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この世は苦界、それは簡単に証明できる。
吉田義男(55)は、長年勤めた会社をクビになった。上司の不正を庇ったにも関わらず、その上司に嵌められ、一人悪人に仕立て上げられたのだ。懲戒解雇。もちろん退職金など出るはずもない。言われるがまま生きてきた、流されるまま生きてきたツケか。気がついたら東尋坊に来ていた。
ここは私と妻の思い出の地だ。私はここで妻にプロポーズをした。もう30年も前の事だ。それから2人の子供が出来た。苦労はしたが楽しい日々だった。まだその時はこの世が苦界だなんて思ってもいなかった。むしろ天国のように幸せだった。人生は何が起こるかわからない。私の微々たる生命保険で残された家族が少しでも幸せになるのなら私は喜んで死ぬ。
そして私は死んだ。
「ねえ、起きて、ねえ、ねえってば」
声が聴こえる。死んだ記憶は確かにある。眼を開ける。そこには背中に羽の生えた、あどけない少女の顔があった。
「あぁ、やっと起きた。今日立て込んでるのよね、ちゃっちゃと終わらしたいのよね」
少女は早口でそう言うと、矢継ぎ早に説明をした。
「あなたは自殺だから、選べるコースは2つ、地味な地獄か、派手な地獄のどちらかか。よく聞かれる質問を先に答えておくと、地味、派手、ともに無限に種類があって、それは“執行人“が決定するの。んで、地味だからってラクな訳じないよ、地獄だからね。んで、地獄って言ったって、何が地獄なのかの定義は人によるから、あなたにとっては天国かもしれないわ。それは今までの世界と同じよ。だからつまり、転生しても世界の定義は変わらないってこと。便宜的に仕分けしてるだけ。雇用の創出ってこと。わかった?」
わかったようなわからないような気持ちだった。口を開こうとした時、また少女が喋りはじめた。
「だからつまり、あなたに選択肢はあるけれど、選んだ所で大した意味はないってこと。だから、私におまかせするのが一番楽なんだけど、それでいい?いいわよね?」
とにかく忙しない少女の口調に押されて、義男はそれでいいと返答した。ここでも流されるだけなのか、と義男は思った。
「じゃ、ここから少し歩くと、2手に分かれる道があるから、右に行って頂戴、わかった?」
義男は頷いた。
「右よ、右に行くのよ、じゃ、以上よ、ああ忙しい忙しい」
少女は背中の羽を羽ばたいて、寝ている人の下へ向かった。
義男は少女に言われた方へ歩いた。何人か、同じように道へ向かう人々がいる。その人々の表情は、死人のようだ。
「そりゃそうか。死んでるんだもの」
少女の言った通り、2手に分かれる道があった。その道の入口上部には丁寧に地味、派手と書かれた看板があった。一緒に歩いてきた人々は、皆一様に地味と書かれた道へ吸い込まれるように入って行く。義男は後ろを振り向いたのち、左の道に進んだ。
「もう言われるがままは嫌だ!!俺は俺の人生を生きるんだ!!」
義男は走った。全力疾走だ。
「派手な地獄がなんぼのもんじゃい!!これからが俺の青春じゃい!!!」
義男の顔が笑みで溢れた瞬間、義男は“執行人“におもっくそビンタされてひっくり返った。
吉田義男(55)は、長年勤めた会社をクビになった。上司の不正を庇ったにも関わらず、その上司に嵌められ、一人悪人に仕立て上げられたのだ。懲戒解雇。もちろん退職金など出るはずもない。言われるがまま生きてきた、流されるまま生きてきたツケか。気がついたら東尋坊に来ていた。
ここは私と妻の思い出の地だ。私はここで妻にプロポーズをした。もう30年も前の事だ。それから2人の子供が出来た。苦労はしたが楽しい日々だった。まだその時はこの世が苦界だなんて思ってもいなかった。むしろ天国のように幸せだった。人生は何が起こるかわからない。私の微々たる生命保険で残された家族が少しでも幸せになるのなら私は喜んで死ぬ。
そして私は死んだ。
「ねえ、起きて、ねえ、ねえってば」
声が聴こえる。死んだ記憶は確かにある。眼を開ける。そこには背中に羽の生えた、あどけない少女の顔があった。
「あぁ、やっと起きた。今日立て込んでるのよね、ちゃっちゃと終わらしたいのよね」
少女は早口でそう言うと、矢継ぎ早に説明をした。
「あなたは自殺だから、選べるコースは2つ、地味な地獄か、派手な地獄のどちらかか。よく聞かれる質問を先に答えておくと、地味、派手、ともに無限に種類があって、それは“執行人“が決定するの。んで、地味だからってラクな訳じないよ、地獄だからね。んで、地獄って言ったって、何が地獄なのかの定義は人によるから、あなたにとっては天国かもしれないわ。それは今までの世界と同じよ。だからつまり、転生しても世界の定義は変わらないってこと。便宜的に仕分けしてるだけ。雇用の創出ってこと。わかった?」
わかったようなわからないような気持ちだった。口を開こうとした時、また少女が喋りはじめた。
「だからつまり、あなたに選択肢はあるけれど、選んだ所で大した意味はないってこと。だから、私におまかせするのが一番楽なんだけど、それでいい?いいわよね?」
とにかく忙しない少女の口調に押されて、義男はそれでいいと返答した。ここでも流されるだけなのか、と義男は思った。
「じゃ、ここから少し歩くと、2手に分かれる道があるから、右に行って頂戴、わかった?」
義男は頷いた。
「右よ、右に行くのよ、じゃ、以上よ、ああ忙しい忙しい」
少女は背中の羽を羽ばたいて、寝ている人の下へ向かった。
義男は少女に言われた方へ歩いた。何人か、同じように道へ向かう人々がいる。その人々の表情は、死人のようだ。
「そりゃそうか。死んでるんだもの」
少女の言った通り、2手に分かれる道があった。その道の入口上部には丁寧に地味、派手と書かれた看板があった。一緒に歩いてきた人々は、皆一様に地味と書かれた道へ吸い込まれるように入って行く。義男は後ろを振り向いたのち、左の道に進んだ。
「もう言われるがままは嫌だ!!俺は俺の人生を生きるんだ!!」
義男は走った。全力疾走だ。
「派手な地獄がなんぼのもんじゃい!!これからが俺の青春じゃい!!!」
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