楽園・ゲーム

第一章 召喚前？

05 何は無くとも食事事情を考えてみる

日本の街中を歩いているとそこらじゅうに食べる物が溢れている状況というのはとても恵まれていたのかもしれないな。
少女と砂浜に絵を描きながら意思の疎通をなんとか進めているとそんな気がしてきた。

最初知らない人と…まぁとりあえずもう知らない人という距離感ではない少女なのだが…
俺の腕に自分の腕を絡めて俺の方をずっと見ている少女をエスコートする感じに座れそうな岩を見繕って移動し腰を落ち着けるとさっそく座った俺に正面から抱きついて来ようとするのをギリギリの精神力で押し留めて隣に座らせた。
そして近くに落ちていた50cmほどの長さの棒を使って目の前の砂浜に俺の姿をスラックスとYシャツ姿でなんとなくデフォルメした絵を描きそれを棒でつつきながら自分の胸の辺りを反対の手で指差しつつ自分の名前を言う。
「キヨシ」
そして少女のデフォルメした姿を俺の大きさと比率を合わす感じに書いてその隣に俺の顔を蹂躙して今でも隙があれば舐めようと狙っているのがなんとなく分かる犬を横から見た感じに書き、少女の絵と少女を同時に指差してみた。
自分の絵と自分を指差して再度「キヨシ」と言うとやっと理解したらしく、俺の持っていた棒と似た様なサイズの棒をそこらから拾ってきて自分を指差しながら棒で俺の描いた少女をつつきながら、「ニナ」と言った。
そして俺の絵を棒でつつきながら、「キリョシィ？」と聞こえる感じに聞いてきたので一応「キヨシ」と言える様になるまで教えておいた。

出会って名前を確認するまでの間にハグあり首キスあり顔舐め30分あり…
現地人との意思の疎通というのはなかなか思った通りには行かないみたいだった。

そしてそれから自分の状況をニナに説明しようと思いながら考えつつ絵を描いていた時に自分の腹が砂浜に波が立てる音よりも大きく響いた。
とりあえず腕時計を見るとPM2：29
朝ご飯を食べた記憶は無いのだが、昼はまったく食べてないのはさすがに分かる。
だって俺…昼の12:00になった頃ってまだここから見える岩山岬の先端よりちょっとだけこっち側に居たからね。

さすがに俺の腹の音に気付いたらしいニナが棒を使って砂浜に書いた俺の腹の辺りをツンツンしながら片手で何かを持ち食べる様なジェスチャーをした。
それに答える為に描いた絵を一回消して海から登る太陽の絵を描きその下にニナのジェスチャーに似せた俺の絵を描き大きく×を描き、その横にちょっと高い場所に太陽を書き岩山を大汗かきつつ登っている俺を描き、その横に俺に馬乗りになって胸の辺りにスリスリしていたニナの絵と俺の顔を舐めまくっていた犬の絵を描いたらなんとなく理解してくれた気がした。
少女は犬を見ておいでおいでしながら「レテーナ」と呼び、何か指示を出すとその犬（レテーナが犬という意味なのか名前なのかまでは確認できてない）は、解き放たれた牧羊犬さながらの勢いで砂浜を走って行った。
ニナが砂浜に何か丸い物を両手で持ち食べている様な絵を描いてその丸い物を棒でつつきながら「パラミー」と言った。
そしてその横にニナの顔と似た大きさの丸を描いてそれを輪切りにした絵を描きそれを焚き火に棒に挿して焼く絵を続いて描いた。
たぶん『パラミー』という何か丸い物を今『レテーナ』が取りに行ってくれて、それを輪切りにした物を焚き火で焼いたら食べられる様になると伝えたい様だ。

そして…ニナは何か真剣に考えていた。
顔を赤くしたり頬に両手を当てて一点を凝視したり何やら軟体動物みたいに体をクネクネさせたり…

俺の知ってる13歳ぐらいの女の子がこんな動作というか…行動？をしてる時…
まぁ深夜アニメがソースになるのだが、そんな子って大体がエロい想像をしていたりするんだが…
ニナもそんな事を今現在考えていたりするんだろうか？

とりあえず絵を描いて意思の疎通を繰り返すのもなかなかに時間が掛かるので、なんとか早めにお互いの使っている言語を理解できたら良いのだが…
そんな事を考えていたら、レテーナが黄緑色の直径30cm程度のジャックフルーツみたいな植物の果実みたいなのを枝の辺りを咥えて持って戻った。
そしてニナがそれを受け取り力任せに半分に割ってその半分を俺に差し出してきた。

とりあえず受け取ったパラミーなる植物の果実らしき物体。
見た目は小さなジャックフルーツで割った中はなんとなく匂いも見た目もパイナップルっぽい。
とても甘い香りがしているそれをニナはそのまま齧り付き食べてから俺の方を見てニッコリ。
たぶん食べても大丈夫ってのを見せてくれている様だ。

とりあえず食感は柔らかいパイナップルで味はフレッシュなサツマイモみたいな感じフレッシュなサツマイモとか言うとずいぶん渋そうなんだが瑞々しいフルーツ風味なサツマイモと言った感じだろうか？
これを焼いて食べるなら、なんとなく主食として十分な感じがした。

とりあえず自己主張が酷かった俺の腹もなんとか静かになってくれたので再度砂浜に絵を描きつつ彼女の住んでいる村に行きたいと伝えた所、どうもニナ…連れて行きたくないという表情を見せ、俺の姿を砂浜に書いて横に三角屋根の家みたいな物を書きそこに行きたいというニュアンスの事を頑張って伝えてきた。

自分の住んでいる場所に人を連れて行きたくない…
そんな感情を持つ理由には幾つか思い付くが、もしかしたらニナ…本当に村で苛められているのだろうか？
だとしたら、涙を流しながら初対面のおっさんに抱き付くぐらいに喜んだ…そんな彼女の反応をさせた俺の行為って…

実際にした俺のボディーランゲージだが、
①お辞儀をする（日本風感謝行動）
②彼女の顔を見ながらスマイル♪（ここから欧米）
③彼女の視線に高さを合わせる為に片ひざ着いて…（ここも一応欧米）
④両手を出して……俺の意識では握手を求めたのだが…（ここで俺…ニナの反応を待っていたなぁ…）


ちょっと嫌な想像が頭の中を通り過ぎ背中と首筋に嫌な汗が流れた。


…俺もしかしたらだけど…ニナに結婚を申し込む的な行為をしてしまったんじゃないか？


それまでのニナの表情とかしぐさとか…他にも色々キスしようとしたり中学生ぐらいの深夜アニメに出演する少女がエロ妄想している様な姿を見せたり…まぁ深夜アニメうんぬんは俺の勝手な想像だけど、この少女の年代の子であれば恥ずかしがる様なしぐさをするのって、考えている事はそこまで大きく違わない感じがするんだよなぁ…
さすがに平安時代辺りまでさかのぼればまったく違う精神構造をしているとは思うが、江戸時代以降の日本の女性と西暦1000年以降の欧米の女性の性意識みたいなのはそこまで乖離は無かったはずで…
まぁでも未開の地に住んでいる原住民なんかのソレは驚く様な物が幾つもあるってのも知っているので一概には言えないとしても、ニナの表情とか抱きついて以降の距離感とかを思い出すにそんな想像をしてしまうんだが…

俺…31歳にして中学生程度（欧米準拠では11歳前後）の少女を婚約者として日本に連れ帰る事になるのだろうか…
10年後に戻れるならとっても羨ましがられそうな気がするけど、さすがにそんなに長居する気は無い。

まぁ何にしても今…PM3:05か…一応今現在、廃車状態のあの車が俺の家というか戻る場所なんだが、そこに向かって移動するかどうかをそろそろ決めなければならない頃だな。

ちなみにニナ、村には俺を連れて行きたくないらしく俺の家に行きたいと繰り返している。
どうしたものか…あっ…そう言えばまだ確認してない事があったな。
忘れている事に気付いた俺はニナに家族の事を聞いてみた。
ニナの絵を砂浜に描きその左右に男と女を描き杖を持ったじいさんばあさんを描き、その周辺に子供の姿を描いてそれらを棒でつつきながら、「家族」と声を出してみた。

ニナは俺が描いている絵を見ている途中で表情を消していた。
そして俺が描いた絵からじいさんばあさんを消して子供達の中から一番小さいのを1人だけ残して他を消し、左右に描いた男と女に大きく×を書き込み俺を見た。
それまでさんざん絵を描いてお互いに意思の疎通を繰り返してきたので大体二ナの描いた絵の持つ意味が分かる様になってきていた俺はニナが俺に伝えようとしている事を理解した。

たぶんニナの両親はもう死んで居ない。
じーさんばーさんはたぶんニナが思い出せる記憶の中には存在しない。
1人だけニナより小さな子が居る。

どうもそう言う事の様だ。

両親が居なくて自分より小さな子が存在している事を説明してなお俺の家に行きたいと言ってくると言う事は、ニナ…一人で生活している様だ。


やれやれ…なんか…『第一現地人発見♪』とか喜んでる場合じゃないみたいだな。