義息子婿のあり余る性欲をぶつけられる伯爵家当主(34)の話

しそみょうが

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番外編

その後の話と王城の夜会

マリオンを乗せた馬車が陸の北端の街へ到着した頃には連絡船の渡航がちょうど再開されていたそうで、彼は無事(?)孤島の修道院に強制送還されてしまった。

ワイアット君がマリオンの様子を知らせてくれるよう修道院に話を通してくれたおかげで、院長から月に一度ほど便りが届く。今のところ息子は不承不承ながら問題を起こすことなく、健やかに暮らしているようだ。


想いを確かめ合った日からおよそ二ヶ月が経ち、王城に提出した書類が認められた私とワイアット君は正式に婚約者となった。現在は婚約期間中である。

この国では同性同士の婚姻も許されているが、貴族家の当主が同性を伴侶とする場合に考えなければならないのが後継の問題だ。

一応、我が家にはマリオンという息子がいるけれど、彼はワイアット君とさほど年齢が変わらない。『当分は二人だけで過ごしたい』というワイアット君の強い意向もあり、そのあたりの問題は追々考えることにした。


度々没落しかけてきた我が伯爵家は、ワイアット君が来てくれてからというもの、領地の景気は右肩上がりだ。今日も屋敷に彼の商談相手が訪れる予定である。

夫となる彼がお世話になっている相手だ。『私も挨拶だけさせてもらってもいいかな?』とワイアット君に提案したところ『駄目です』と食い気味に断られた挙句、ぐいぐいと背中を押されて自室に押し込められてしまった。

テーブルには湯気の立つ紅茶と美味しそうな菓子が並べられ、ドアの外には二名の護衛が配備された。ワイアット君が『商談が終わるまでくれぐれも彼を部屋の外に出さないように』と彼らに言付けていたから、おそらく私は軟禁されているのだろう。

我が家にビジネス関連の来客はこれまで何人もあったのに、この様な事態は初めてである。一体どんな人物が来るのか気になって窓から外を眺めてみると、ちょうど庭のロータリーに停車したばかりの立派な馬車から降りてくる客人の姿が見えた。

白くてヒラヒラした長衣に金の刺繍が施されたエキゾチックな装束を身に纏った彼らは、褐色の肌に整えられた顎髭が大人の色気を醸している中年の男性と、彼に顔立ちと肌の色がよく似た精悍な美青年の二人連れであった。後ろに従者や護衛らしき人間をぞろぞろと引き連れている。

褐色肌の美青年……どこかで聞いたことのあるフレーズだな。



─数時間後。

来客が帰るなり部屋に戻ってきたワイアット君に、私は思い切って訊ねてみることにした。

「若いほうの客人は、もしかして一瞬だけマリオンと恋人同士だったザイード君じゃないのかな?」

「いえ。容姿は双子のように似ていますが、彼はザイードの従兄弟のラシードです。ザイードはマリオンと別れてすぐ国に戻っています」

「従兄弟……ラシード君か。名前も似ているんだね」

ワイアット君によると、彼らはこの王国最南の港から海を渡った大陸にある王国の高位貴族なのだそうだ。自国の特産である香辛料や織物、宝石等の商いを一族でしているという。

彼ら一族とワイアット君は元々取引があり、ちょうどマリオンが修道院から戻ってくるタイミングでこの国に滞在していたのがザイード君だったから、彼にマリオンを誘惑して国外に引き取ってもらえるよう話を持ちかけていたのだそう。

「ザイードの国の王族と貴族は一夫多妻制です。嫁げば裕福な暮らしを約束されますが、夫の許可なく城や屋敷を抜け出すのは重罪ですから、そこならマリオンも二度と恋愛沙汰で周りに迷惑をかけずに済むだろうと目論んでいたのですが……」

マリオンをザイード君に連れていってもらう為に一夫多妻制であることは伏せるよう伝えていたらしいが、暑さを理由にザイード君を袖にするのは予想外だったそうである。

実はワイアット君が単騎で馬を飛ばして隣の領に向かったあの日、彼が騎士から受けていた報告は『マリオンがザイードと別れる旨の書き置きを残し行方不明になった』というものだったらしい。

「そ、そんな裏事情があったなんて……ところで、どうして君は私をこの部屋に閉じ込めていたんだい?マリオンが振ったザイード君の親族と顔を合わせたら私が気まずいだろうと配慮してくれたのかな」

「そうではありません。魅力的な貴方が彼らに見初められて連れていかれてしまっては、取り戻すのは至難の業です。あちらの国では妻が逃げ出すのは重罪ですから、そうならないよう厳重な警備を敷いています。武力で奪い返せば国と国との戦争に発展してしまいますから」

キリリとした顔つきのワイアット君。彼のこういった発言を以前は冗談かお世辞だと思っていたが、大真面目で言っているのだと今ならわかる。私があのエキゾチックイケメン達の目に留まり連れ去られるかもしれないと、彼は本気で危惧しているのだ。

ちなみに私は彼が部屋に来た時からずっと、ソファに腰を下ろした彼の膝に横向きに乗せられている。

「ありがとう。私の身を案じてくれたんだね。だけど、いくらなんでも大事な商談相手の伴侶である私を無理に連れ去ったりはしないさ」

「確かに強引に連れ去ったりはしないでしょう。ですが、彼らは稀に見る美丈夫なので……」

「……ん?まさか君は、私の心変わりを心配していたのかい?」

「……心変わりというか……まあ、そうです。ラシードはともかく、父親の方は貴方と年齢が同じなのです。あの顎髭や人を食ったような余裕のある態度……貴方がそこに惹かれたら、若輩者の俺には太刀打ちできません」

ワイアット君が雪の中、馬を飛ばして伯爵家に戻る道中に『お義父さんがダンディな同級生とワンナイトしてたら』と不安がっていたことを思い出した。

私と彼は年齢が離れているから、そういったことが気になるのだろう。私が彼とマリオンが並び立っている姿がお似合い過ぎて傷付いていたのと同じように。

私はワイアット君の頬に手を添えて彼の瞳を見つめた。

「君は私にはもったいないほど素敵な夫だから、心変わりする暇なんてないよ。中年になった君もすごくかっこいいだろうし……もしそうじゃなくても、私は変わらず君だけが好きだと思う」

むしろ彼に心変わりされてしまったら、泣き暮らして衰弱死する未来しか見えない。

ワイアット君の口が『フィ』を発音する形になった。けれど結局、彼は言葉を発する代わりに深い口付けをして、私はそのまま逞しい胸の中に抱き込まれてしまった。

ワイアット君は照れているのか、まだ『フィリオ』と私を名前で呼んではくれない。

それどころか咄嗟のシーンではいまだに『お義父さん』と呼ばれてしまう。

ちょうど昨日もそうだった。何もない廊下でつまずいた私があわや階段から落ちそうになり、間一髪でワイアット君に助けられたのだが、その時も彼は『お義父さん!』と叫び私の腕を引いていた。

いつか名前で呼んでくれるのを、密かに期待しているのだけれど。


◇◇◇◇


その翌週、私たちは王都を訪れていた。
毎年慣例となっている、子爵家以上の貴族家当主は絶対参加の夜会に参加するためだ。当主本人だけでなく、そのパートナーや令息令嬢らの参加も自由だ。

会場は王城で、マリオンが騒ぎを起こしてからは場が荒れるのを防ぐためか、これまではやんわりと来ないでくれと通達されていた。

しかし今年は正式にデシャネル公爵家の後ろ盾ができたのと、ワイアット君と私の婚約を周知する目的で、参加するよう招待状が届いたのだ。

夜会への出席は実に数年ぶりである。それにマリオンのせいで婚約が破談となった貴族家の方々とも顔を合わせることになるだろう。なんだか胃が痛くなってきた。

すると隣を歩くワイアット君が、私の手をそっと握って微笑みかけてくれた。夜会服に身を包んだ彼はまた一段とかっこよくて、今度は胸が高鳴ってしまう。

……かっこいいのだが、今日に限って、彼は以前のように前髪をおろして顔の上半分を隠している。

「本当に、王城の夜会にその前髪で出ても大丈夫なのかい?陛下への挨拶もあるんだよ」

「以前は伸ばしっぱなしの髪を整えずに公の場に出ていたので、あの頃よりマシですよ。叔父上にもいつもその姿で会っていたから平気です」

陛下が『叔父上』なあたりがさすが公爵家の令息である。

「まあ、ワイアット君がそう言うなら……それによく考えてみたら、君が前髪を上げたら会場中の令嬢や令息からダンスの申し込みが殺到してしまうだろうしね」

「貴方以外のダンスの誘いは全て断りますよ」

「失念していたけど、私は女性パートは踊れないんだった」

「陛下への挨拶を終えたら即刻帰る予定でいますから大丈夫です。貴方にダンスを申し込む輩がいれば俺が全て断りますし」

「そうかい?だったらいいんだ」

……いいのかな?まあ、下手に社交をして揉め事を起こすよりはその方がいいのかもしれないな。

それにしても、前髪を上げているワイアット君もかっこいいけれど、こうして前髪を下ろしている彼もミステリアスな雰囲気で素敵だ。我が家にやってきたばかりの頃の彼は、いつもこの髪型だった。

「何ですか?そんな可愛らしい顔で見て。これから夜会だというのに誘惑しないでください」

懐かしくてじっと見ていたら、大きな掌で視線を遮られてしまう。

私たちの夜会服はお揃いだ。彼が誂えてくれたもので、並んで立つと対になるような刺繍がされている。胸元のブローチも、お互いの瞳の色の宝石をあしらった同じデザインのものだ。一目でパートナーだとわかる装いは、少しだけ気恥ずかしい。


─だがそんな気恥ずかしさも、久々の夜会への緊張も、感じた時間はほんの僅かだった。

我が家に来る前のワイアット君は、伸ばし放題の長髪で、顔を含めた胸から上の部分を常にすっぽりと覆い隠していたという。

そんな彼が前髪以外をさっぱりと整えたので、抜群のスタイルと整った顔の下半分が、今回初めて公の場で露わになった。

彼の溢れ出るイケメンオーラは、どうやら目元を前髪で隠すだけでは抑えきれなかったらしい。

陛下への挨拶を終え、ワイアット君が私に飲み物を取ってきてくれようとして私達の身体が離れた一瞬の出来事だった。

これまで秘されていた麗しの公爵令息に話しかけようと、うら若き令嬢や令息達がワイアット君めがけて殺到した。

ダンスやマナーレッスンで鍛えられた若い体幹に、私はあっけなく跳ね飛ばされてしまった。

大理石の床に倒れそうになったのを、なんとか踏みとどまろうと足を踏ん張ってみたものの、あと少し筋力が及ばず……結局よろめいてべしゃっと床に這いつくばってしまった。ちょっとだけ打ち付けた右膝がじーんと痛い。

そんな私を見たワイアット君はよほど焦ったのだろう。会場に響き渡る声で私を「お義父さん!」と呼んだ。ワイアット君の鍛えられた長身から発せられる声はとてもよく通る。

駆け寄ってきた彼に抱き起こされる間も「大丈夫ですか、お義父さん!お怪我はありませんか!すぐに医者に診せなければ!」と、ずっと大きな声で話しかけられていて、楽団の演奏も一時中断したほどだ。

彼に抱き上げられて休憩室に連れていかれた私はそこで医師の診察を受け、右膝にできた小さな青痣に軟膏を塗られた。そして再びワイアット君に抱き上げられて帰りの馬車に乗せられたのだった。




「俺が傍を離れてしまったばかりに、貴方に怪我を負わせてしまいました……」

「膝頭に小さな青痣ができただけだよ。それも片方だけだから」

領地から王都まで馬車で丸二日かかるため、私たちは王都のホテルに宿を取っている。今夜一泊して明日、領地へ発つ予定だ。

王城からホテルに帰る馬車の中。ワイアット君の膝の上に横抱きにされたままの私は、自責の念でうなだれている彼の白金の前髪を、指先でくるくると弄んだ。

「この前髪の君も好きだけど、せっかくだから髪を上げて夜会服を着ている君も見たいな」

「っ……またそんな小悪魔みたいな仕草で俺を惑わして……貴方は怪我をしているんですから、今夜は身体を休めなければ」

「大丈夫だよ。痛めているのは右膝だけだから……膝を付くような格好さえしなければ」

「……っ、膝を、付かない体勢……で……?」

ワイアット君がゴクリと息を呑む音が聞こえた。もうあと一押しだ。

私は彼の耳元に顔を寄せると、恥ずかしい秘密を打ち明けた。

「実は、夜会の支度をしている時に……後ろの準備もしてあるんだ……♡」




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