楽園・ゲーム

第一章 召喚前？

01 プロローグ

社畜…皆さんはこの言葉をどの様に受け止めているのでしょうか？
この言葉の受け取り方については生まれた年代によって様々に違うだろう事が予想できる。
そして…西暦1990年頃に誕生したこの造語は西暦2000年を超えた辺りで受け取られ方が大きく変わったらしい。

それまでの社蓄である本人やその家族などは会社の為に人生を捧げた戦士という認識をギリギリ持っていたのだが、そんな『自称企業戦士』達が定年を迎え会社を去って行った後、最終的に残っていたのは、会社に飼われ会社の指示を唯々諾々と遂行するだけの牙を抜かれた家畜であった。
そしてそんな残された家畜が中間管理をする様になった企業では、同じ様な価値観を持つ者達が量産されると言うサイクルが構築されていった。

そう…サラリーマンとは武器を持たない戦士であり…家畜なのだ。

そしてそんな会社に骨の髄まで飼い慣らされた男が1人今日もサービス残業をして帰っていた。

その男…名前を佐藤さとう 清きよしと言い、自己紹介の時には『自分の名前は同姓同名で全国ランキング3位に入るほどのありふれた名前ですがそれだけ覚え易いと言う特徴を持っているのでよろしくお願いします』と言う定型文を持っていた。
奇を衒った名前では無いとしても何か他の人とは違う部分を持つ事で仕事上他社の人に名前を覚えられ易いと言う条件を作り出せる程度には仕事人間な彼だが、その覚えられ易いという一事を認められ、上司に課長という大役を押し付けられてからの人生は『世界に誇れる日本の社蓄』と言えそうな位に仕事漬けであった。

そんな彼が『はぁ～…いいかげんこんな休みも無い様な人生とか何とかして抜け出したいよなぁ…』などと考えてしまうのもしょうがないだろう。

そしてそんな彼が疲れた体を酷使しながら仕事を続けつつ、休みも無い状態で貯まるに任せたお金を唯一使っていたのが車とバイク。
住んでいるのは4畳半の和室と6畳のキッチン兼リビングのみトイレ付きユニットバスと電気式コンロ1口のアパートで、アパート併設駐車場に車を持っていない人と交渉して停めさせてもらっている軽自動車2台ととオープンスポーツカーの合計3台。バイクの方は大型バイク1台と原付が1台。
会社に通う為にしか使われる事の無い車やバイクなのに、これだけの車両を所持しているのもどうかと言う趣味へのお金のかけ具合だったりする。

しかも生来物持ちが良い性質で所持している車もバイクも今の会社に入ってすぐの頃に購入した物でそろそろ10年目を迎えようというある意味クラッシックな趣味と言えなくも無いほどに古さを感じさせていたりする車両であった。

そんな唯一の趣味の車とバイク、今日は朝から雨が降っていたので視認性の良い背の高い2BOXタイプの軽自動車を使って出社していた清だが、夜中の0時をそろそろ過ぎるという頃に車に乗ってアパートに帰る途中…いつも通る国道で最前列で信号待ちをしていた所で後ろからとても強い光が近づいてくるのに気付いた。
この状況が朝の通勤時間であれば清の頭ももう少し早く動きバックミラーなどを確認して逃げる事ができたのかもしれないのだが、如何せんサービス残業を体の限界までし続けている状態でそろそろ過労死しそうな頭ではそんな事も無理な訳で…
実際この事故がおきたのが朝方であれば、3車線の道路で車一台ど真ん中に停まっているだけという状況などありえない訳で、昼前にはテレビのニュースで『通勤ラッシュ時に大型ダンプの暴走？！死傷者12人以上！』などと空撮ヘリコプターなどまで出る様な大騒ぎになっていたはずだったりする。

清が近づいて来る光に気付いた一瞬後、夜中0時過ぎに軽自動車一台にノンブレーキで追突したダンプカーは衝突の衝撃で中央分離帯越えて反対車線にあったコンビニエンスストアーに突っ込んだ。
ちなみにそのダンプカーの運転手だが、熟睡状態で清の軽自動車に突っ込みそのままコンビニエンスストアの入ったビルの１階と２階の間の梁の部分に押し潰されて死んだおかげで被疑者死亡による不起訴という扱いになったらしく、ついでに言えば天涯孤独の身であった事から特に周囲に不幸が訪れなかったのでそこそこ運が良かったのかもしれない。
それに夜中に追突事故が起きたとは言いつつも朝までには現場検証などが済んでしまっていた事とダンプカーが突っ込んだコンビニエンスストアーに客が１人も居なかった事でその他の人的被害が無かったのもあり、あっという間に忘れ去られた。

清が死んで…ほとんど音沙汰の無かった親族が清の葬式を出した頃…


清は車に乗った状態で…とある島に居た。

「…ここどこ？」