とある令息が幼馴染とくっつくまでの経緯

しそみょうが

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11 アンドリュー視点②

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3歳の頃に父が決めた婚約候補の令嬢達は年を追うごとに辞退して減っていき、私が13歳になるとサイドル候爵家のジョスリンと、王都から遠いリロイ伯爵領に住むニーナ嬢の2人となった。

ニーナ嬢は紅茶色の髪と瞳を持つ麗人だが、別の世界で生きていた前世の記憶があると信じ込んでいる風変わりな女性だ。彼女以外にも前世の記憶を持つ者がいる可能性について熱弁されたこともある。

私よりひとつ年上のニーナ嬢は、4歳の時に王都のパーティーで私の父に売り込みをかけて婚約者候補に収まった。彼女の目的は公爵夫人の椅子ではなく婚約者候補に年ごとに支払われる手当金だ。 

リロイ伯爵家は領地が貧しく、彼女には4人の姉がいる。1人は他家へ嫁いでいるが、残る3人の姉が嫁ぐまでは婚約者候補期間を引き伸ばしてほしいと頼み込まれており、伯爵家は彼女が継いで立て直すから私と結婚する気はさらさらないとも言われた。

読書家の彼女の前世の心残りは『もっとたくさん本を読みたかった』だそうで、それが原因で転生したと思い込んでいるものだから新しい本を無心する手紙が頻繁に私の元に届く。リクエストされて彼女に送った本のうちのいくつかが前世では知る人ぞ知る隠れた名著であるそうで、彼女はその著者が前世の著者本人か、その作品の熱烈なファンに違いないと確信を持っていた。

彼女の話は適当に聞き流していたけれど、幼い頃の彼女が年齢よりも遥かに大人びていたのは前世で大人だった記憶があったからだと聞かされた時にふとメルローを思い出した。

彼もまるで大人のように落ち着いた子どもだったから、もし彼がニーナ嬢の言うようにどこかの世界からの生まれ変わりなのだとしたら、メルローが前世で思い残したものとは何だろう。

以前にジュリアスと3人で囲んだお茶の席でメルローが『学園を卒業したら領主になる予定の兄様を補佐したいんです。住まいは王都と領地のどちらでも構わないけれど、温かい家庭を築くのが昔からの夢で』と将来の展望を語っていた。前世で家庭環境に恵まれなかったのが心残りで⋯⋯?と、そのあたりで考えるのをやめた。

ニーナ嬢の話の真偽はともかく、メルローの望む『温かい家庭』は、高位貴族の愛人や第2夫人とは対極にあるのだ。


◇◇◇◇


子爵家の庭園でメルローと2人で過ごした後、ジュリアスのおかげでしばらく会うのを控えることになってしまった私達は手紙で交流を続けた。

初心だと揶揄った私に腹を立ててか、やりとりを始めた当初、メルローからの返事は実に素っ気ないものだった。そこでニーナ嬢の手紙で知り得た青少年にこれから人気が出そうな本について綴ったところ、メルローから即座に返事が届くようになった。

目の前に彼がいない所為か、手紙の中では理想的な友人でいられた。




手紙だけのやり取りが続いてちょうど1年が経った頃、メルローの兄であるシオン殿が学園で伯爵家の生徒に絡まれ、怪我を負う事件が起きた。    

その件でメルローから助けを請われた私は、それを口実に彼ら兄弟を王都近郊の別荘へと連れ去った。

それまではバカンス中の父に代わり補佐官達と執務にあたっていたのだが、14歳の私に任されている仕事はまだ少ない。2~3日屋敷を空けたところで支障はなかった。

シオン殿の件は先方と少し話し合うだけで解決し、長らく空席だった彼の婚約者にも目途が付いた。

メルローとシオン殿から感謝されたまでは良かった。しかし手紙の文面ではない、生身のメルローと1年ぶりに会えた私はすっかりタガが外れてしまっていたのだ。

公爵領の静かな私有地の湖とは違う、他領の地元の住民達が利用する賑やかな貸しボート乗場の桟橋で私は口を滑らせた。

「私は君の婚約者を探すつもりはないから」

友人のラインを超えがちだった私の危うい言動もこれまでは冗談で済まされていたのに、君が好きだと打ち明けたのも同然だった。



メルローが領地に移ったのはそれからすぐで、手紙のやり取りも『領地の勉強に身を入れたいから』と遠回しに断られてしまう。

候補ではあるものの、婚約者のある身で彼を口説くような不誠実な男など避けられて当然だった。


◇◇◇◇


「アンドリュー、いい加減にあの伯爵家の娘を候補者から外してちょうだい!」

「ジョスリン、あの家にはまだ我が家から支払われる金が必要なんだよ」

「そんなの私が代わりに支払ってあげるわよ!」

「それじゃあただの施しだ。伯爵も面目が立たないだろう」

婚約者を決定するのをのらりくらりと先延ばしにしているのも不誠実な自覚があった。

「ねえ、私達もう14歳なのよ?」

「⋯⋯君に隣国の第3王子殿下から釣書きが届いていると聞いたよ。彼は聡明な人格者で容姿も素敵だ」

「ええ、そうね。けれど彼は歳が7つも上だし隣国は遠いのよ。アンドリュー。私が仮に貴方じゃなく隣国の王子を選んだとしても、貴方にはどうせ別の令嬢が充てがわれるだけなのよ?」

ジョスリンはジュリアスに良く似た美しい顔を歪めて皮肉げに嘲笑った。

「わかっているよ、そんなことは」

私が未だメルローを未練がましく想っているのを、ジョスリンには見透かされているのだ。


2年後には学園入学の為にメルローが領地から戻ってくる。再会した彼に冷たく突き放されれば、今度こそ諦めがつくかもしれない。



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