考えたのにっ!!?
てか……、掘っちゃって大丈夫なのこれっ!?!?
「チ……、ルチル? これ……、掘って、大丈夫、なの??」
足元の穴を指差しながら、恐る恐る尋ねる俺。
『今のところ……、結界には傷一つついてません。 印が崩れる事も、結界が破れる事も無いでしょう』
可愛らしいお顔をドヤ顔にして、チルチルは満足気に笑う。
「そっか……、うん……。まぁ、大丈夫ならいっか……、はははは」
全然良くないと思うけどねっ!?
でももう掘っちゃったしねっ!??
そう言うしかないじゃんねっ!?!?
『それではモッモ様……、御武運をっ!』
ピシッと敬礼した後、チルチルは黄色い光に包まれて、その場からパッと姿を消してしまった。
一人残された俺は、冷や汗をダラダラとかきながら、足元の穴をジッと見つめていた。
チルチルの言葉に俺は、文字通り頭の中が真っ白になっていた。
……は? 何が?? どうなってんの???
何から尋ねればいいのかも、自分は何が理解出来ていないのかも分からない。
つまり……、全然、何にも分からない。
「えっと……、じゃあ……。とりあえず、床は掘れるんだよね?」
一番簡単なところから確認する俺。
『はい、掘れます』
「なるほど。……でも、掘りたくはないんだよね?」
『はい、掘りたくないです。……怖いです』
「な……、なるほど。……何がそんなに怖いの?」
『私がこの床を掘る事によって、呪縛の間の結界に傷がつき、そのせいでここにある外に出てはならないものが解き放たれれば、世界が危機に陥ってしまう……。そんな事になってしまえば、私は……、責任なんてとれません、絶対に』
そう言ったチルチルは、かなり怯えた様子だ。
スコップを握り締めている小さな手が、小刻みに震えている。
う~んと……、だから、どういう事だ?
俺が今いるこの場所は、呪縛の間という外に出しちゃいけないものを閉じ込めておく場所で、結界が張られているから、それを壊したくないとチルチルは言っているわけだな??
……その、外に出しちゃいけないものって、何なのさ???
「あ~っと……。外に出てはならないものって、具体的には何なの? 何のこと??」
『具体的にと言われても……、種類は様々です。人々を死に追いやる疫病であったり、呪いであったり……。太古からの怪物や、神代の悪霊、異形のものなど、本当に様々なのです。ただし、それらに共通して言えることは、世界を滅ぼす力を有しているという事。呪縛の間は、それら災厄から世界を守る為に造られるものなのです』
あ~……、駄目だ。
チルチルの話は、俺の理解の範疇を超えている。
呪い? 怪物?? 悪霊???
世界を滅ぼす力を有している、だと????
まぁ仮に、チルチルが言うように、ここがその呪縛の間だとしてだ、一つ疑問が残る。
「えっと……、この先の部屋にいるのは、小さな紅竜人の男の子一人だけなんだけど……。ちょっと風貌は変わってるけど、決して悪い子じゃないよ? だからその……。チルチルがそんな風に怯えるような相手じゃないと、僕は思うんだけどなぁ」
そうなのだ。
ここにいるのは、チャイロだけだ。
確かに姿形は異様だけど、ゼンイだってほぼ同じ見た目なんだし、そこまで驚くほどのものでもない。
それに、チャイロが世界を滅ぼす力を有しているなんて、全くもって考えられない。
……いや、でも待てよ?
チャイロは、眠っている間ではあるものの、恐ろしい言葉を発していた。
夜言と呼ばれる殺人寝言。
もしあれが、本当のチャイロなのだとしたら……??
俺は、昨夜の事を思い出し、悩み始める。
チルチルの言っている事がもし、正しいとしたら……?
チャイロが本当は、解き放ってはならない恐ろしい化け物なんだとしたら……??
この部屋の床を掘って、結界を傷つけてしまったとしたら……???
俺は珍しく、様々な事由を仮定して、冷静かつ論理的に考えていた。
そして、正しい答えを導き出したのだ。
よしっ!
この床は掘らない方がいいっ!!
下階に降りて、自分の足で書庫を探そうっ!!!
俺は考えを改めた。
何も危険を冒す事はない。
チルチルが危ないと言うのだから、きっとそれは本当に危ない事なのだろう。
むしろ、前もって教えてくれて良かったと考えよう。
どこに何があるのか分からない王宮内を、一人で歩かなければならないのは正直不安だが……
世界が滅びるよりは、俺がちょっぴり困る方がいいってもんだ。
よしっ!
頑張るぞっ!!
自力でなんとかしてやるぞ!!!
てやんでいっ!!!!
気を持ち直して、俺はチルチルにそれを伝えようとした。
が、しかし……
『私は、モッモ様に使役する精霊です。主であるモッモ様がここを掘れと仰られるのなら、私はここを掘ります。ですが……、いいですか? 私は止めましたからね?? もしもの時、全責任はモッモ様にありますからね!??』
キッとした表情でそう言うと、チルチルは手に持ったスコップを高く振り上げて……
「あ、ちょと待」
サクッ! サクサクサクッ!!
勢いよく、黒い床に突き刺さるスコップ。
まるで焼き立てのクッキーをかじったかのような軽い音がしたかと思うと、見るからに固そうだった黒い床は、砂のようにバラバラになって宙を舞った。
俺が止める間も無くチルチルは、意図も簡単に、真っ黒な床にポッカリと、大きな穴を掘ってしまったのだった。
オーマイ……、ガァーーーーンッ!?!!?
予想外の出来事に混乱を隠し切れない俺は、ムンクの叫びの絵のように、昇天しかけた。
なななっ!? なんでっ!!?
俺、まだちゃんと、掘れって命令してませんけどぉおっ!?!?
床に空いた穴からは、少しの光と土の匂いが漏れてくる。
完全に、下階にある書庫まで貫通してしまったようだ。
『さっ! 出来ましたよっ!!』
何故か、ちょっと怒った顔でチルチルはそう言った。
……いやいや、……いやいやいやいや。
怒りたいのはこっちだよっ!?
せっかく代替案を考えたのにっ!!?
てか……、掘っちゃって大丈夫なのこれっ!?!?
「チ……、ルチル? これ……、掘って、大丈夫、なの??」
足元の穴を指差しながら、恐る恐る尋ねる俺。
『今のところ……、結界には傷一つついてません。 印が崩れる事も、結界が破れる事も無いでしょう』
可愛らしいお顔をドヤ顔にして、チルチルは満足気に笑う。
「そっか……、うん……。まぁ、大丈夫ならいっか……、はははは」
全然良くないと思うけどねっ!?
でももう掘っちゃったしねっ!??
そう言うしかないじゃんねっ!?!?
『それではモッモ様……、御武運をっ!』
ピシッと敬礼した後、チルチルは黄色い光に包まれて、その場からパッと姿を消してしまった。
一人残された俺は、冷や汗をダラダラとかきながら、足元の穴をジッと見つめていた。
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