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序章

黒澤の疑問 2

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我が社に画期的なコピー機が導入された。

従来のコピー機では、両面コピーをするためには「両面コピーと書いてあるボタンを押す」という、たいへん複雑かつ専門的な操作を必要としたが、
新しいコピー機の導入により「重なった二つの四角の両方に3本線が引いてあるマークを押す」だけでよいのだという。

しかしどういうわけか、彼は私に向かって不可解な質問をしてきた。
「両面コピーってどうやるの?」

答えはもちろん、
この親切な表によれば「重なった二つの四角の両方に3本線が引いてあるマークを押す」というだけのことなのだが、質問の真意がわからない。

重なった二つの四角の両方に3本線が引いてあるマークが目に入らないはずはない。
両面コピーのマークと似たマークがもう一つあることがまぎらわしいのだろうか?
重なった二つの四角のうち、下の四角がグレーに塗りつぶされているものとそうでないものがあるが、
そのうち、グレーに塗りつぶされているものが両面コピーのためのボタンであることは、このマークと日本語が併記された大変親切な表を見れば明らかなはずだ。

従来の「両面コピー」という5文字に比べて、この新しい機械ではマーク1つのみなのだから、
単純計算で5倍の効率で情報が入ってくる。
にもかかわらず、なぜ彼にはたったそれだけのことが理解できないのだろうか?

短辺綴じ、長辺綴じのどちらが正しいかということで悩んでいるのだろうか。
いや、長辺綴じは縦長の四角形、短辺綴じは横長の四角形であるとこの親切な表に書いてあるのだから、
それが理解できないと言うことは考えにくい。

そもそも、そういったことが理解できない彼らのためにこのコピー機は進化をとげたのではないか。

謎は深まるばかりだが、私は彼にこう答えた。
「重なった二つの四角の両方に3本線が引いてあるマーク2種類のうち下の四角がグレーに塗りつぶされている方のマークを押してください。」


つづく
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