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生きてて良かった
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ーー時は少し遡り、フラン襲撃から一時間後。暗殺者が兵士達によって捕縛されたため、城内の警戒態勢も解かれることとなった。
全身をきつく縄で縛られ、猿轡を噛まされ、手も足も枷で拘束されて芋虫のようになった男が、兵士達の手によってフランの前に引きずられてくる。
「この者の名はボリス、射撃の腕で有名な傭兵の男です。何者かがこの男に殿下の殺害を依頼したと考えられますので、これから地下の牢獄で尋問を行います」
兵士の一人が報告すると、フランは神妙な面持ちでーーといっても口元しか見えないがーー怒りを声に滲ませながら静かに言うのだった。
「……死なない程度ならどんな手段を使っても構わないよ。洗いざらい全部吐かせて」
「「「承知致しました、殿下」」」
「んんぅ、ん゙ぅ~~ッ!!」
兵士達によって丸太のように担ぎ上げられ、牢獄へと運ばれていく男。きっと、地下では死ぬよりも痛くて苦しい目に遭わされてくることだろう。
一国の王太子の命を狙ったのだ、どのみち死罪は免れないだろうが。
(……今日の業務が終わったら、地下牢に様子を見に行ってみようか。騎士団と城では尋問のやり方が違うのか、とかも気になるし)
何より、フランを殺そうとした極悪人に一発拳をお見舞いしてやりたいのだ。
もしあの時、咄嗟に身体が動かなかったら……刀で受け止めきれずに矢が後方に飛んでいたら。
矢がフランに突き刺さり、重傷を負っていたかもしれない、最悪死んでいたかもしれないなどと想像するだけで、寒気がする。
フランは吸血鬼だが、決して不死ではない。アヴェーヌ家は王位に就いてから何代にもわたって人間の貴族令嬢を妻として迎え入れており、混血を繰り返した結果不死の体質を失い、人間同様致命傷を負えば命を落とすようになったのだという。
(本当に、間に合って良かった。守れて良かった。……これからも、俺が絶対にフランを殺させない。傷一つ付けさてなるものか)
兵士達が去り、執務室に二人きりになると、フランは力が抜けたように深くため息をついて頭の布を取った。
露わになったその顔には、命を狙われたことによる過度な緊張からか、疲労が濃く滲んでいて。貧血を起こしたときのような真っ青な顔色をしたフランに、俺の胸がきゅっと締付けられるように痛む。
フランにこんな顔をさせた犯人が、憎くて憎くて堪らない。
「殿下、大丈夫ですか? ……ご安心ください、殿下のことは私が命を賭けて守りまッーーおわッ!?」
「ーーッ、悠馬……!!」
フランを安心させるために声をかけた次の瞬間……俺は、彼の腕に強く抱きしめられていた。
「……怖かった」
か細い声で囁くように言うフラン。
怖いのは当然です、あと少し気がつくのが遅かったら、殿下に矢が当たっていたかもしれませんでしたからねーー俺が慰めるようにそう返すと、フランは静かに首を横に振って。
「違うよ。もし君に矢が当たって、命を落としてしまっていたら……って想像して、怖くなったんだ」
存在を確かめるようにひしと抱かれると、心臓の辺りがきゅんと切なくなる。
「僕がこんなこと言うの、おかしいよね。僕を守る騎士になってって悠馬に頼んだのは、僕自身なのに……」
「……殿下」
「でも、本当にーー悠馬が無事で良かった。君が生きていて良かった」
フランの腕に力がこもり、お互いの鼓動の音すら聞こえてきそうな程密着する。
胸がの奥がじんわりと温かくなって、つい涙腺が緩んでしまいそうになる。
”君が生きていて良かった”……なんて、誰かからそんな言葉をかけてもらえる日が来るなんて、思ってもみなかった。
「……私も、同じ気持ちです。殿下がご無事で良かった、守れて良かった……貴方が生きていて本当に良かったと」
フランの背中に手を回し、そっと抱きしめ返す。
すると、フランは一瞬驚いたようにピクリ、と身体を強張らせたがーーすぐに俺の肩に顔を埋めて、ほっとしたように囁くのだった。
「……ありがとう、悠馬。……もう少しだけ、このままでいさせて」
窓から差し込む夕陽の光の色が、淡い橙から深い紅へと移ろい、部屋中を照らす。静かな空気の中で、光に照らされた塵が小さく輝きながらゆっくりと舞う。
抱きしめ合う二人の影が、床の絨毯に長い影を落としていた。
全身をきつく縄で縛られ、猿轡を噛まされ、手も足も枷で拘束されて芋虫のようになった男が、兵士達の手によってフランの前に引きずられてくる。
「この者の名はボリス、射撃の腕で有名な傭兵の男です。何者かがこの男に殿下の殺害を依頼したと考えられますので、これから地下の牢獄で尋問を行います」
兵士の一人が報告すると、フランは神妙な面持ちでーーといっても口元しか見えないがーー怒りを声に滲ませながら静かに言うのだった。
「……死なない程度ならどんな手段を使っても構わないよ。洗いざらい全部吐かせて」
「「「承知致しました、殿下」」」
「んんぅ、ん゙ぅ~~ッ!!」
兵士達によって丸太のように担ぎ上げられ、牢獄へと運ばれていく男。きっと、地下では死ぬよりも痛くて苦しい目に遭わされてくることだろう。
一国の王太子の命を狙ったのだ、どのみち死罪は免れないだろうが。
(……今日の業務が終わったら、地下牢に様子を見に行ってみようか。騎士団と城では尋問のやり方が違うのか、とかも気になるし)
何より、フランを殺そうとした極悪人に一発拳をお見舞いしてやりたいのだ。
もしあの時、咄嗟に身体が動かなかったら……刀で受け止めきれずに矢が後方に飛んでいたら。
矢がフランに突き刺さり、重傷を負っていたかもしれない、最悪死んでいたかもしれないなどと想像するだけで、寒気がする。
フランは吸血鬼だが、決して不死ではない。アヴェーヌ家は王位に就いてから何代にもわたって人間の貴族令嬢を妻として迎え入れており、混血を繰り返した結果不死の体質を失い、人間同様致命傷を負えば命を落とすようになったのだという。
(本当に、間に合って良かった。守れて良かった。……これからも、俺が絶対にフランを殺させない。傷一つ付けさてなるものか)
兵士達が去り、執務室に二人きりになると、フランは力が抜けたように深くため息をついて頭の布を取った。
露わになったその顔には、命を狙われたことによる過度な緊張からか、疲労が濃く滲んでいて。貧血を起こしたときのような真っ青な顔色をしたフランに、俺の胸がきゅっと締付けられるように痛む。
フランにこんな顔をさせた犯人が、憎くて憎くて堪らない。
「殿下、大丈夫ですか? ……ご安心ください、殿下のことは私が命を賭けて守りまッーーおわッ!?」
「ーーッ、悠馬……!!」
フランを安心させるために声をかけた次の瞬間……俺は、彼の腕に強く抱きしめられていた。
「……怖かった」
か細い声で囁くように言うフラン。
怖いのは当然です、あと少し気がつくのが遅かったら、殿下に矢が当たっていたかもしれませんでしたからねーー俺が慰めるようにそう返すと、フランは静かに首を横に振って。
「違うよ。もし君に矢が当たって、命を落としてしまっていたら……って想像して、怖くなったんだ」
存在を確かめるようにひしと抱かれると、心臓の辺りがきゅんと切なくなる。
「僕がこんなこと言うの、おかしいよね。僕を守る騎士になってって悠馬に頼んだのは、僕自身なのに……」
「……殿下」
「でも、本当にーー悠馬が無事で良かった。君が生きていて良かった」
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胸がの奥がじんわりと温かくなって、つい涙腺が緩んでしまいそうになる。
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「……私も、同じ気持ちです。殿下がご無事で良かった、守れて良かった……貴方が生きていて本当に良かったと」
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