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★ピタラス諸島、後日譚★

760:ただいま参上っ!!!

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 魔法王国フーガの王城、その名もクリスタル城。
 名前の通り、城の全てがキラキラと輝く、七色の光を放つクリスタルで造られている。
 そしてその最上階に位置する玉座の間は、魔法王国の名に恥じぬ、素晴らしくファンタジックな場所であった。

 頭上を見上げると、そこには天井の代わりに夜空が広がり、青い月と無数の星々が煌めいている。
 周りではそこかしこに沢山の燭台が宙に浮かび、柔らかな、様々な色の炎が揺れる。
 それら燭台の間を縫う様に、国章なのであろう、竜の紋章が描かれた銀色の垂れ旗が、いくつもいくつもぶら下げられていた。

 足元には、クリスタルの床に銀色の絨毯が敷かれ、眼前にある広い台座まで、真っ直ぐに伸びている。
 台座の上には、国王の玉座であろう、品のある煌びやかなクリスタルの装飾が施された、紺色の荘厳な椅子が中央に置かれている。
 その右側に、同じく紺色の、装飾が少し控え目な椅子が二つと、左側にも同じ物が二つ並んでいた。
 だがしかし、全部で五つある椅子は、奇妙にも全て空席で……

 んん?
 だ……、誰も、居ない??
 中から声がしたし、俺達は国王に呼ばれたから、ここに来たはずなんだけど……、むむむ???

 ドキドキしながらも、先頭を行くローズ、その後に続くノリリアとカービィの後ろを、静かについて行く俺。
 そして、部屋の中央に当たる床の、その部分だけが円形の紺色である場所で、三人は足を止めた。
 綺麗に横並びになった三人に習って俺も、端っこにいたカービィの横に立ち、気を付けのポーズでピタッと動きを止めた。
 すると……

「白薔薇の騎士団が団長、ローズ・コーネリア、ただいま参上致しました!」

 わわわっ!?
 ローズ!??
 急にどうしたのっ!?!?

 突然、大きな声を出したローズに対し、俺は心臓が飛び出そうなほどに驚いた。
 だけど、それはローズだけに留まらず……

「白薔薇の騎士団が副団長、ノリリア・ポー、ただいま参上致しましたポッ!」

 ノリリアまでっ!?
 て事は……?

 チラリと横を見る俺。

「新進気鋭の白魔道師! 百年に一人と言われる天才!! 虹の魔導師カービィ!!! ただいま参上致しましたぁっ!!!!」

 ヒャアッ!?
 カービィまでっ!!?
 てか……、なんか肩書き長くないっ!!??

 三人の叫ぶ様を見て、俺はハッとする。

 え、ちょっと待ってよ。
 みんなしてそんな事言ってさ、まさか、俺も……?

 目をパチクリ、周囲をチラチラ、キョドキョドする俺に対し、隣に立つカービィが肘でグイグイしてくる。
 それはさも、早くおまいも自己紹介しろ! って言っているようで……

 やっぱり俺もなのねっ!?
 えっ!!?
 でも、俺の肩書きって……、はっ! そうかっ!!!

 ピシッと背筋を伸ばし、俺は叫ぶ。

「とっ! 時の神の使者モッモ!! たっ……、ただいま参上っ!!!」

 言っちゃった!
 言っちゃったよ俺っ!!
 なんか恥ずかしいっ!!!
 めっちゃ恥ずかしいっ!!!!

 カーッと赤面する俺。
 すると、何処から共なく声が聞こえてきて……

「さて、それでは謁見を始めようか」

 優しげな男性の声がそう言うと、前方の頭上に広がる夜空の天井が、ビロードの様に波打って、そこから複数の、何者かが姿を現したではないか。
 
 うわわわわっ!?
 上からっ!!?
 なんっ!?!?

 目を見開いて固まり、焦る俺。
 だけど、焦っているのは俺だけで、他のみんなは事もなげにその様子を見ている。

 夜空からスーッと降りて来た者達は、皆揃って紺色のローブに身を包み、目深に被ったフードで顔を隠している為、その全容は明らかでは無い。
 数は、全部で四……、いや、五人だ!
 右端の一人がめちゃくちゃ小さくて、一瞬埃かと見紛ってしまった。
 五人はゆっくりと台座の上の椅子の前へと降り立ち、それぞれに着席した。

「なぁ、毎度の事だけどよ、その登場の仕方は誰が決めたんだぁ~? 何の意味があるんだよ??」

 ゲッ!? 
 カービィ!!?
 勝手に発言してもいいのっ!?!?

 ヘラヘラとそんな事を口走ったカービィに対し、胸のドキドキが激しくなる俺。
 すると、台座の上の五つ並んだ椅子のうち、真ん中の一番豪華な椅子に座る者が、サッとフードを取って……

「勿論私だが? 何か問題でも??」

 あぁあああっ!?
 あっ、あの顔はぁあぁぁっ!!?

 ニヤリと笑ってそう言ったその人物は、俺の見知った顔をしていた。
 少し灼けた小麦色の肌に、鮮やかな真紅の髪。
 目尻の皺と肌艶から考えるに、歳の頃は初老手前といったところか。
 瞳は黒に近い藍色で、虹彩の色素が薄い為に、まるで宇宙の様に見える。

 その姿は、瞳の色こそ違えど、封魔の塔の地下にて、神代の悪霊クトゥルーが化けていた、魔法王国フーガの国王と全く同じだった。

 つまり……、今目の前にいるあのおじさんが、フーガの国王……、本物の王様、ウルテル国王!?!?
 
「問題はねぇけどよ。なんかこう……、芝居がかってんな~って」

 おいカービィ!?
 そんな普通に会話していいのっ!!?
 相手は一国の王でしょうっ!?!?

 普段通り、マイペースな受け答えをするカービィを横目に、一人ハラハラする俺。

「はははははっ! 相変わらずだな、カービィ・アド・ウェルサー!! 私にその様な物言いをする輩は、後にも先にもお前だけだ!!!」

 豪快に笑うウルテル国王。
 すると今度は、一番離れた場所にいるローズが……

「どうでもいい事をベラベラ喋ってないで、本題に入ってちょうだい」

 キャアッ!?
 そんな事言っていいのっ!??
 相手は一国の王でしょうっ!?!?

 めちゃくちゃ高圧的且つ上から目線な物言いで割って入ったローズに対し、俺はより一層ハラハラする。
 
「ローズ様、言葉を改めて下さい。ここは玉座の間……、国王への非礼は断じて許されません。レテ家の名に恥じぬよう、何卒……」

 そう言ったのは、台座の上の左端の椅子に座る誰かだ。
 声の感じからして女性らしいが……
 あのフォルムはなんだ?
 身に纏っている紺色のローブの背中側が、不自然な形に膨らんでいるし、ローブの丈が長過ぎるせいで、足元が全く見えない。

「あらダリア、わたくしに意見するなんて……、随分と偉くなったものね」

 尚も上から目線で言葉を発するローズ。

「恐れ入ります……」

 言葉少なに返事する変なフォルムの女性。

「まぁまぁ二人とも、そう熱くなるな。ローズ、すまなかったな、こんな時間に呼び出して」

 なんとっ!?
 王様の方が謝ってきたぞっ!!?
 そんな簡単に、王様が謝っていいのかいっ!?!?
 てか……、王様より偉そうなローズって、いったい何者なのっ!?!??

「すまないと思っているのなら、さっさと要件を言ってちょうだい。私は眠いのよっ!」

 うわぉっ!?
 ローズったら!!?
 怒ってる内容がお子様ですねっ!?!?

「それでは、本題に入ろう……。カービィ・アド・ウェルサー、そして新たなる時の神の使者モッモ。今宵お前達をここに呼んだのは、ある依頼クエストを受けて貰う為だ。お前達も知っているだろう、神話時代の悪霊と呼ばれた古き神々が、現代に目覚めつつある事を……。世界有数の魔法大国であるフーガは、それら邪なる神々を放っておくわけにはいかない。よって今、この世界の全ての国々を対象とした王議会を開催したく、各国に働きかけている最中なのだが……。お前達が向かう先である南東の地、パーラ・ドット大陸に現存する三国に遣わした使者が、悉く帰って来ないのだ。そこで、その地へ向かうお前達に、国王である私、ウルテル・ビダ・フーガからの直々の依頼として、使者達の捜索を頼みたい。パーラ・ドット大陸にて行方不明となった、我が臣下三名を、探し出してくれ」

 ウルテル国王の、宇宙のような瞳が真っ直ぐに俺を見つめている。
 俺は、その不思議な瞳に吸い込まれそうになりながらも、彼が発した言葉の意味を理解しようと、精一杯頑張ってみたのだが……

 あ? ん?? え???
 何が……、何なの????
 今、何を言ってたの?????

 いつも通り、俺の頭の上にも中にも、沢山のクエスチョンマークが溢れ返ったのだった。
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