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序章

雲越の疑問

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かれこれ5分が経過した。

タッチパネルの券売機を操作する彼の後ろに並んでから5分。
牛丼屋でメニューを決めるのにこれほどの時間が必要なのだろうか?
選択肢は牛丼か、豚丼か、その程度のものだろう。
それとも今日は限定メニューで親子丼かなにかもあるのだろうか?

あとはご飯の量だとか、トッピングをどうするかという問題もまぁあるとしよう。
しかしやはりその程度だ。

そもそも、牛丼屋に来た時点で何を食べるつもりかの目星はついていたはずじゃないか?
それともここが牛丼屋だと知らないのだろうか?
看板にもハッキリとそう書いてあるし、そもそも日本国民ならこのチェーンの店名を見ただけでここが牛丼屋であることはわかるはずだ。
それとも、牛丼を食べるつもりでいたが、豚丼や親子丼のことも書いてあったことから、それならばもしやパスタもあるのではと思い立ちそれを探しているのだろうか。
だとすると実にあきらめが悪い。

もっと現実的な可能性である「券売機の使い方がわからないのではないか?」という疑問については4分以上前に解決している。
タッチパネルの最初の画面には「店内」と「持ち帰り」の二つのボタンが表示されていたはずであり、彼は既にそこを突破している。
つまり、画面に表示される問いの答えを選択していけば良いということは理解しているはずである。

しばらくすると、彼の動きがぴたりと止まった。
画面を覗き込んでみると、注文確認画面が出ている。

牛丼の並盛りの玉ねぎ多めを食べるようだ。
やっとパスタにはあきらめがついたか。
玉ねぎ多めというカスタマイズまで行っていることから、やはり操作方法は理解しているようだ。

では何が問題か。おおよその察しはつく。
おすすめとして表示される、卵かチーズ以外のものをトッピングしたい場合、
一度画面をトッピングのコーナーに切り替える必要がある。
おそらく、一連の流れから少し外れるこのあたりの操作が難しいのではないか。
であるならば親切をするのは簡単だ「操作方法を教えましょうか?」

次の瞬間、彼は驚くべき言葉を発した。
「注文は決まったんですが、支払いはどうしたらいいんでしょうか?」

あっけにとられた私はこう答えた。
「このお支払いと書いてあるボタンを押してください。」


つづく
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