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ラスト

【くだける】

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 私は2階の自分の部屋で寝ていたが誰かの叫び声で目が覚めた。1階からの母の叫び声だ。私は聞こえないように耳をふさいだ。歌を歌って母の声を消した。だんだん物音は大きくなる。母の叫び声、奇声、何かを振り回す音、父が殴られている音、父の哀れな「やめて、やめてくれよ。」という声。さっきまで父の哀れな声がもれていた1階が静かになった。やっと終わった…と思ったけど、どうもいつもと違う終わり方。いつもなら母が「もういい!」と2階へ上がってくるか、外に父を追い出すはずだ。不安がよぎる。いつも以上に不安がよぎる。震える体を強引にベッドから引きはがすのに漆黒の沈黙が続いた。息を飲み込むのも苦しい。意を決してたちがった。震える体に言い聞かせ1歩ずつ前へ進む。1階へ降りていく。私が1階のドアを少し開けると1匹の犬は隙間をすり抜けて2階へ逃げていった。残りの2匹のうちの1匹はクンクン泣いて私にすがった。もう1匹はおしっこを漏らしながら足をカタカタ震わせ立ちすくんでいた。ドアをもう少し開け母を探した。母は、まっすぐ前を見てソファーに座り震える手でワインを飲んでいた。母の震える手は恐怖からではない。怒りからくる力の入れすぎのせいだと、経験からすぐわかった。母のそばへ行こうとドアを開けるとドアが何かに引っかかって止まった。覗き込むと、倒れて動かなくなった父だった。とうとう母は砕けてしまったのだ。そして、父も。

 私は何を思えばいいのだろう。
 何かできることがあったのだろうか?
 母は、何を考えて何を思って生きていたのだろう。

 私の人生は始まったばかりだったのに。
 大人は結局自分の幸せばかりだ。
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