とある令息が幼馴染とくっつくまでの経緯

しそみょうが

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15 アンドリュー視点③

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新入生の挨拶をする為に上がった講堂の壇上から、小さくだがメルローの姿が見えた。遠い領地から戻って来た彼が同じ校内にいる。

多忙な入学式の翌日、彼の教室へと向かった。手紙すら断られたのだ。冷たく拒否されて未練が断ち切れるはずだった。

メルローはフィンリーを同伴する条件付きで会ってくれて、以前と変わらぬくだけた調子で話してくれた。それだけでも望外の喜びだったのに。

『僕は今まで、君を嫌いになったことなんてない』

大きな水色の瞳を潤ませてこんなことを言われてしまっては、彼を諦めるのはもう無理だった。




噂を口実に、メルローとはフィンリーを交えて校内で何度も会った。けれど校外への誘いは例えフィンリーと3人でも了承してはくれなかった。それが彼なりの線引きだった。視線や言動の端々から私への気持ちを滲ませていながらも、彼は私に決して手を伸ばそうとしなかった。





学年末の迫ったある日、メルローがフィンリーと中庭のベンチに座っているのを見かけた。驚かそうと死角から近づく途中、彼らの会話が耳に届く。

「なあ、メルロー。俺さ、お前のこと友達としてすげえ好きだぜ。ちっとも貴族っぽくねえから一緒にいて気がラクだし」

「ははっ。奇遇だな。僕もそう思ってたよ」

「マジかよ。俺ら両想いだな!⋯⋯んで、考えといてほしいんだけどさ。俺とお前が結婚すれば、毎日楽しく暮らせると思わねえ?」

「唐突だな。でもまあ、想像してみたら楽しそうではある」

「だろ?お互い恋愛感情とかはねえけどさ、俺もお前も婚約者いねえし、今さらマトモな相手なんか見つかりっこねえじゃん。だから、よかったら検討しといてくれよ」

「おー。前向きに考えとく。取りあえずはデビュタントに向けてダンスの練習しなくちゃだよな。僕は一応男性パートも女性パートも踊れるから、僕が君をエスコートする感じでいこうか」



そこまで聞いて、彼らに気付かれる前にその場を去った。



メルローとフィンリーがデビュタントでペアになるのは本人達の口から聞いていた。また私が当日ジョスリンをエスコートすることも、彼らは他の人間から知らされていた。ジョスリンの派閥の令嬢達だろう。父とサイドル候爵でジョスリンを正式な婚約者に決める話が進められており、デビュタントの翌日には書類にサインすることになっている。

そして私はフィンリーとジュリアスの事情を知っている。

まだ幼い内にジュリアスの第2夫人となる運命が決められた所為か、いつまでもその将来を嫌がるフィンリーに、ジュリアスは1年間の猶予を与えることにした。

まずジュリアスがフィンリーを第2夫人候補から外したと社交界で広め、学園入学からデビュタントまでの1年間でフィンリーが貴族の結婚相手を見つけられたら、そのまま自由にしてやると約束したそうだ。

だがジュリアスはフィンリーを手放すつもりなど最初から無く、長らく高位貴族の寵愛を受けていた彼にまともな相手は見つかるまいと高を括っていた。たとえ彼が相応の結婚相手を見つけても裏から手を回して縁談を潰す気でいたのだ。

しかしまさかフィンリーが選んだ相手がメルローだとは。

ジュリアスはメルローには手を出せない。ジュリアスはメルローを友人として気に入っているし、何よりメルローの身に何かあれば、彼の父を溺愛する私の父が黙っていない。

このまま私がジュリアスに黙っていればフィンリーとメルローは結ばれる。フィンリーは高位貴族の第2夫人という意に染まぬ立場から逃れられ、メルローはかねてからの望みであった温かい家庭が手に入るのだ。

彼らは互いに恋愛感情は無いと言っていた。たとえ今はそうでも、共に暮らしていくうちにいずれ──


◇◇◇◇


「クソッ。よりによって相手がメルローとはな」

私の自室で憤慨するジュリアス。

相手がメルローでなければ黙っていた。だが私はフィンリーがメルローを選んだ旨を迷わずジュリアスに報せた。

報せを受けたその日のうちにジュリアスは領地を発ち、王都へと戻ってきたのだ。

「ジュリアス。フィンリーの件をお前に報せてやった見返りをもらいたい。これをデビュタントで私に用いるように、それとなくジョスリンを唆してほしい」

粉薬の包みをジュリアスに渡す。中身は興奮剤だ。

「⋯⋯何を企んでいるのか知らんが、妹を陥れる策なら協力はしない」

「企みなんて大層なものじゃなく、ちょっとした賭けだよ。フィンリーとメルローのことをお前に教えてやったんだ。私にも少しくらいチャンスをくれても良いだろう。それにフィンリーがメルローと結ばれれば君はフィンリーを失うんじゃないか?」


ジュリアスは舌打ちしながら薬の包みを受け取った。

 

◇◇◇◇




「何だか具合が悪そうね?休憩室で少し休みましょう。部屋を押さえてあるの」

メルローに手渡されたグラスに興奮剤が仕込まれていたのだろう。身体が徐々に熱を帯びてきた。


休憩室の扉が閉まるとすぐにソファに押し倒され、ジョスリンがドレスの胸元を肌けながら私の腹に馬乗りになる。

「ジョスリン。私に何か盛ったのかい」

「ええ。興奮剤をね。あなたは優秀だけど煮えきらない人だから、婚約を覆されないようにしたかったのよ。私があなたと休憩室に消えるって友人達に知らせてあるの。だからこれは周知の事実よ」

夜会服の上着を脱がされて、ブラウスのボタンがひとつずつ外される。彼女の細い手に身体をまさぐられている間中、されるがままにしていた。

「⋯⋯アンドリュー。ねえ、どうしてなの?」

何をされても私の雄は萎えたままだった。

「ごめん。ジョスリン。私はどうやら君を愛せない身体らしい」 

「最低ね、あなた」

彼女に強く頬を叩かれた。





休憩室とホールを繋ぐ廊下を抜けてすぐの辺りで、ジョスリンの取り巻きの令嬢達がたむろしていた。彼女達は私の姿を見ると驚いていた。

「キャッ⋯カエリオン様っ!?ジョスリン様と休憩室に行かれたのではなかったのですか?それにそのお姿は」

上着は無く、ブラウスのボタンはほとんど外れて、頬には赤い手形が浮かんでいるだろう。公爵令息のくせに品位の欠片も見当たらない、みっともない格好だ。

「私はどうやら人を愛せない身体だったらしくてね。判ったのが結婚前で良かったよ。彼女に寂しい想いをさせるところだった」

「そんな」「あのカエリオン様が」

彼女達はジョスリンが私に興奮剤を盛ったことまで知っていたようだから、私の醜聞はお喋り好きの彼女達からすぐに社交界中に伝わるだろう。カエリオン公爵令息は興奮剤を盛られても勃たない男だと。





そのまま足早にホールを突っ切り、城の馬車留めに向かった。

公爵家の馬車の扉を開けると、フィンリーを抱えたジュリアスが座席に座っており、彼らの向かい側の座席にはメルローが横たえられていた。メルローもフィンリーも健やかな顔で眠っている。

「何も睡眠薬を使わなくても」

「この跳ねっ返りを捕まえるには仕方がなかった。メルローはそのついでだ」

ジュリアスは銀縁眼鏡の向こうから私を睨み付けて舌打ちした。

「チッ⋯⋯本当に戻って来るとはな。ほら、水と薬はそこに置いてある」

「ありがとう」 

馬車の座席に用意されていた、興奮剤の効果を緩和する薬と水筒を手に取って一気に飲み干す。

もし私が薬を盛られた興奮状態でジョスリンに手を出すことなく馬車に戻って来られたら、私は女性と結婚できない身体だと偽るつもりでいた。

彼女のことだから私と既成事実を作るつもりだと事前に周りの令嬢達に吹聴するだろう。その上で私が休憩室から間を空けずに出て行けば、私は不能だと社交界に広まるはずだと考えた。その為にジュリアスには馬車で待機してもらっていた。

以前にジョスリンに強請られて1度だけ唇を合わせた時に私の身体は反応しなかったから、そこに賭けたのだ。

「不能を偽るまでもなく、本当に勃たなかった。私は女性と後継を残すのは無理らしい」

「ずるいぞ、お前だけ」

「仕方がないだろう、勃たないものは。そもそもジョスリンが薬を盛る選択をしなければ、私は明日には彼女の婚約者に納まっていたよ」

そしてメルローも諦め切れず、早晩彼に手を出していただろう。

「ジョスリンにごめんと伝えておいて。絶対に許してもらえないと思うけど」

「フン。まあそうだろうよ。長々と婚約者候補期間を引き伸ばされた挙げ句がこの仕打ちだからな。最悪なやつ」

「彼女にも最低と言われたよ」



馬車に半身だけ乗り込んで、座席で眠るメルローを両腕で抱え上げる。

「一緒に帰ろうか、メルロー」

「⋯⋯アンディ⋯?」

声を掛けるとメルローが薄く瞳を開けた。ジュリアスの護衛に嗅がされた睡眠薬の効果はまだ抜けないようだ。

「あれ⋯⋯どうしてアンディが⋯⋯?」

「メルローが私にグラスを手渡す時に泣きそうな顔をしていたから、戻って来たんだよ」

「そっか⋯⋯うん。わかった、これは夢だな⋯⋯それもすごく良い夢」

「まだ眠そうだね。おやすみ、メルロー。夢かどうかは起きてから判断したらいい」 

待機させていたもう1台の馬車に乗り込んで私達は公爵邸に帰った。

「神様への誓いを破らずに済んだね」




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