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★港町ジャネスコ編★

153:モッモ的町並み解説!

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「あら、モッモさんお出掛けですか?」

「あ、はい!  ちょっとお買い物に!!」

「そうですか……。背後には気をつけてくださいね」

「えっ!?  ……は、背後、ですか??」

「はい。行ってらっしゃいませ、ケロロン♪」

   珍しく、まだ昼過ぎだというのに、タロチキと受付を交代したらしくロビーにいたリルミユに、不吉な言葉を掛けられて外に出た俺。

   背後って……、何それ怖すぎるっ!
   何何っ!?  私、メリーさん……、的なやつっ!??
   完全ホラーじゃんっ!???
   
   リルミユは、俺が討伐クエスト中にルーリ・ビーと遭遇する事を事前に言い当てていた。
   大きな木の根元には注意しろ、針に刺されるって……
   だとすると、さっきの言葉も何かの予言?
   背後って……、俺の背後に何がいるのっ!?

   悪寒を感じた俺は、バッ!と後ろを振り返るも、そこには隠れ家オディロンの玄関扉があるだけだ。
   お化けの姿は勿論ないし、メリーさんもいない……
   考え過ぎである、大丈夫、何もない何もない。
   ……けど、やっぱり気持ち悪いなぁ。
   両肩を手でバババッ!  と払っておいた。

   とまぁ、若干ビビりつつ。

   だがしかし、この港町ジャネスコに来て今日で四日目。
   町の雰囲気には慣れたし、道だってもう覚えているのだ。
   大通りは人通りが多いし、商店街はもっと賑やかだから、こんな真昼間からお化けなんてでないさ!  大丈夫!!  大丈夫ぅっ!!!

   ふんっ!  と大きく鼻を鳴らして、意気揚々と俺は歩き出した。

   小道を抜けて、西大通りに出ると、既に沢山の人や獣人、その他様々な種族が行き交っている。
   うん、ほら、大丈夫!
   こんなに沢山人がいるんだもの、怖いことなんてないさっ!!

   さて、テッチャに言われた通り、木の蔓を探さないとなぁ……
   けど、木の蔓なんてどこに売ってるんだろう?
   資材屋か、それとも道具屋か……
   まぁどっちにしても、商店街まで出た方が早そうだな。
  
   そう考えた俺は、西大通りを町の中心部である商店街へ向かって、テクテクと歩き出した。
   
   いざ一人で町を歩いてみると、前世の記憶の中にある町並みとは全く違う、色んな点が目に付くなぁ……、と、いう事で……
   突然始めます、モッモ的町並み解説!

   まず、沢山あるお店の入り口の扉について。
   これまで旅して来たオーベリー村やイーサン村に比べると、この港町ジャネスコは建物自体も大きいのだが、扉の違いには少し驚いた。
   普通の扉はドアノブが一つだろうが、ここジャネスコのお店、特に人通りが多い商店街に並ぶ各店と総合管理局、貴族の往来が多い北大通りに面した銀行や高級ホテルなどには、必ずドアノブが四種類付いているのだ。
   扉自体は、大きいもので3トールほど、小さくても2トールはあるだろう高さなのだが、そこには色んな体格の種族に合うようにと、四段階の高さのドアノブが用意されている。
   俺やカービィのような小さな種族向けの低い位置にあるドアノブに、ギンロが背伸びして手を伸ばしてようやく届きそうな高い位置にあるドアノブまで、一枚の扉にそれぞれ決まった高さで設置されているのだ。
   そのうちのどれか一つを回すと扉が開く仕組みになっているのだから、なかなかの職人技だと俺は思う。

   次に、通りに並ぶ街灯について。
   電気なんて勿論ないし、ガスも通ってないので何が原料なんだろうと思っていたのだが……
   昨日、討伐クエストを終えて駐屯所から帰る際にたまたま目撃したのが、魔道士であろう者達が一つ一つの街灯に火を灯して回っている姿だった。
   手に籠を持ち、その中に入っている紙屑のような丸い消炎剤か何かを片手でギュッと握りしめて、ボッ!  と明るい火を灯し、そのままふわふわと宙を漂わせて、街灯のてっぺんにある灯具の小部屋へと入れていた。
   お揃いの白いローブを纏った者達が、そうやって、数人がかりで町の全ての街灯に火を灯して回っているらしい。
   彼等は、国営ギルドにでも所属している魔道士だろうとカービィが言っていた。
   今は真昼間なので街灯は必要ないが……
   不意に視線を上に向けてみると、なんと、頭上に昨晩の白いローブの魔道士が浮かんでいて、俺はギョッとした。
   何やら、大きな丸いお盆のような物に乗って、街灯のてっぺん付近まで上昇し、灯具の小部屋に残っている燃えカスを掃除しているようだ。
   ……箒ではなく、お盆に乗っている姿がなんとも拍子抜けではあるけれど。
   なるほど、後片付けも彼等の仕事なのね、ご苦労様です。

   三つ目は、通りを駆けていく馬車を引いている馬車馬について。
   馬車というからには、馬が引いているんでしょ?  と思うだろうが、なんと、その馬が俺の知っている普通の馬ではないのだ。
   それはなんと、なんとなんと!  ユニコーンだ!!
   ……などという、美しく凛々しい誰もが憧れるファンタジー動物では決してない、残念ながらね。
   馬車を引いている馬車馬、名前も知らないその馬は、強いて言うならさいだな。
   ゴツゴツした灰色の筋肉質な体に、額には太くて頑丈そうな角が一本生えている。
   一角獣という点ではユニコーンと同じ部類に入るのだろうけど、なんせお顔がかなりブチャイクなのだ。
   目はゴマ粒のように小さくて、何か不服な事があるのか口角は常にだだ下がり、鼻は俺の顔よりデカイときた。
   頭の上に二つある耳だけは、こじんまりしていて上にピンと立っているので可愛らしいが、他のパーツとあまりにミスマッチ。
   とまぁ、なんとも可哀想な見た目なので、俺は勝手に残念馬と呼んでいる。
   けれど、俺の知っている馬よりも頑丈そうな体と足の持ち主なので、力は勿論強いし、重い荷馬車でも軽々引いている。
   だからきっと彼等は、この国には欠かせない貴重な存在なのだろうな~。

   俺的に、めちゃくちゃ珍しいと感じるのはその三点なのだけど、勿論他にも沢山、前世の世界では見た事のない、何なのかわからない物も沢山ある。
   お店の前にある看板に描かれている獣人の絵が、勝手に喋って客引きをしている姿なんて、俺からしたら恐怖以外の何物でも無いのだが……
   この町ではそれが普通の日常らしい、誰も気にも留めない。

「おい坊主っ!  野菜を買っていかないかいっ!?」

   威勢の良い兄ちゃん的な感じで、看板に描かれている山羊のような獣人の絵に声を掛けられて、ビクッ!  と身震いする俺。
   しかし、誰も看板に向かって返事をしている人など周りにはいないので、ドキドキしながらも、無視してその場を立ち去った。

   ふぅ~、驚いたぁ~。
   急に声を掛けないでくれ、心臓に悪いっ!

   とりあえず、まぁ、これくらいかな?
   では……
   以上!  今更ながらの、モッモ的町並み解説でしたっ!!

   さぁ~て、町の中心部である商店街に着きましたよぉ~!
   何処に売っているのかサッパリ検討もつきませんがっ!!
   なんとかして、テッチャに頼まれた木の蔓を探さなくちゃっ!!!
   
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