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1章 異世界幽霊
戦乱
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「お兄ちゃん、付いてる」
「ん?」
「付いてるって」
可笑しそうに鈴音が俺の口元へ手を伸ばし、米粒をつまむとそれを自らの口に入れた。
「あ、ああ、サンキュ」
「えへ、お礼はこっちだよ、お米一粒貰っちゃった」
その笑顔に俺は、右手にある食べかけのおにぎりを無理やりにでも鈴音に渡したい衝動に駆られた。だがその思いはすぐに消える。鈴音は受け取るようなことはしないだろう。
「憶えてる? お兄ちゃん、去年の夏に家族で海に行ったこと」
「あー、母さんのおにぎり美味しかったな」
「いつかまた、海でおにぎり食べたいね」
「ああ」
埃まみれのバス、トラックが並んでいる薄暗い工場内には。俺達と同様、日本に侵攻した敵国軍から逃れてきた人達が無言で配られたおにぎりを食べている。
食べ終わった俺は鈴音に背を向け、リュックの中に手を入れた。
ヒンヤリとした手触り、無骨な鉄の塊。
この工場二階をアジトにしている裏社会の住人らしき顔ぶれの抵抗組織、その人達から渡された拳銃、トカレフだ。
教えられるまま込めた弾丸は八発。
出来る事ならこんな恐ろしいシロモノは使いたくない。とはいえ、この戦争で両親と連絡不能になった今、妹の鈴音だけは守らなければならない。
その為なら、俺はこの銃の引き金を――――
工場内に何かが爆発するような音が鳴り響き、俺は反射的にかがみこんだ。
それが銃声だと気付いた俺は周囲を見ながら鈴音の手を取る。
座っていた人々がちりじりに逃げ出している。そこへ再び連続した射撃音、今度は一つではない複数の音だ。ガラスの割れる音も聞こえる。
リュックからトカレフを取り出し、安全装置を外す。
並んだバスやトラックの向こうに、アサルトライフルを持った数人の人影が、機敏な動きで周囲に銃口を向けつつこちらに向かって来るのが見える。
鈴音の手を引いた俺はそれとは反対の方向へ駆け出す。
背後から銃声。
右肩の側を、当方もない衝撃が空気を震わせ通過するのを肌で感じた。
とっさに俺は並んでいるバスとバスの間に身を隠した。
「お兄ちゃん……死にたくないよう!」
ガクガク震える鈴音を背後に移動させ、トカレフを構える。
鈴音は十六歳になったばかり、死にたくないのは当然だ。それは一か月後、十八歳になる俺にもいえる。こんな薄暗く汚い工場で、恨まれることなど何もしてないのに射殺されるなんて、是非とも勘弁こうむりたい。
「きゃっ!!」
鈴音の悲鳴に後ろを見る。いつの間にかアサルトライフルを持った人影がバスとバスの間の奥におり、こちらに小走りで近づいていた。
俺はその人影にトカレフを向け、引き金を引こうとした。
そこへ体験したことのない強烈な衝撃が背中に走る、耳には鼓膜が破れんばかりの銃声。
俺の意識はそこで途切れた。
つづく
「ん?」
「付いてるって」
可笑しそうに鈴音が俺の口元へ手を伸ばし、米粒をつまむとそれを自らの口に入れた。
「あ、ああ、サンキュ」
「えへ、お礼はこっちだよ、お米一粒貰っちゃった」
その笑顔に俺は、右手にある食べかけのおにぎりを無理やりにでも鈴音に渡したい衝動に駆られた。だがその思いはすぐに消える。鈴音は受け取るようなことはしないだろう。
「憶えてる? お兄ちゃん、去年の夏に家族で海に行ったこと」
「あー、母さんのおにぎり美味しかったな」
「いつかまた、海でおにぎり食べたいね」
「ああ」
埃まみれのバス、トラックが並んでいる薄暗い工場内には。俺達と同様、日本に侵攻した敵国軍から逃れてきた人達が無言で配られたおにぎりを食べている。
食べ終わった俺は鈴音に背を向け、リュックの中に手を入れた。
ヒンヤリとした手触り、無骨な鉄の塊。
この工場二階をアジトにしている裏社会の住人らしき顔ぶれの抵抗組織、その人達から渡された拳銃、トカレフだ。
教えられるまま込めた弾丸は八発。
出来る事ならこんな恐ろしいシロモノは使いたくない。とはいえ、この戦争で両親と連絡不能になった今、妹の鈴音だけは守らなければならない。
その為なら、俺はこの銃の引き金を――――
工場内に何かが爆発するような音が鳴り響き、俺は反射的にかがみこんだ。
それが銃声だと気付いた俺は周囲を見ながら鈴音の手を取る。
座っていた人々がちりじりに逃げ出している。そこへ再び連続した射撃音、今度は一つではない複数の音だ。ガラスの割れる音も聞こえる。
リュックからトカレフを取り出し、安全装置を外す。
並んだバスやトラックの向こうに、アサルトライフルを持った数人の人影が、機敏な動きで周囲に銃口を向けつつこちらに向かって来るのが見える。
鈴音の手を引いた俺はそれとは反対の方向へ駆け出す。
背後から銃声。
右肩の側を、当方もない衝撃が空気を震わせ通過するのを肌で感じた。
とっさに俺は並んでいるバスとバスの間に身を隠した。
「お兄ちゃん……死にたくないよう!」
ガクガク震える鈴音を背後に移動させ、トカレフを構える。
鈴音は十六歳になったばかり、死にたくないのは当然だ。それは一か月後、十八歳になる俺にもいえる。こんな薄暗く汚い工場で、恨まれることなど何もしてないのに射殺されるなんて、是非とも勘弁こうむりたい。
「きゃっ!!」
鈴音の悲鳴に後ろを見る。いつの間にかアサルトライフルを持った人影がバスとバスの間の奥におり、こちらに小走りで近づいていた。
俺はその人影にトカレフを向け、引き金を引こうとした。
そこへ体験したことのない強烈な衝撃が背中に走る、耳には鼓膜が破れんばかりの銃声。
俺の意識はそこで途切れた。
つづく
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