前世タチだった悪役令息はできれば攻役をネコにしたい

しそみょうが

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12 お義父様に詰められる

翌日の晩、王都の子爵邸でかねてから予定されていたパーティーが開かれた。エイメリーのお誕生日パーティーである。

ごく近しい親戚や学友だけを招いた小ぢんまりとした規模ではあるものの、主賓の衣装や提供される料理に気合いが入っているのは継母の采配だろうか。

俺はハーディ様にエスコートされて親戚のおっさんやおばちゃんに挨拶回りの最中なのだが、皆一様に奥歯に物が挟まったような顔をしている。俺の学園での悪評やハーディ様とエイメリーとの三角関係(?)を耳にしているけれども、俺とハーディ様が仲良く連れ立ってパーティーに出席している前で正面切って実際どうなのよとは訊けないもどかしさの表れた顔だ。

親戚との挨拶をひと通り終えたところで、いよいよ主賓への挨拶だ。この日の為にお高めの万年筆を誕プレとして用意しておいたが、昨日の今日でこれを渡して果たして喜んでくれるのか。

そう思っていたところへ俺の肩をポンと叩く者が現れる。

「ご無沙汰しているね、ジュディス。将来の義息子よ。ちょっと君に尋ねたいことがあるのだが」

仕事で遅れて登場したお義父様に俺は別室へと強制連行された。


◇◇◇◇


俺が色街に出入りしているのを見たという証言があったり、学園で俺と関わりのあった貴族の令息がことごとく雌堕ちしているのはどういうことかと、貴族学校の保護者達から王宮騎士団勤めのお義父様の元へお問い合わせが殺到しているようだ。

「特に色街では《薔薇の館》のエントランスホールを、ジュディスがシンプトン商会の跡取り息子と連れ立って堂々と歩いていたのを私の直属の部下がその目で見たと報告を受けているぞ!」

《薔薇の館》はリードの取り引き先である男娼館の店名だ。

「シンプトン商会の子息とは友人で《薔薇の館》は彼の取り引き先のひとつです。私はたまたま商談に付き添っていただけですよ。疚しいことは何も」

「何を抜け抜けと。貴族の子弟たるもの、学生の身でそのような場所に出入りしてはならんのだ!そなたは我が息子ハーディに嫁ぐ身なのだぞ。このような醜聞が広がり他者に純潔を疑われる状況では、当家としてはジュディスの婿としての資質を問わねばならぬ」

子爵家の応接室でお義父様から詰められている俺は窮地に陥っていた。お義父様の部下の人直々に目撃されていたとあっては『飽くまで噂ですから』なんて言い逃れは通用しない。婚約破棄だけは、婚約破棄だけは勘弁してくれ。

「父上!」

「ジュディス!」

そこへガチャリとドアが開いて心強い援軍が現れる。

「なんだハーディ!⋯と、これはサリアーニ子爵まで。ハーディ、それにサリアーニ子爵。ここは私とジュディス一対一の話し合いの場なので今は遠慮願いたい」

お義父様はハーディ様とうちのお父様をキッと睨み付ける。既に涙をダバダバと流しているお父様はビクっとなったが、ハーディ様は動じない。

「いいえ父上。私の婚約者をその様に強く叱責されては黙っている訳には参りません。色街を彷徨いたのは確かにジュディスが迂闊だったかもしれませんが、彼は不貞など致しておりません。私の伴侶は彼以外に有り得ない」

ハーディ様はご自分の胸元から例のお揃いのペンダントを取り出して見せると「ジュディスも」と言われたので、俺もブラウスの襟をくつろげてペンダントをお義父様に掲げて見せた。

「こ、これは⋯ハーディよ。お前の想いがこれほどまでとは⋯」

ペンダントを見たお義父は何か驚愕した様子でうち震える。うちのお父様も「ハ、ハーディ殿ぉっ⋯そこまでジュディスのことをっ」と感極まりハーディ様に縋り付いたので、ハーディ様がちょっと困惑されていた。

「なるほど、お前達の絆の固さは理解した。ジュディスは今後は不貞を疑われるような行動はゆめゆめ慎むように」

「はい、お義父様。今後は見られてはならない場所へは変装して伺うことにいたします」 

「そもそも行くなと言っている!⋯そうだ、それともう一件のほうはどうなのだ。もちろん関わりは無いのであろうな?」

「ええーと」

俺と関わった高位貴族の子弟他が次々に雌堕ちしている事件について言及され、言い淀む俺の代わりにハーディ様が答えてくれた。

「先日のアヴィニョン公爵家のダリオン令息の件でしたら、かの令息は身分を笠に、目を付けた幾人もの下位貴族の子息を学校のサロンへ呼び出し毒牙にかけていたと聞き及んでおります。恨みを買っていた相手は両手の指では足りないかと。被害者らの関係者のいずれかに復讐されたと考えた方が妥当なのでは?ダリオン令息以外の方々も手癖の悪さに定評をお持ちの方ばかりでしたし、たまたま彼らが退学や休学される直前に言い寄っていた相手が全てジュディスだったというだけで、ジュディスが彼らを陥れたと断定するのは如何なものでしょうか」

「ううむ⋯確かにジュディスが関与したという明確な証拠があるわけではないと聞いてはいるが⋯だが彼らが最後に言い寄っていたのが揃いも揃って全員ジュディスってそんな」

ごめん実行犯なんや。だが俺のケツを差し出すわけにもケツを差し出さない代わりにハーディ様や俺の関係者にパワハラ被害が及ぶのもノーサンキューだった俺の苦肉の策だったんや。闇討ちでボコボコにするよりはマシかと思って。

俺はお義父様に向けて上目遣いで自慢の睫毛をバサバサさせ、可愛いさアピールしてみる。思い出してくれ俺がチビっ子だった頃を。お義父様のことがドタイプだった俺はめちゃくちゃ懐いて愛嬌を振り撒きまくり、お義父さまも天使の様な幼子の俺に好かれて嬉しそうにしてたじゃないか。出会った時のお義父様は23歳、あれから11年で現在御年34歳。前世の俺のストライクゾーンだな。俺はもうハーディ様一筋なので昔のようにお義父様を性的な目では見ないけれども、相変わらずのシュッとした細マッチョイケメンで二十代でも全然通る美貌をお持ちである。

俺が美しいお義父様をガン見していると、曇りなき眼で見詰められている!?と勘違いしたのかお義父様の態度が急に軟化した。

「う、うむ。まあなんだ、ジュディスは5歳の頃から我が家に遊びに来ていたが、思い返してみれば子どもの頃から真面目で落ち着いた子であったな。それが学生になった途端に人が変わったかの如き風評が耳に届くようになった所為か、私も狼狽していたようだ。どうも我が息子は子女らに人気のようであるし、ジュディスも人一倍整った容姿をしている。嫉妬から悪評を流されたのであろうな。ジュディスよ、そなたに言い寄る輩が現れたら今後は私に相談しなさい。王宮騎士団所属の義父が力になろう」

「はい。ありがとうございますお義父様!」 

「それと娼館に足を運んではならん」

「わかりましたお義父様」

ダリオン令息はじめ雌堕ちした令息達の親御さん達は手を焼いていたドラ息子が嫁に行ってくれて怒るどころか安堵しているそうである。高位貴族から圧力を掛けられることにならずに済みそう。

お父様が「今夜はもう部屋に戻って休みなさい」と気遣ってくださり、俺とハーディ様はパーティーに戻らずそれぞれ自室に下がることとなった。お義父様によってパーティー会場から別室に連行された俺と、後を追うように退出したハーディ様が今から会場に戻れば悪目立ちどころの騒ぎじゃないからな。誕プレはお父様に渡してもらうことにした。

お義父様はパーティーに少し顔を出した後で王宮に戻られるようだが、夜も遅いし身内同然のハーディ様は我が家のゲストルームに泊まって行かれる。他にも遠方からの招待客が今夜は何組か逗留するそうだ。

「ジュディス。父上がすまなかった」

「いいえ。私の浅慮な行動に問題があったのです。それにハーディ様が駆け付けてくださった時、本当に心強くて⋯このまま婚約破棄されてしまうのではと、恐れ慄いておりましたから」

婚約破棄が回避できて本当に良かった。

「父上はご立派な方だが、少々直情的なところがお有りだからな。このペンダントを身に着けていて良かったよ」

「そう言えばペンダントを見せた瞬間、お義父様達のご様子が変わられましたね。あれは一体」

「ああ。このペンダントにはお互いの愛を証明し合う意味があってね。知る人ぞ知るレアなアイテムなのだよ」

「そのような貴重なものを私に⋯ありがとうございます」

俺は心の中で盛大にデレデレする。 

しかしこれが、そんなすごいペンダントだったとは。外そうとしても外れない仕様なのも納得である。寝てる間は外したいなあと思っていたけれど我慢しよう。

ハーディ様に私室の前まで送っていただき、自室で1人になった俺は、正装を解いて自分で風呂を沸かして入った。いつもだったらジャックが沸かしてくれるのだが、パーティー会場の後片付けや客の送り出しなんかに駆り出されているのか姿が見えない。

俺が不在の間にジャックが置いておいてくれたのか、テーブルの上にレモンっぽい果物が浸かった水がピッチャーで用意されてあったので、グラスに注いで風呂あがりの1杯どころか2杯3杯とグビグビいただく。パーティーでは禄に飲み食いしていないのを思い出し、急に腹が減ってきた。

ハーディ様にはメイドに頼めば軽食を運んでくれると思うが、俺の部屋はジャック以外の使用人は出禁のためジャックがいないとセルフ兵糧攻め状態だ。招待客がうろうろしている屋敷内で俺が厨房に食い物をねだりに行くわけにもいかないし。レモン水を置きに来てくれた時にできれば食い物も添えてほしかった。忙しかったのかな。

しょうがないので筋トレ後のプロテイン代わりに常備している干し肉でも食うかと机の抽き出しを漁っていると、部屋のドアあたりでカサリと紙がこすれるような音がした。

「なんだ?ジャックか?」

ドアのあたりに近付くと、部屋のドア下の隙間に白い紙片が差し込まれていたのを発見する。拾い上げると紙片は折りたたまれた便箋で、広げれて見ればこの様な走り書きがしてあった。


『ジュディス様へ

貴方の婚約者の真実が知りたければ、今すぐエイメリー様の部屋においで下さい』


実に胡乱な一文である。罠の匂いしかしないのだが。

手紙の文字の筆跡に見覚えは無いが、俺には差出人に心当たりがあった。



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