前世タチだった悪役令息はできれば攻役をネコにしたい

しそみょうが

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14 お前も道連れにしたる

これはちょっと前、悩みに悩んだ末に2つめのスキルを創造した時のことだ。

「ジャックに頼みがあんだけどさー、ちょっと新しいスキル試させてくんね?」

「スキルって⋯あのジュディス様の胡散臭い固有魔法のことですよね」

ジャックはあからさまにイヤそうな顔になった。

この世界、魔法は当たり前に使われているけれどもスキルの存在はほとんど知られていない。2000年ほど前までは子どもが生まれると教会でスキル鑑定の儀式を行っており誰もが自分のスキルを認識していたそうが、スキルが原因で人身売買や人間狩りが横行しまくった暗黒の時期が訪れた際、女神が人間にスキルを鑑定できないようにしたからだ。

なのでジャックは俺が1個目に創った《感度◯倍》のスキルを俺が編み出した固有魔法だと思っていて、俺がスキルを使った途端に刺客やモブレ令息がビクンビクンし出す様子にいつもドン引きしていた。

「今度のやつは胡散臭くないって。聞いて驚け、なんと時間を停止させることができるのだ!」

「いや胡散臭いっす」

「時間停めてる間に効果を検証する目的で脇腹こちょこちょするけどごめんな!」

「うおお⋯イヤすぎる⋯」

俺がジャックに対しておニューのスキル《時間停止》を行使すると、ジャックの動きがピタリと止まり、身じろぎどころかまばたきもしなくなった。

「おー。これよこれ。では少々失礼して」

俺はジャックの脇腹を3分ほどこちょこちょした後、満を持してスキルを解除した。

「お゛あ゛あ゛っ⋯キモっ、なんだこれキモ!脇腹が絶え間なくゾワゾワするんすけど!?何してくれてんですかジュディス様!」

「俺がジャックの時間を停めてる3分間キミの脇腹をくすぐった刺激が今、一気に襲いかかっているのだよ。ていうかもっとアヒャアヒャ笑うジャックを想像してたのに、お前って脇腹あんま弱くねえのな」

「結局またろくでもねえ固有魔法じゃねえかクソが!」

侍従にクソと言われてしまった。確かに《感度◯倍》も《時間停止》も前世のAダルトなVデオで見てこんなこと現実で出来たらな~というろくでもない憧れを元に創ったものであるが、時間が停止できれば、例えば今にも当たりそうな敵の攻撃を間一髪で防げたりもできて有用だと思ったのだ。

「うーん。だが思ってたんと違うんだよな。俺がイメージしたのは世界中の時間が一斉に停止する感じのやつなのに、スキルを行使して止まったのはジャックの時間だけだったんだよ。ジャックをくすぐってる最中ずっと窓の外で鳥がチュンチュンさえずってたからな」

「ええ⋯俺マジで止まってたのかよ⋯つーか世界の時間止めるってそんなん悪事し放題じゃないですか」

まあ大元が世の中の時間を止めてる間に誰にも咎められずにエロい悪事を働くって趣旨のやつだからね。

ジャックが「もはや神の所業ですよそこまでいくと」と続けたのを聞いて、スキルに制限がかかったのってそれか?と教会に行って女神に訊ねてみると、まさにその通りだった。


『この世の全ての時間に干渉するのは我らとて多大な力を消費するのだぞ』


世界の時間を操作するのは人間がおいそれと使えるレベルの技じゃないそうだ。

女神は現代日本に転生したジュディス君の近況も世間話のノリで教えてくれた。繊細な性格は相変わらずなものの、今では数人の気の合う友達に囲まれて平凡ながら楽しい学生生活を満喫しているとのことで、良かったなあと俺は思った。


それにしてもスキルの件は残念だった。もし世界の時間を操れるスキルが創れたのなら、エイメリーの誕生パーティーの後に俺がレモン水を飲む前の時間まで巻き戻すことができたのだ。

転生した時に女神に課せられた『愛する人と生涯添い遂げる人生』はもう俺には送れそうもない。

だが冤罪で鉱山に送られ非業の死をとげたジュディス君の代わりに、継母に報復するくらいはできそうだ。お父様への托卵阻止も兼ねて。



意識がだんだんと浮上する俺に、ミゲルがぶつぶつ呟く声が聞こえてきた。

「ったく、どうしてこいつはこんなに重いんだ。倒れる前に重量操作の魔法でも使ったのか?しかし魔法の成績はエイメリー様と違ってさっぱりだと聞いているぞ。高度な魔法は使えないはずだが」

俺の筋肉密度はエグいので180オーバーで良いガタイのジャック2人分くらいの重量がある。

「傷物にしてやろうと刺客をどれだけ送っても失敗するし⋯闇ギルドで刺客を雇った金とこいつに盛った薬代で俺の給金がどれだけ消えたことか。どこまでも忌々しいガキめ」

あの刺客達は命を狙ってたんじゃなくモブレ要員であった。

聴力に続いて視界もはっきりしてくると、俺がいる場所は裏庭の小屋ではなく、屋敷の1階と2階の中間にある階段の踊り場だとわかる。どうやらぜえぜえと肩で息をしているミゲルが、俺の身体を抱えて小屋を目指して頑張って運んでいる最中のようだ。

薬のせいで気を失ってからどれだけ時間が経過したかは不明だが、2階のエイメリーの部屋の方向から結構な人数が騒いでいる声と、継母が大声で何かをわめいているのと、お義父様の「静粛にせよ!!」というクソデカボイスが聞こえてきた。


ああハーディ様とエイメリーのあの現場が衆目にさらされたところなんだな⋯


「ん?何だ!?肩のあたりがなんかビショビショに濡れてるっ」

俺の目からダバダバと流れる涙と鼻から溢れる鼻水がミゲルの服に染み込んだ部分があっと言う間にずぶ濡れになり、驚いたミゲルが俺を踊り場に放り投げた。俺は空中で一回転して着地する。

「なっ⋯ジュディス様!?もう起きるとか嘘だろ、魔獣でも半日は昏睡する薬だぞ!?」

「俺は消化吸収分解する力も強いんだ。生きて腸まで届く乳酸菌とて俺の腸には届くまい」

「ええい、何を訳のわからんことを!ジュディス様、貴方にはもう一度眠っていただく!」

自分が何を言ってるんだか俺にだって分かりはしない。傷心でヤケクソの敗残兵、それが今の俺なのだ。ミゲルが腰に佩いた剣を鞘ごと振りかぶって俺を物理で昏倒させようと襲いかかってきたのを逆にこちらが捕まえる。ミゲルの手から鞘付きの剣を奪い取って踊り場に投げ捨てると、その身体をひょいと抱き上げた。

「な、何をするっ」

「裏庭の小屋まで行くんだよな。俺がお前を運んでやるわ。そこで不貞の現場を捏造して派手に見せつけてやるんだろ?」

「!?そ、そうだが⋯ちょ、とにかく私を一旦おろせっ」

「ハァ。俺だってどうせ姫抱きするならハーディ様が良かったわ」

肩に担ぐより身体の前面で持つほうが暴れられても拘束しやすいので仕方なくの姫抱っこだ。

ミゲルを抱えてスタスタと階段を降り、1階のエントランスホールを突っ切る。華奢で小柄に見える俺がお義父様と似たような体格のミゲルを姫抱っこする姿に驚いたのか、パーティーが終わりエントランスホールの掃除中と思しきメイド達がポカンと俺達を眺めている。

俺は腕の中のミゲルにニタァと笑いかけながらこう言った。

「お前さっき俺に娼館と鉱山、どっちに行きてえか選べって言ったよな。お前を娼館に送り届けた後で俺が自ら鉱山に行くってのはどーよ」

お前も地獄に道連れにしたる。

「ヒッ、誰か助け、モゴッ」

助けを呼ぼうとしたミゲルの口にハンカチを押し込み黙らせると、玄関を出て裏庭の小屋へと向かった。




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