不思議な話

ぷーさん

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井戸

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俺は昔から不思議な体験をする。

これは中学校の頃の話だ。
中学校に入学して間もなく、ゴールデンウィークが明けた初日のできごとで、日中は何も起きず普段通りに授業が進んでいった。
放課後になり俺は友達の健司と太一の3人で教室に残って他愛もない話をしていた。
健司と太一は中学校に入ってからできた友達で、入学式の日からすぐ意気投合した。
教室にはほかにも何人かのクラスメイトがいて、勉強している人もいれば、この時間になっても寝ている人もいる。
女子たちは複数で集まってアイドルの話をしていた。
俺たち3人はゴールデンウィークにあった出来事を話して盛り上がっていた。
「それほんとかよ」
健司が心霊体験をしたというので俺と太一が健司に向かって言うと
「マジマジ!」
と健司が言った。
健司はゴールデンウィーク中に母方の祖母の家に行き、そこであった出来事を続けた。
「ゴールデンウィーク初日にばあちゃん家に行ったときにあったのよ。ばあちゃん家に帰ったの小3以来なんだけど、数年たつと雰囲気変わっててなんか嫌な感じがしたんよ」
「嫌な感じって?」
俺が聞くと
「なんかさ…じめじめしてるっていうか空気が重い感じ分かる?」
「わかんねぇってw」
太一がすかさず答えた。
俺は何度も経験していたがあえて口には出さず太一に同意した。
すると健司は笑いながら
「だよなー。俺もその時初めて経験したのよ。でも両親は何にも感じてない感じだったから、気のせいだと思ってそのまま家に入ったわけ。そしたら何があったと思う?」
太一はすかさず
「お化けがいた!」
と答えた。
「残念。正解は何もなかった」
「なんやねんそれ!」
俺と太一はツッコミを入れて笑いあった。
「普通におばあちゃんが出てきてご飯食べただけw」
「なんだよそれー。それで終わり?」
「違うよ!それでご飯食べて風呂入って部屋でマンガ読んでたんよ。そしたら窓の向こうからうーうー声が聞こえてきて…」
「お化けだな!」
太一が話を遮った。
「と思うでしょ。でも窓の外見てもなんも見えないのよ。田舎の夜暗すぎw」
「それで?」
俺は話の続きを促した。
「とりあえず見えないし怖いから寝ようと思って布団に入ったのよ。でもさずっとうーうー聞こえるわけ。それで気になって寝れないから音楽流して寝たのね」
「うーうーってどんな感じの声なの?」
俺は気になって健司に尋ねた
「どうって言われてもなー」
健司が答えに困っていると太一が
「じゃあものまねやれよ健司w」
と言った。
「じゃあここで一発!」
と健司は言いおもむろに立ち上がりのどの調子を整えだした。
「いきます!」
と言うと
うーうーと低いかすれた声を出した。
太一はお腹を抱えて笑っていた。
俺はその声を聞いたときに何とも言えない不安感に襲われた。
「健司もういいよ」
俺が言うと
「なんでだよ!面白いからもっとやれ!」
と太一が煽った。
健司は俺らのやり取りを聞いていたのかまだうーうーと声を出し続けていた。
俺はやめさせようと健司の肩をつかんで座らせようとしたがピクリとも動かなかった。
「太一!お前も止めろ」
と言うと、太一も異変に気付いたのか
「おい健司!いつまでやってんだよ!」
と軽く健司の頭を叩いた。
すると我に返ったように健司はおとなしくなって椅子に座った。
「あぁごめんごめん」
と健司は謝ったがまだ目はうつろなように見えた。

「それで寝た後どうなったんだよ」
太一は話を続けるよう言った。
「あぁそうだ。そんでそのまま寝て朝起きたから、窓から外見たのよ。そしたら家から10メートルぐらいのとこに井戸があって蓋がちょっとずれてたんよ」
「井戸?」
「そう。いかにもって感じの古い井戸でさ、使ってないんだろうなって感じ。コケとかもすごかったし」
「そんで?」
「で、気になるから井戸見に行くじゃん?」
「うん」
「で、玄関行って靴はいてたら後ろから急に声かけられてさ」
「誰に?」
「ばあちゃん」
「ばあちゃんかい!」
太一がツッコむように言った。
健司は太一のツッコミを無視して続けた
「それでばあちゃんがどこ行くの?って聞くからちょっと井戸見てくるって言ったのね」
「うん」
相槌の担当が太一から俺に変わった。太一はツッコミを無視され拗ねていたからだ。
「そしたらばあちゃんが井戸に近づくなっていうわけ。でも行くじゃんw」
「行くね」
「でばあちゃんに分かったって言って玄関を出て井戸に向かったのよ」
「それで?」
「うん。井戸に行くとまあ見たとおり使ってないなって感じだったんだけど、蓋がちょっと空いてたから中見えないかなーって思ったんだけど暗くて見えなかったのよ」
「でどうしたの?」
「蓋取れば見えると思って取ろうと思ったけど意外と重いのよ。」
「へー」
「まあ俺の頭脳をもってすれば、てこの原理を使えばいいことはすぐ気づいたから近くに落ちてた木の板を使ったわけ。でその板がきもかった」
「きもかった?」
「うん。蓋開けた後にその板を放り投げたんだけど、板の後ろにお札がびっしり貼ってあったんだよ」
「マジで!」
ここで太一は機嫌が直ったのか話に割り込んだ。
「お札貼ってあるってやばいじゃん!これはお化けだな!」
太一は興奮して言った。
「で俺もきもって思いながらもとりあえず井戸を覗き込んだらすげぇ臭かったw」
「なんやそれ」
俺と太一はツッコミを入れた。
健司はツッコミを制するように
「まだ続きがあるってw」
と言い話を続けた。
「で、中見えないから懐中電灯を取りに行ってそれで中見たんよ」
「おぉ!それで」
「中でばあちゃんが死んでた」
「は?」
俺と太一は予想外の答えに驚いた。
「どういうこと?」
太一が聞くと
「いやそのまんまよ。ばあちゃんが井戸の中にいた」
「じゃあ家にいるばあちゃんは誰?」
「知らねぇw」
「なんやそれ!」
太一がツッコんだ後さらに続けた。
「健司のばあちゃんが井戸で死んでて、でも家にいるってことか?どういうこと?」
「それはいわゆる幽霊ってこと?」
俺も健司に尋ねた。
「いやわかんねぇ。俺も怖くなって蓋閉めて何事もないように過ごしてたから」
「ばあちゃんは普通だった?」
「うん。前と変わってる気はしなかったね」
「親にも話してないの?」
「話さんでしょ!意味わかんないしw」
「どうせ嘘だろ!俺らをビビらせようとしやがって!」
太一は健司の肩を小突きながら言った。
「いやマジだって。俺もよくわかってないけどまた井戸見るのは怖いから、そのまま何もせず帰ってきたってわけ」
「じゃあ結局何にもわかんないってことじゃん。時間返せ!」
太一はまた肩を小突きながら言った。
「ごめんってw」
健司は肩をさすりながら言った。

俺は嫌な寒気がして辺りを見回した。すると周りには俺たち3人以外誰もいなかった。
「誰もいないじゃん」
と俺が言うと
「そりゃこんな時間だしなw」
太一が時計を見ながら言った。
俺も時計を見てみるともう6時をとうに過ぎていた。
健司は
「やべっ!怒られるから先帰るわ!」
と言い教室を飛び出していった。
健司のあまりの素早さに俺と太一はあっけにとられて「じゃあな」ということしかできなかった
健司が帰った後、俺と太一は帰り支度をして家路についた。
帰る途中に太一が
「なぁ健司が言ってた井戸見に行かね?」
と聞いてきた。
「いやだよ。どうせなんもないしさっきのも健司のうそでしょw」
「でも面白そうじゃない?」
「ぜんぜん」
「わかった!お前びびってるな!」
こんなことを言われたら行かないわけにもいかず今週末に2人で行くことになった。
週末までそわそわしていたが何事もなく過ごしていた。3人で学校終わりにゲーセンに行ったりハンバーガー行ったりいつも通りの日常だった。
金曜の放課後に太一と井戸に行く話し合いをしてると健司が割り込んできた
「なに。土曜日どっか行くの?俺も連れてってよ!」
「ごめんな、今回は俺と太一2人で行く。月曜に詳しいこと話す」
「えーいいじゃん。なぁ太一?」
「駄目だね。月曜楽しみにしとけってw」
「お前らケチだな!月曜詰まんなかったらぶっ飛ばすからな!」
健司は俺と太一の肩を小突いた後「じゃあな」と言い帰っていった。
「じゃあ明日朝一で駅集合な」
太一は俺にそう言い帰っていった。

俺は眠れなかったので一睡もせず夜が明けた。
眠い目をこすりながら駅に行くと懐中電灯を振り回している太一がいた。
「遅いぞ!」
「太一が早いんだよ」
俺はそう言いながら時計を指さした。
「確かにw悪い悪い」
と手を合わせていた。
そのまま電車を乗り継いで健司の祖母の家にたどり着いた。
本来なら健司のばあちゃんに挨拶するところだが、健司に連絡されたらバレるので、ばあちゃんが出ていくのを待った。
昼前にはばあちゃんが出て行ったので2人で井戸に向かった。
井戸は健司の言う通り使われていない感じでコケがびっしりで蓋もしっかり閉められていた。
太一と2人で蓋を開けようとしたが
「これは重いなw」
「健司が言ったみたいに、てこの原理使おう」
「それだ!」
と太一は井戸の近くにあった木の板に手を伸ばした。
「これの裏にお札がびっしりなんだっけ?w」
笑いながら木の板を裏返した太一は声を上げた
「なんだこりゃ!」
木の板には健司の言った通りお札がびっしりと貼ってあった。
「マジかよ…これがほんとってことは井戸の中もやばくね」
太一は不安そうに俺を見た。
俺は何も答えず太一から板を受け取り井戸の蓋を開けた。
「太一。懐中電灯貸して」
俺はそう言いながら井戸を覗き込んだ。
太一は俺の横に来て井戸の中を照らした。
「うわぁ!!」
俺と太一は同時に声を上げた。
井戸の中は確かに健司の言った通りばあちゃんの死体があった。
しかし健司の話と明らかに違うところがあった。
ばあちゃんの死体の隣にもう一体死体があったのだ。
「これって…健司?」
俺は確かめるように太一に尋ねた。
太一は青ざめた様子で
「た、たぶん」
と答えた。
俺はもう一度確かめるため太一から懐中電灯を借り井戸を覗き込んだ。
違ってほしいという思いとは裏腹にあの死体は明らかに健司だった。
「太一。もう一回だけ見てくれ」
「いやだ!」
「ほんとに健司かお前も確認してくれ」
俺の中では明らかだったが、万が一の自分の間違いがあるかもしれないと思い再度太一に言った。
「いやだ見たくない!」
「お前が見に行きたいって言ったんだろ」
俺は太一の腕をつかみ再度井戸に近づき覗き込んだ。
太一もそれにつられるように中を見た。
太一は息を切らしながらもそれらを観察した。
「くそっ!確かに健司だ!どうなってんだよ!」
「落ち着け太一!とりあえず帰るぞ」
俺は蓋を閉めようとしたがびくともしない
「太一手伝ってくれ!」
声をかけると、太一はふと我に返り一緒に蓋を閉め家路についた。
帰り道はお互いに一言も発さなかった。
駅について解散するときに太一が一言
「見なかったことにしよう」
と言った。
俺は
「うん」
と答え太一と別れた。
月曜になり学校に行くとそこにはいつも変わらない風景があった。
教室に入ると雑談をしていた健司と太一が俺に気づき
「おう!おはよう」
と声をかけてきた。
健司がいることもそうだが、太一の変わらなさに面を食らった。
しかしおれも何事もないように
「おはよう」
と声をかけた。
あの時、見たものは確かに健司だったが、今目の前に健司がいる。
到底理解できることではないが俺はこのまま過ごしていくことに決めた。
何度か太一に井戸のことを聞いてみたが、全部覚えてないと返され妙な不安感を覚えることがあった。
中学校を卒業してから2人には会っていないが、先日同窓会がありそこに2人の姿がないことが気になった。
もしかしたらあの井戸の中にはばあちゃんと健司、そして太一の死体があるのかもしれないが、それを確かめに行く勇気は俺にはない。


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