婚約者を兄に寝取られた不幸令息、魔性の吸血鬼王子に溺愛される

立花芹

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いつまでも共に(終)

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「ーーこの時、最後の王フラン=ディ=アヴェーヌによる大改革が起こりました。王国は今までの王制から議院内閣制へと移行、男女問わず全ての成人した国民に選挙権を与え……」

 初老の教師が、黒板にチョークで書き込んでいく。

 テキストと黒板の間で視線を往復させながら、ノートに要点をまとめていると、不意に右肩をツンツン、と指先で突かれた。

「……ふふ、変な感じだね。歴史の授業で自分の名前が出てくるなんてさ」

 小声で囁くのは、“最後の王”本人であるフランだ。

 チラ、と横目で隣を盗み見ると、フランがニヤニヤした顔をして、テキストに印刷された自分の肖像画を指さしていた。

「皆さん126ページを開いていますね? ではフラン王の肖像画を見てください。面白いでしょう? アヴェーヌ家が王権を握っていた時代、国王は皆、布で顔を隠していたのです。当時の貴族の手記によると、王の側近でさえ、一度も顔を見たことがないと」

 教授がそう言うのに合わせて、フランがルーズリーフの端に何やら文字を書いてこっそり見せてくる。

『恋人の前では隠してなかったけどね』

 浮ついたその文章の下に、俺はささっと字を書き連ねた。

『授業は真面目に受けましょう』

 ーーフランが国王を引退してから、400年が経過した。今俺たちは、途方もなく長い人生の暇つぶしに、大学生として過ごしている。

 最近は髪を染める若者が増えてきたことから、フランの吸血鬼らしい白髪を隠さずとも日常生活を送れるようになっていた。赤い瞳も、カラーコンタクトで誤魔化すことができる。

 フランは法学部、俺は経済学部に入ったが、今受けている『政治史Ⅱ』や、その他外国語などの被っている授業の時はいつも隣の席に掛けて受講していた。

「ーーフラン王は数々の改革を成し遂げました。その政策の中には、当時にしてはやや革新的すぎるものもありましたが、全体的に非常に評価されています」

 教授がその“当時にしては革新的すぎる”改革の一例として挙げた中には、同性婚法制化の一文もあった。

 そう、フランは俺と結婚するためになんと法律を変えたのだ。

「当時にしては革新的すぎる改革でしたが、しかしフラン王のこの改革から数十年後、周辺国も追随するように法を見直し……現在ではフラン王のその先見の明が評価されておりーー」

 教授がそこまで語ったところで、授業終了の時間がきて、今日の講義はそこまでとなった。

 隣でうんと伸びをするフランに、俺は微苦笑する。

「もう……ちゃんと教授のお話聞いてましたか? ノート全然とってないみたいですけど」

「聞いてたよ。でも、この辺の歴史は僕たち実際に体験してるからね。メモ取らなくても試験は余裕かなって」

 二人して談笑しながら席を立ち、学食へと向かうためーー法学部棟の外に出る。

 レンガ道の両脇に植えられたカエデの木が赤く色づいていて、季節はもうすっかり秋だ。

 ひらひらと舞い落ちる木の葉を眺めながら、フランはぽつりと呟いた。

「……覚えてるかな、悠馬。国王引退したあの日も、こんな風に紅葉が綺麗な秋の日だった」

 フランが言うのに、俺はゆっくりと頷いて微笑む。

「ええ、覚えていますよ。引退を記念するパレードで、紅葉の中馬車で王都を巡りましたね……国民皆が声援で送ってくれて。壮観だったな、今みたいにカメラが普及していれば残せたのに」

  俺が少し残念そうに肩を落としながら言うと、フランはふふっと笑って。

「良いんだよ、写真に残せなくても、僕たちの記憶の中には残り続けるんだから」

 でしょ?と言いながらそっと手を握られ、指を絡められると、俺は胸の辺りがふわっと温かくなった。

 ええ、そうですねと返事をしながら頬を緩め、フランの手を優しく握り返す。

 フランの指と絡んだ俺の左手の薬指では、彼の瞳と同じ真紅色をした、小さなルビーのはめられたリングがささやかに輝いていた。
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