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暴食の章
第33話 暴食たる所以
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※注意※この話は主人公の視点ではありません。
お腹減ったな……産まれて数年が経ったが、この空腹感が解消されたのは数回くらいだ。毎日毎日親の用事に付き合って、遊ぶ暇もなく、下の兄弟の面倒も見る。しかし、それに対する対価を求めるということはしなかった。いや、出来なかった。言うまでもなく、うちは貧乏なのだからそれは当然だと生まれながらにして諦めていた……しかし、この空腹感は耐え難い……かき消すように水を飲んでも限界がある。
「おい!まだか?!」
父親の怒鳴り声が小さく汚い家から狭い裏路地に響き渡る。早くしないとまた殴られる…急いでと井戸から汲んできた水を出来るだけ多く飲み、父親の元へ駆け寄る。何かが変わればこの環境も少しは良くなるのだろうか?お金がもう少し多く手に入ったら?昼夜問わず爆発音を起こす大人たちの喧嘩が終われば?あげ出したらキリがない何かは自身の力で変えるにはあまりに大きい……そんな子供ながらの疑問を持ちながら毎日の業務をこなす。
扉とは名ばかりの仕切り布をくぐり、父親の顔色をうかがう。怪訝な顔をしながら顎で手伝えと招く。……良かった、あまり怒ってはいないようだ。機嫌が本当に悪い時は大きな彼の拳が家に入った瞬間飛んでくる。安堵しながら父親が作っている工芸品を手伝う。数時間ほど経った頃
「おい、もういいぞ」
いつも通りこれが来た。このもういいぞは遊びに行っていいぞではなく、母親の手伝いをしに行っていいぞという意味だ。一度間違えて外に出た時、げんこつが飛んできた。
「後ろの2人をあやしといておくれ」
細い体に3人もの赤子をあやしていた母親に弟を2人預けられる。前後に紐で赤ちゃんを括り、今日作られる晩御飯を覗き見る。何のことはないいつもの質素な汁物だけだ。水っぽいものは正直勘弁してほしいがわがままを言った所で何かが変わるはずもない。大きな声で泣き始めた弟たちを抱きしめながら食べたくないご飯を渇望した。
水っぽいものばかり口にしたためか夜中にトイレへ行きたくなった。外の路地で用を足して、空を見上げる。……いつもの満天の星空だ、これも変わりない。こんなものが見えた所で何が変わるのだろうか。癒される所か八つ当たりをしたくなるほど綺麗で透き通った空だ。
「……だ、も…に…」
ひそひそと誰かが話している声がする。そういえばこんなひそひそ声が聞こえるくらい静かな夜はいつ以来だろうか。汚らしいズボンを上げながら考える。この時間ならどこかでやかましいあの爆発音が聞こえるは…
「逃げろ!!」
家が爆発させられる前に確かそんな父親の声が聞こえたんだと思う。こんなに曖昧なのは衝撃ですぐに失神したからだ。家が焼かれたのだ、ついに大人たちの喧嘩はこちらの生活面まで侵略してきたのだった。
あ、熱い……身体が焼けるようだ。ここは……家だった場所か?よく分からない…所々で火がまだ揺らめいている。何はともあれ熱すぎる…水を飲まなきゃ。そう考え、跡形もない我が家の井戸へ向かう。
「あ…あ…だ、だれか」
今にも消え去りそうな聞き馴染んだ声だ。嫌な予感をよぎらせながら首をそちらへ持っていった。後悔した…そこには家の残骸に下半身を圧し潰され、大量の血を流す母親がいた。ゆっくりと足を引きずりながら彼女の元へ歩み寄る。よく見れば父親の足らしきものも粉々に砕けた簡素なベビーベッドもある。
「…あ、あんたは……大丈夫だったのね…良かった……」
最後に笑みを浮かべ彼女は満足気に死んだ。それでこの地獄を実感したのだろうか?目から涙が溢れ出してくる。何度もこすってこすって……それでも止まらない。こんな惨劇を生んだ敵がいるかもしれないのに大声で泣き続ける。そうしたくてそうしてるのではない、もう感情が止まらなかった。
何時間も泣いて、何時間も歩いて……それを繰り返していたが、もはや力も残っていない。自身の中には何も残っていない、恐ろしかった父親も、優しかった母親も、憎らしくも愛らしい兄弟も……何も。天を仰ぐように地面に倒れ込む。これで終わりだ…もう死ぬのだろう。
「…お………ぞ」
「あ…そ……た?」
(誰だろう……もう眠いんだ)
「おーい、息してるか?」
「言葉も分からんだろう?ほっとけ」
(な、何を話しているんだ…)
「こんな小さな子供まで殺す必要はあるのかね?なぁ、どう思うよ」
「知らん、我々はただ任務をこなすだけだ」
「…お前みたいにやれれば幾分楽にやれたのかもな、ほらよ」
(何か口に…)
「早く行くぞ、何をやってるんだ」
「せっかちな野郎だな、最後の晩餐に飴を食わせてやっただけだ」
2人の大男がどこかへ行った。最後に押し込んできたものは…なんと言ったのだろうか。カランと音を立てて、舌の上に乗っかる。あ、甘い!なんだ?!この……幸せな気持ちは!これほどまでに美味い食べ物があったなんて……あぁ、もし来世があるのならこんな死に方をしない国ならばいいのに……
お腹減ったな……産まれて数年が経ったが、この空腹感が解消されたのは数回くらいだ。毎日毎日親の用事に付き合って、遊ぶ暇もなく、下の兄弟の面倒も見る。しかし、それに対する対価を求めるということはしなかった。いや、出来なかった。言うまでもなく、うちは貧乏なのだからそれは当然だと生まれながらにして諦めていた……しかし、この空腹感は耐え難い……かき消すように水を飲んでも限界がある。
「おい!まだか?!」
父親の怒鳴り声が小さく汚い家から狭い裏路地に響き渡る。早くしないとまた殴られる…急いでと井戸から汲んできた水を出来るだけ多く飲み、父親の元へ駆け寄る。何かが変わればこの環境も少しは良くなるのだろうか?お金がもう少し多く手に入ったら?昼夜問わず爆発音を起こす大人たちの喧嘩が終われば?あげ出したらキリがない何かは自身の力で変えるにはあまりに大きい……そんな子供ながらの疑問を持ちながら毎日の業務をこなす。
扉とは名ばかりの仕切り布をくぐり、父親の顔色をうかがう。怪訝な顔をしながら顎で手伝えと招く。……良かった、あまり怒ってはいないようだ。機嫌が本当に悪い時は大きな彼の拳が家に入った瞬間飛んでくる。安堵しながら父親が作っている工芸品を手伝う。数時間ほど経った頃
「おい、もういいぞ」
いつも通りこれが来た。このもういいぞは遊びに行っていいぞではなく、母親の手伝いをしに行っていいぞという意味だ。一度間違えて外に出た時、げんこつが飛んできた。
「後ろの2人をあやしといておくれ」
細い体に3人もの赤子をあやしていた母親に弟を2人預けられる。前後に紐で赤ちゃんを括り、今日作られる晩御飯を覗き見る。何のことはないいつもの質素な汁物だけだ。水っぽいものは正直勘弁してほしいがわがままを言った所で何かが変わるはずもない。大きな声で泣き始めた弟たちを抱きしめながら食べたくないご飯を渇望した。
水っぽいものばかり口にしたためか夜中にトイレへ行きたくなった。外の路地で用を足して、空を見上げる。……いつもの満天の星空だ、これも変わりない。こんなものが見えた所で何が変わるのだろうか。癒される所か八つ当たりをしたくなるほど綺麗で透き通った空だ。
「……だ、も…に…」
ひそひそと誰かが話している声がする。そういえばこんなひそひそ声が聞こえるくらい静かな夜はいつ以来だろうか。汚らしいズボンを上げながら考える。この時間ならどこかでやかましいあの爆発音が聞こえるは…
「逃げろ!!」
家が爆発させられる前に確かそんな父親の声が聞こえたんだと思う。こんなに曖昧なのは衝撃ですぐに失神したからだ。家が焼かれたのだ、ついに大人たちの喧嘩はこちらの生活面まで侵略してきたのだった。
あ、熱い……身体が焼けるようだ。ここは……家だった場所か?よく分からない…所々で火がまだ揺らめいている。何はともあれ熱すぎる…水を飲まなきゃ。そう考え、跡形もない我が家の井戸へ向かう。
「あ…あ…だ、だれか」
今にも消え去りそうな聞き馴染んだ声だ。嫌な予感をよぎらせながら首をそちらへ持っていった。後悔した…そこには家の残骸に下半身を圧し潰され、大量の血を流す母親がいた。ゆっくりと足を引きずりながら彼女の元へ歩み寄る。よく見れば父親の足らしきものも粉々に砕けた簡素なベビーベッドもある。
「…あ、あんたは……大丈夫だったのね…良かった……」
最後に笑みを浮かべ彼女は満足気に死んだ。それでこの地獄を実感したのだろうか?目から涙が溢れ出してくる。何度もこすってこすって……それでも止まらない。こんな惨劇を生んだ敵がいるかもしれないのに大声で泣き続ける。そうしたくてそうしてるのではない、もう感情が止まらなかった。
何時間も泣いて、何時間も歩いて……それを繰り返していたが、もはや力も残っていない。自身の中には何も残っていない、恐ろしかった父親も、優しかった母親も、憎らしくも愛らしい兄弟も……何も。天を仰ぐように地面に倒れ込む。これで終わりだ…もう死ぬのだろう。
「…お………ぞ」
「あ…そ……た?」
(誰だろう……もう眠いんだ)
「おーい、息してるか?」
「言葉も分からんだろう?ほっとけ」
(な、何を話しているんだ…)
「こんな小さな子供まで殺す必要はあるのかね?なぁ、どう思うよ」
「知らん、我々はただ任務をこなすだけだ」
「…お前みたいにやれれば幾分楽にやれたのかもな、ほらよ」
(何か口に…)
「早く行くぞ、何をやってるんだ」
「せっかちな野郎だな、最後の晩餐に飴を食わせてやっただけだ」
2人の大男がどこかへ行った。最後に押し込んできたものは…なんと言ったのだろうか。カランと音を立てて、舌の上に乗っかる。あ、甘い!なんだ?!この……幸せな気持ちは!これほどまでに美味い食べ物があったなんて……あぁ、もし来世があるのならこんな死に方をしない国ならばいいのに……
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