戦女神の別人生〜戦場で散ったはずなのに、聖女として冷酷王子に溺愛されます!?〜

藤乃 早雪

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第1章 溺愛されても困るんです

1-10 夜の攻防*

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「今の役職を辞任したい」

 リアナーレは、軍事総帥の唐突な一言に絶句した。

「い、今、なんと仰って?」

 ようやく絞り出した言葉は、動揺しすぎておかしな口調になる。
 
 そもそも、許可してもいないのに、今日も今日とて彼が寝室に忍び込んできた時点で、リアナーレの心拍数は狂っていた。

 二人は灯りの消された部屋の中、ベッドに並んで横たわっている。
 リアナーレは限界まで縁に寄っており、これ以上セヴィリオが距離を詰めたら床へと転がり落ちそうだ。

「総帥の座を退くと言った」
「急に何故? 昼間言った、非情だということを気にしているなら謝ります」
「いや、本来僕に軍事関係は向いていないんだ。辞めて、君と向き合いたい」

 だったらそもそも何故、総帥の座に就いたのだ。このタイミングで辞めると言い出すということは、やはりリアナーレに対する敵対心があったとしか思えない。

「貴方が降りたら誰が軍を纏めるの?」
「指示なら父と兄だけで十分だろう。総帥は、モントレイあたりが継げば良い。家格も問題ない」

 何ということ。この男、仕事を放棄して、妻の尻を追い回す呆れた第二王子になるつもりだ。

「セヴィーには、今の立場で成し遂げるべきことがあると思う」
「成すべきことって? 僕はリアナを護ることができればそれで良いのだけど」

 真剣な声音でセヴィリオは言う。隣で身動ぐ音が聞こえた。
 気配からなんとなく、彼はリアナーレの背を見つめている気がする。恐ろしくて振り返ることができない。

「私を護りたいなら国ごと護って。それが王族の成すべきこと。この国が戦争に負けたら、貴方も私も死ぬことになる」

 シャレイアン王国は絶対王政の側面が強い国だ。プレスティジの占拠を許せば、王族は間違いなく処刑される。
 
 力が及ばず、そうなってしまった暁には仕方ないと思う。リアナーレは国を護れなかった責任を取って二度目の死を迎えよう。
 けれど、何もしないまま、終わりを迎えるのは絶対に嫌だ。死んでも死にきれない。次は亡霊にでもなって、目を覚ますかもしれない。

 リアナーレはこの国が好きだ。賑やかな赤レンガの港街、時間の流れが緩やかに感じる郊外の風景、おおらかで陽気な国民たち。それを、他国の侵略で失いたくない。

 戦地となった地域、従軍に応じてくれた国民の犠牲は既に小さくはない。リアナーレは一刻も早く、自分の代で戦争を終わらせたいと思っていた。

 それが、力ある者の使命だと信じていたからこそ、リアナーレは普通の少女としての人生を捨て、戦女神として生きた。

「キスを許してくれるなら、善処する」
「そういう手だったの……」
「違う。君の死の件で、僕は本当におかしくなりそうだった。癒やしが欲しい」

 リアナーレは悩んだ。キスくらいなら良いかという気持ちと、セヴィリオを騙すことになる後ろめたさの狭間で葛藤し、結論を出す。

「分かった。キスだけ、それ以上はなし。一日一回を守って」
「一日一回ね、リアナも守ってよ」

 木製のベッドが軋む。セヴィリオはベッドの端で丸くなるリアナーレの肩を掴み、天井を向かせた。
 リアナーレは固く目を閉じる。キスなど一瞬。唇と唇が重なってそれで終わりだ。

「……ん、んんん……???」  

 なかなか離れない。そればかりか、舌が口内に差し入れられ、リアナーレはぱっちり目を開く。
 暗闇の中でも、これだけ至近距離にいれば相手の顔が見える。貪るようなキスをする男と目が合ってしまい、リアナーレは一瞬で目を閉じた。

「……ふ……んっ、……っ」

 粘膜が触れ合い、互いの体液が混ざり合う。体を重ねることと何ら変わりのない口づけに、リアナーレは息の継ぎ方も分からぬまま翻弄される。 

 口蓋を舌でなぞられると、ぞくりとして体が跳ねる。覆いかぶさった男の体は、遠慮なくリアナーレの両足の間に割って入った。

 セヴィリオは何度も角度を変えて舌を吸い、いつまで経っても離れる気配がない。リアナーレは観念して、好きなようにさせた。

「セヴィー……」

 どれだけ時間が経ったのだろう。長い口付けが終わる頃には、リアナーレの頭はぼんやりとしていた。今、この先を求められたら流されてしまいそうだ。

「可愛い顔」

 口の端から溢れた唾液を、セヴィリオが指で拭ってくれる。

「私は可愛くなんて……」
「可愛いよ、僕のリアナ。毎日一回するからね」

 セヴィリオは腕にリアナを抱いたまま、そのうち寝息を立て始めた。
 リアナーレは少しずつ冷静さを取り戻し、迂闊な判断を下した自分を呪う。
 
 星詠みの聖女、リアナ=キュアイスとして目覚めてまだ二日も経っていない。セヴィリオの溺愛ぶりに、既に音を上げそうだった。
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