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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
708:羽妖精の古書店
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「ポポゥ、王の時計がある……。やっぱりここは、フーガの王都フゲッタを模した街並みに違いないポ」
広場の噴水の上に浮かぶ、ピッカピカの巨大な宝石の塊を見上げて、ノリリアはそう言った。
なんで噴水の上に宝石が浮かんでいるんだ? あれのどこが時計なんだ?? という疑問を俺は抱いたが、それは今尋ねるべき事ではないと、グッと我慢する。
「でも、どうしてここに……、封魔の塔の最上階に、フゲッタを模した町なんかがあるんだろう?」
足元に敷き詰められている、パステルカラーのガラスのように煌めく石畳に視線を落としつつ、俺は問い掛ける。
「分からないポ。分からないポが……、ここは、あたちが知っているフゲッタよりも、随分と昔のフゲッタかも知れないポよ。王の時計の四方にある商店は、あんなのじゃ無かったはずポ」
広場の周りを囲う建物と、そこにある店々を見渡しながら、ノリリアはそう言った。
「じゃあここは、昔のフゲッタ…‥、って事?」
「ポポッ、恐らく……。あたちがフゲッタに初めて足を踏み入れたのが20年前ポが……、その時にはもう、あれらとは別の店だったポ」
ふむ、なるほど。
という事は、少なくとも20年以上前のフゲッタであると。
「ねぇ、20年前にフゲッタに来たって言ったけど、故郷の村からって事だよね? ノリリアっていくつなの??」
俺の質問にノリリアは……
「……モッモちゃん。女性に年齢を聞くのは失礼な事だと、お母様から教わらなかったポか?」
「うっ!? ご、ごめんなさい……」
紳士としてのマナーがなっていない事をピシャリと注意され、俺は口をキュッと閉じた。
封魔の塔の最上階に位置する金の扉をくぐり、その先に繋がる部屋から出た場所は、魔法王国フーガの王都フゲッタであった。
鮮やかなパステルカラーの街並みの雰囲気は変わらず、しかしながら立ち並ぶ商店や細かい部分が現在とは異なっているらしい。
寒くもなく暑くもなく、ちょうど良い気候の中、頭上には雲一つない青空が何処までも広がっていた。
俺とノリリアは、誰もいない、しんと静まり返った街の中を、当てもなく歩いて行く。
周りに生き物の気配は全く無く、風が吹くことも無い。
まるでここは時が止まっているようだと、俺は感じていた。
「ポポゥ、何処に行けばいいのか全く分からないポね。モッモちゃん、羅針盤の出番ポよ」
「オッケー!」
俺は、首から下げている望みの羅針盤を取り出す。
例によって、北を指し示すはずの銀の針は、指すべき方角が分からずに盤の上をグルグルと回っている。
俺達が求める解呪の方法はどこですか!?
心にそう思うと、羅針盤の金の針は、北とも南とも分からない、ある方角を真っ直ぐに指した。
「ポッ! こっちポね!?」
「よしっ! 行ってみよう!!」
俺とノリリアは、羅針盤の金の針が指し示す方へと、道を歩いて行った。
「ここは……、なんだか見覚えがあるなぁ」
「ポポポ、ここは羽妖精の古書店ポね」
俺とノリリアは、ある建物の前で足を止めた。
三階建の大きなその建物には看板がかかっており、ノリリアの言葉通り、そこには《羽妖精の古書店》と書かれている。
あ~……、そうだよ、ここだよ。
ノリリアが白薔薇の騎士団の団長ローズより帰還要請を受けて、カービィと三人で一緒にフゲッタまで行った時に、立ち寄った本屋さんだ。
確か、カービィはここで……、うん、いかがわしい本を買っていたな。
「入ってみるポね」
扉を開けて中に入ってみると、そこには溢れんばかりの本が……
壁という壁に本棚があって、見渡す限りの全てが本で埋め尽くされている。
それは壁に限った事ではなく、何故落ちてこないのかは謎だが、天井にまで本が並んでいるのだ。
そして……
パタパタパタ~
おろ? なんかいるぞ??
虫の羽音のような音が聞こえて視線を向けると、そこには体に淡い光を宿した、メガネザルのような風貌の生き物が一匹。
体長およそ20センチ程の小さな体で、その背に生えた薄い羽を忙しなく動かしながら、自分よりも大きな本を両手で挟んで、一生懸命に空中を飛んでいた。
ここへ来て、初めて生き物を確認出来た俺とノリリアは、どうしたらいいものかと、不自然なポーズのままで固まってしまう。
すると、俺達の存在に気付いたらしいメガネザル妖精が、くるっとこちらを向いたので、その大きなクリックリのお目目とばっちり目が合ってしまった。
クイッ、クイッと首を左右に傾けながら、俺とノリリアを交互に見るメガネザル妖精。
ど……、どうしよう……?
怪しまれている??
妙な緊張感が辺りに漂う。
しかし、メガネザル妖精は特に何を言うでもなく、何をするでもなく、俺達から視線を外して、本を持ったまま、店の奥へと姿を消した。
「ポ……、ポポ~、ビックリしたポ。まさか、羽妖精がいるとは思わなかったポよ」
ふ~っと大きく息を吐きながら、体の力を抜くノリリア。
どうやら、メガネザル妖精は、羽妖精という種族らしい。
……メガネザル妖精って名前の方が、ピッタリだと思うんだけどな。
「モッモちゃん、羅針盤はどうポ?」
ノリリアに尋ねられて……
「あ、えと……。まだ、こっち指してる」
羅針盤の金の針は、羽妖精が姿を消した店の奥の方を指していた。
「ポッ、行ってみるポよ」
ズンズンと店内を歩いて行くノリリアと、キョロキョロとしながら後を追う俺。
店内は薄暗く、四方八方を本に囲まれたこの空間は、少々息苦しさを与えてくる。
以前カービィとここへ来た時は、沢山の羽妖精がそこかしこにいたから、店内はもっと明るかったし、風通しも良かったように思う。
だけども進む以外に道は無いので、どこまでも本棚が並ぶ通路を、俺はノリリアの後について行った。
そして、前方に光の集合体を確認した俺とノリリアは、一旦足を止める。
「……んん? だ、誰か……、いる??」
「いるポね」
そこは、店内の読書スペースとも言えよう開けた場所で、一人掛けのゆったりしたソファーと、それとセットの小さなテーブルがいくつか並んでいる。
その一角に、ソファーに深く腰掛けて、沢山の羽妖精に囲まれながら、読書をしている人物が一人。
生成色のローブに身を包むその人物は、艶やかな白髪を、ソファーの足元に小山ができる程に長く伸ばし、同じく口髭も地面に着くほど長く伸びている。
透き通るような水色の瞳がある目元はかなり小皺が目立っていて、髪と髭の状態から鑑みるに、かなりの老齢であるようだ。
一見すると普通の人間の老人であるが、顔の両側についている耳は上向きにピンと尖っていて、エルフのそれとよく似ていた。
なっげっ!?
髪と髭、めちゃなっげっ!!?
地面についてるとか……、汚ねぇっ!!??
そのあまりに特異な容姿を前に、俺は眉間に皺を寄せつつ、心の中で思わず叫んでいた。
こちらに気付く様子もなく、周囲を取り巻く羽妖精の淡い光を浴びながら、その者はソファーの肘掛けに片手で頬杖をつき、単行本サイズの本を読み耽っている。
そしてその膝の上には、どこか見覚えのある銀の書物が乗っていた。
おや?
あれはぁ~??
もしかしてぇ~???
「ポォ~? あれは、リブロ・プラタ??」
「うん……、だと思う。なんであそこに? てか……、あの人は誰??」
コソコソと話し合う俺とノリリア。
すると、その小さな小さな声に気付いたらしく、老人の透き通るような水色の目が、チラリとこちらを見た。
あ……、目が、合っちゃった……
老人は、読んでいた本をパタリと閉じ、ソファーの肘掛けをグッと持ちながら、ゆっくりと立ち上がる。
その際、膝の上にあったリブロ・プラタは、周りの羽妖精が甲斐甲斐しく持ち上げて、ソファーの横の小さなテーブルへと運んだ。
スタスタと、見た目に反して軽やかな足取りで、こちらに歩いてくる老人。
身構える俺とノリリア。
その距離が、あと2メートルほどに縮まった時、老人は歩みを止めた。
そして……
「貴様らっ! 遅いでは無いかっ!! 待ちくたびれたぞっ!!!」
老人は、その外見に全くそぐわない、高くて子供染みた声でそう言った。
その声は、確実に聞き覚えがあった。
俺達の事を、何度も何度も愚か者呼ばわりし、頭上から偉そうに此方を見下ろしていた、あいつの声だ。
「ポポポッ!? その声は、リブロ・プラタ!!?」
ノリリアの言葉に老人は、ニッと口元を緩め、歯を見せて、まるで子供のように悪戯な笑顔を浮かべた。
広場の噴水の上に浮かぶ、ピッカピカの巨大な宝石の塊を見上げて、ノリリアはそう言った。
なんで噴水の上に宝石が浮かんでいるんだ? あれのどこが時計なんだ?? という疑問を俺は抱いたが、それは今尋ねるべき事ではないと、グッと我慢する。
「でも、どうしてここに……、封魔の塔の最上階に、フゲッタを模した町なんかがあるんだろう?」
足元に敷き詰められている、パステルカラーのガラスのように煌めく石畳に視線を落としつつ、俺は問い掛ける。
「分からないポ。分からないポが……、ここは、あたちが知っているフゲッタよりも、随分と昔のフゲッタかも知れないポよ。王の時計の四方にある商店は、あんなのじゃ無かったはずポ」
広場の周りを囲う建物と、そこにある店々を見渡しながら、ノリリアはそう言った。
「じゃあここは、昔のフゲッタ…‥、って事?」
「ポポッ、恐らく……。あたちがフゲッタに初めて足を踏み入れたのが20年前ポが……、その時にはもう、あれらとは別の店だったポ」
ふむ、なるほど。
という事は、少なくとも20年以上前のフゲッタであると。
「ねぇ、20年前にフゲッタに来たって言ったけど、故郷の村からって事だよね? ノリリアっていくつなの??」
俺の質問にノリリアは……
「……モッモちゃん。女性に年齢を聞くのは失礼な事だと、お母様から教わらなかったポか?」
「うっ!? ご、ごめんなさい……」
紳士としてのマナーがなっていない事をピシャリと注意され、俺は口をキュッと閉じた。
封魔の塔の最上階に位置する金の扉をくぐり、その先に繋がる部屋から出た場所は、魔法王国フーガの王都フゲッタであった。
鮮やかなパステルカラーの街並みの雰囲気は変わらず、しかしながら立ち並ぶ商店や細かい部分が現在とは異なっているらしい。
寒くもなく暑くもなく、ちょうど良い気候の中、頭上には雲一つない青空が何処までも広がっていた。
俺とノリリアは、誰もいない、しんと静まり返った街の中を、当てもなく歩いて行く。
周りに生き物の気配は全く無く、風が吹くことも無い。
まるでここは時が止まっているようだと、俺は感じていた。
「ポポゥ、何処に行けばいいのか全く分からないポね。モッモちゃん、羅針盤の出番ポよ」
「オッケー!」
俺は、首から下げている望みの羅針盤を取り出す。
例によって、北を指し示すはずの銀の針は、指すべき方角が分からずに盤の上をグルグルと回っている。
俺達が求める解呪の方法はどこですか!?
心にそう思うと、羅針盤の金の針は、北とも南とも分からない、ある方角を真っ直ぐに指した。
「ポッ! こっちポね!?」
「よしっ! 行ってみよう!!」
俺とノリリアは、羅針盤の金の針が指し示す方へと、道を歩いて行った。
「ここは……、なんだか見覚えがあるなぁ」
「ポポポ、ここは羽妖精の古書店ポね」
俺とノリリアは、ある建物の前で足を止めた。
三階建の大きなその建物には看板がかかっており、ノリリアの言葉通り、そこには《羽妖精の古書店》と書かれている。
あ~……、そうだよ、ここだよ。
ノリリアが白薔薇の騎士団の団長ローズより帰還要請を受けて、カービィと三人で一緒にフゲッタまで行った時に、立ち寄った本屋さんだ。
確か、カービィはここで……、うん、いかがわしい本を買っていたな。
「入ってみるポね」
扉を開けて中に入ってみると、そこには溢れんばかりの本が……
壁という壁に本棚があって、見渡す限りの全てが本で埋め尽くされている。
それは壁に限った事ではなく、何故落ちてこないのかは謎だが、天井にまで本が並んでいるのだ。
そして……
パタパタパタ~
おろ? なんかいるぞ??
虫の羽音のような音が聞こえて視線を向けると、そこには体に淡い光を宿した、メガネザルのような風貌の生き物が一匹。
体長およそ20センチ程の小さな体で、その背に生えた薄い羽を忙しなく動かしながら、自分よりも大きな本を両手で挟んで、一生懸命に空中を飛んでいた。
ここへ来て、初めて生き物を確認出来た俺とノリリアは、どうしたらいいものかと、不自然なポーズのままで固まってしまう。
すると、俺達の存在に気付いたらしいメガネザル妖精が、くるっとこちらを向いたので、その大きなクリックリのお目目とばっちり目が合ってしまった。
クイッ、クイッと首を左右に傾けながら、俺とノリリアを交互に見るメガネザル妖精。
ど……、どうしよう……?
怪しまれている??
妙な緊張感が辺りに漂う。
しかし、メガネザル妖精は特に何を言うでもなく、何をするでもなく、俺達から視線を外して、本を持ったまま、店の奥へと姿を消した。
「ポ……、ポポ~、ビックリしたポ。まさか、羽妖精がいるとは思わなかったポよ」
ふ~っと大きく息を吐きながら、体の力を抜くノリリア。
どうやら、メガネザル妖精は、羽妖精という種族らしい。
……メガネザル妖精って名前の方が、ピッタリだと思うんだけどな。
「モッモちゃん、羅針盤はどうポ?」
ノリリアに尋ねられて……
「あ、えと……。まだ、こっち指してる」
羅針盤の金の針は、羽妖精が姿を消した店の奥の方を指していた。
「ポッ、行ってみるポよ」
ズンズンと店内を歩いて行くノリリアと、キョロキョロとしながら後を追う俺。
店内は薄暗く、四方八方を本に囲まれたこの空間は、少々息苦しさを与えてくる。
以前カービィとここへ来た時は、沢山の羽妖精がそこかしこにいたから、店内はもっと明るかったし、風通しも良かったように思う。
だけども進む以外に道は無いので、どこまでも本棚が並ぶ通路を、俺はノリリアの後について行った。
そして、前方に光の集合体を確認した俺とノリリアは、一旦足を止める。
「……んん? だ、誰か……、いる??」
「いるポね」
そこは、店内の読書スペースとも言えよう開けた場所で、一人掛けのゆったりしたソファーと、それとセットの小さなテーブルがいくつか並んでいる。
その一角に、ソファーに深く腰掛けて、沢山の羽妖精に囲まれながら、読書をしている人物が一人。
生成色のローブに身を包むその人物は、艶やかな白髪を、ソファーの足元に小山ができる程に長く伸ばし、同じく口髭も地面に着くほど長く伸びている。
透き通るような水色の瞳がある目元はかなり小皺が目立っていて、髪と髭の状態から鑑みるに、かなりの老齢であるようだ。
一見すると普通の人間の老人であるが、顔の両側についている耳は上向きにピンと尖っていて、エルフのそれとよく似ていた。
なっげっ!?
髪と髭、めちゃなっげっ!!?
地面についてるとか……、汚ねぇっ!!??
そのあまりに特異な容姿を前に、俺は眉間に皺を寄せつつ、心の中で思わず叫んでいた。
こちらに気付く様子もなく、周囲を取り巻く羽妖精の淡い光を浴びながら、その者はソファーの肘掛けに片手で頬杖をつき、単行本サイズの本を読み耽っている。
そしてその膝の上には、どこか見覚えのある銀の書物が乗っていた。
おや?
あれはぁ~??
もしかしてぇ~???
「ポォ~? あれは、リブロ・プラタ??」
「うん……、だと思う。なんであそこに? てか……、あの人は誰??」
コソコソと話し合う俺とノリリア。
すると、その小さな小さな声に気付いたらしく、老人の透き通るような水色の目が、チラリとこちらを見た。
あ……、目が、合っちゃった……
老人は、読んでいた本をパタリと閉じ、ソファーの肘掛けをグッと持ちながら、ゆっくりと立ち上がる。
その際、膝の上にあったリブロ・プラタは、周りの羽妖精が甲斐甲斐しく持ち上げて、ソファーの横の小さなテーブルへと運んだ。
スタスタと、見た目に反して軽やかな足取りで、こちらに歩いてくる老人。
身構える俺とノリリア。
その距離が、あと2メートルほどに縮まった時、老人は歩みを止めた。
そして……
「貴様らっ! 遅いでは無いかっ!! 待ちくたびれたぞっ!!!」
老人は、その外見に全くそぐわない、高くて子供染みた声でそう言った。
その声は、確実に聞き覚えがあった。
俺達の事を、何度も何度も愚か者呼ばわりし、頭上から偉そうに此方を見下ろしていた、あいつの声だ。
「ポポポッ!? その声は、リブロ・プラタ!!?」
ノリリアの言葉に老人は、ニッと口元を緩め、歯を見せて、まるで子供のように悪戯な笑顔を浮かべた。
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