勇者の俺が転生者だったようだが

安部飛翔

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1.目覚め(後)

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 まあ、そんなこんなで三日後に、俺、カイン・ジャガンナートはイデアル王国の国選勇者として大々的に認定され、同時に現状は名ばかりだがイデアル王国の子爵位を与えられ、まあ色々と思惑渦巻く中で、他国の次代の重鎮達と人脈作りや、示威の為に、この世界最古で最大の国であり、全ての国と交流を持つセントリアス神聖帝国の帝立学園に入学するという訳である。

 逆に、俺が入学するからこそ、この時期の帝立学園には俺と同世代の各国の重鎮のご令息・ご令嬢達や特別な立場の子供が集まった特殊な状態になっている。それらの生徒は、元々神聖帝国でも特に高位の貴族や神聖帝国との交流の為に入学した他国の貴族などを入れる為の特別クラスに所属することになっている。

 世界会議で一段落ちる国選勇者という扱いを決められたとはいえ、勇者の称号を持つ俺に色々な思惑を持って近づいてくる人間は多いことだろう。

 ちなみに、セントリアス神聖帝国は最古で最大の国ではあるけど、その国で一番の帝立学園が最高の教育機関という訳ではない。本来はあくまで神聖帝国のエリート育成の為の学園なので、教育の水準は満遍なく世界トップクラスではあるが一番ではない。

 戦闘分野での教育水準なら、イデアル王国で一番の教育機関である王立学園の方が高いだろうし、他にも特定分野に於いてだけならセントリアス神聖帝国の帝立学園より高い教育水準を誇る学園は幾つかなら存在する。

 さらに、教育機関ではなく徒弟制での教育を行っているだけだが、魔術に突き抜けた変人の巣窟の魔塔や、こんなファンタジー世界で普通に機械とか弄っている工房など、特定分野でヤバイ程突き抜けている組織やそこで教育を受けている人材は別に存在するのである。ちなみに、そういうヤバイところはそれこそ本当に出自など気にしなかったりする。魔術或いは技術の探求。その成果を継ぎ、さらに発展させていくに足る資質と熱意が全てという考え方なのだ。なので、今年帝立学園に入学する、魔塔の最年少認定賢者なんかも平民出身だ。

 しかしまあ、魔塔の人間がわざわざ帝立学園に入学するというのは、魔塔にも政治は存在するということだろうか。最年少賢者はその優秀さに反し、魔塔の人間としては極めてまとも寄りという噂なので、貧乏籤を引かされそうではある。

 魔塔や工房のような価値観は珍しいが、目端の利くまともな国ならばだいたいの教育機関に平民の特待生枠も存在する。この世界では称号というファクターが持つ意味が、その称号が関与する分野での将来性という意味で極めて大きいので、称号持ちを平民だからと教育の機会を与えず人材として取り込めないのは、国として多大な損失なのだ。それでもなお、身分に拘り、平民に教育の機会を決して与えない愚かな国も存在するが。

 称号は本人以外、極めて希少な手段でしか確認できないが、称号持ちの価値を考えれば自己申告も当てにはできない。嘘に関する子供の心理や、将来の破綻を考えない貧しい平民の親が子供に何か吹き込む可能性を考えれば、称号持ちを早く教育する為に見つけ出したい幼い子供の時期こそ、より本人の申告だけでは確実ではない。何より称号を『何時』『誰が』得るのか、全く予想が付かない。そもそも称号持ちの絶対数そのものが少ないし、称号は成した業績、或いはその者の本質を示すものなので、何の資質も持たず能力も身につけなかった大人が得る可能性はまず無いが。

 なので、称号持ちを取り逃さない為に、称号持ちに至る者が生まれる可能性を増やす為に、平民の幼い子供に基礎教育を施す学校を国で用意したりもしている。称号を自己申告した子供にはその称号に沿うだろう方向性の教育を試み、確認の精度を上げている。そうして国の人間が平民の子供の成長の様子を確認することで、称号持ちと思われる素質を持つ者を見逃さないようにしているのだ。国の予算の問題もあるし、貧困故に子供を働かせる親も居るから完璧ではない。

 それと今までの俺のように、国で現役の、第一線で活躍している人材に直接徹底的に教えられた方が、学園に通うよりも教育の質は高いだろう。……そもそも俺は、まだ学園に通う年齢にすらなっていなかったのだが。まあ、教育の水準はその国の人材の質にも依ることになるが、幸い我がイデアル王国の武の方面の人材は世界でもトップクラスだと言えるからな。……少々行き過ぎている程に。

「いただきます」

 さて、色々と思い返し整理している間に、食卓までやって来ていた。母と向かい合い食卓につき、食事前の挨拶をする。

 偉大な祖父を持つ我が家だが、家自体は貴族の家としてはこじんまりとしたものである。父の爵位の男爵位で考えても、宮中貴族とはいえ、小さい方だろう。

 これは母の希望だ。なにせ母は祖父が一代騎士になるまで、生まれてから十三歳までの間、冒険者だった祖父と二人で暮らしていたのだ。母が生まれた時には既に祖父は一級冒険者で、金銭的に苦労はしなかったということだが、基本的に宿屋暮らしで、祖父が仕事に出ている間は知りあいの女性などに面倒を見てもらっていたのだそうだ。ある程度の年齢になったら、自分から仕事の手伝いなどもしていたらしい。

 そんな暮らしをしていたんじゃあ、それは大きく豪奢な屋敷で、大量の使用人を雇って、常に傅かれての生活など性に合わないだろう。

 今でも、料理や掃除など、母はメイドと一緒に率先して働いている。社交界など苦手で全く出ないようとしない。だが、武を尊ぶこの王国で、魔王を撃退した祖父の娘であり。その祖父からの繋がりで国王を始めとした国でも最上位の面々とは直接の知り合いで、しかもその気性が気に入られている母は、アンタッチャブルな存在として、好きに生きる事を許されている。

 警護については、そもそもイデアル王国は島国であり、人の出入りの監視は容易な上、武力という面に於いては世界でもトップクラス。まして、王都ともなれば、その治安は万全といえる。王都に住んでいる時点でまず心配は要らないのだ。

 そして、父も、母の夫ということで、上から目をかけられているらしい。同期の中では異例の出世速度らしいのだが。時折遠い目をして。「善意からとはいえ。常に限界ギリギリを見極めて、鍛えられ、出世させられる毎日。……書類が、書類の山が」などと呟いている。

 前世の受験勉強の毎日を思い出した。……今度父には良い酒を差し入れておこう。

 そんな母なので、本来使用人も雇う必要はないのだが、今は年若いメイドを二人雇っている。二人は父の親戚筋で、まあ俺にとっても親戚ということになる。

 何せ家は、一流冒険者として稼いでいた祖父の遺産や、祖父の功績に国から与えられた褒賞などで、財産はたっぷりとある。なので奉公先を探していた父の親戚筋の娘を雇ったのだ。

 雇った当初は、二人の教育の為に、年配の経験豊富な侍女を、国王に仲介してもらい一年程雇っていたが。今では教育も終わり、二人が使用人としての技能を修めたので、雇っているのは二人だけである。活発で常に明るいミーナ十二歳と、おませでいつも大人ぶりたがるフラウ十三歳。

 学園に入学するのに家を離れるんだし、二人にもちゃんと挨拶しておかないとな。

 母が中心になって作っただろう、俺にとっておふくろの味と言える味付けの料理を口にしながら、そう考えた。

 さて、あとは前世の記憶を思い出すなんて特殊な出来事があったんだ、何か影響があるかもしれないし、一応称号を確認しておくか。

 意識をして見ようとすれば、それは自然と脳裏に浮かんできた。

≪勇者――■■■■■――≫

 ……え? なんか増えている? 勇者の後に追加? 纏めて一つ?

 てか、『■■■■■』ってなんだ?

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