空からの手紙【完結】

しゅんか

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味方

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 真っ直ぐな視線を飛ばしてくる“きょう”

 たくさんの仕草、行動、思考が若いこの男は、きっと。ほなみを守るためだとするならば、どんな相手にも、刃向かっていけるのだろう。


――――――無鉄砲だけど、優しいやつ。


 ほなみを連れて校舎内へと消えた “みつき”だって。ほなみには優しい声で呼び掛けておきながら、しっかりと睨まれていたっけ。ほなみに苦しさを芽生えさせた3人だと、認識したんだろう、瞬間に。


――――――度胸がありすぎるけど、優しい女の子。


「俺は俺、だよ。きょう。」

「………………、」

「誰だよ、とか言われても、困る。」


 正直に、思った感情のままに、伝える。深く考え込むよう眉間の皺を濃くした相手へ、苦笑を贈る。


 そんな顔をしたって、分かるはずもないだろうに。俺が誰か、なんて。そんなの。俺は、北沢楓。それは、事実だ。それ以外の、何者でもない。


「ああ、でも折角だし、ひとつだけ確実なこと言おうか?」

「…………確実?」

「俺は、ほなみの味方だよ。お前らの、敵じゃない。」

「………………、」

「……だから、そんな警戒すんな。」


 険しい表情の中でも、戸惑いを隠せきれていない相手の横を通り過ぎる。焦りと牽制を含んだような「ちょっ、おい……、」呼び止めてくる弱々しい声に立ち止まることはしないまま、校舎へと戻った。


 静寂に包まれる廊下。
 横一列に連なる窓ガラス。

 見えたのは、夏の証である、濃厚な青。





 空。





 お前が残した、宝物は。
 お前がいないと、壊れそうだぞ。

 俺、救ってやりたいな。
 けど……そうしたらお前は、怒るだろうな。

 妹に手出すなよおい、って。


 まあ、もう。
 覚悟は、してるけど。


 だからさ、空。
 もう、いい加減に。





 お前の〝真実〟を、

 お前の〝現実〟を、

 話しても、いいか?





 本来なら、今日18歳を迎えている筈の空に問い掛けるも、返事が聞こえる、なんて。そんな甘い世界など、ここには、ない。もう二度と、そんなときは、訪れない。





…………ごめんな、空。




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