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第一章 鳳凰霙《ホウオウミゾレ》登場
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どこかで会ったことがあるのだろうか。いや、こんな美少女をライは知らない。
少女は、胸元でエリを重ねた真っ白な巫女さん風の服を着ている。でも、あくまで巫女さん風であって、よくよく見れば着物ではない。ただ下のロングスカートが朱色っぽい赤なので、よけいにハカマを履いた巫女さん風に見えるのだ。その清らかで神秘的な出で立ちが少女によく似合っていた。
「下の名前は雷じゃなくって、ライって呼んでいいんですよね?」
ライの質問には答えずに、少女は驚愕の発言を続ける。
「どどどど、どうして、下の名前まで知ってるの?」
ライの頭はパニックになった。
「どもりすぎですよ」
「だだだだだって、まるでシャーロック・ホームズだ」
「そんなことありません」
少女はライの驚きを軽くいなすと、逆にライに聞いてきた。
「ひょっとしてカミナリの日に生まれたから雷って名前なんですか?」
「そ、そうみたいだけど」
「うわあ、やっぱり。安易ですよね」
「文句はウチの親に言ってよ」
「いえいえ、一緒です。ウチの親も安易なの。わたし、霙の日に生まれたんですって。だからミゾレ。姉は氷雨の日。だからヒサメ。霙も氷雨も似たようなものらしいんですけど、一応そこにはこだわりがあったみたい」
少女はうふふと微笑んだ。
「ちなみに苗字は鳳凰単語。フルネームで鳳凰霙って言います」
「ホウオウ?」
「めずらしい苗字だってよく言われるんですけど。ネットで調べると、日本全国に十人くらいはいるみたい。漢字だと、こう書くんです」
ホウオウミゾレと名乗った少女は、長机の上にあるクロスワードパズルや数独の問題集を端に寄せると、ノートを開いてボールペンで「鳳凰霙」と書き綴った。
「うわあ、難しい漢字だ」
「そうなんです。鳳凰家に生まれた者は、小学校低学年で、総画数二十五画のこの苗字を漢字で書かされるという大試練が待ち受けているんです。しかも、わたしは名前の霙も十五画。千丈さんが羨ましいな」
この世に生まれたときから千丈。羨ましがられるほどのことではないのだが。それにそうだ。話がそれてしまったが、なぜ彼女が、ライをいきなり「千丈さん」と呼ぶことができたのか。ましてや「雷」という下の名前まで。その理由をまだきいていなかった。
「どこかで会ったことあったっけ?」
自分が忘れてるだけなのか? 率直にライは聞いた。
「いいえ、初対面ですけど。驚きました?」
「驚いたよ。腰が抜けるところだった」
「千丈さんの腰が抜けるところ見たかったです」
ミゾレはかわいい顔をして怖ろしいことをいう。
「勘弁してよ」
「勘弁しません。もっと驚いてもらいますよ」
「もっと?」
「そう。千丈さんて、ひょっとして、ミステリー小説が好きなんじゃありませんか? いまもきっと、推理小説研究会のブースをさがして、ここを通りかかったんですよね?」
図星っ! ふたたびライの頭は混乱に陥単語った。
「そそそそんなことまで、どうしてわかるのっ?」
「しかも千丈さん、将来はミステリー作家になりたいなあ、なんて考えてません?」
「ぎょへえっ!」
あまりの混乱で、ライは意味不明の言葉を叫ぶしかなかった。なぜ赤の他人の美少女がそんなことまで知っているのか? 現実で、一度も口にしたことのない超個人的な遠い遠い夢なのに。
「どうしてわかったと思います?」
「そそそそんなこと、わかるわけないよっ!」
ライはパーカーのフードの上から頭をぐしゃぐしゃ掻きむしった。透視術やテレパシー、ESPやマインドダイブ、そんなひと昔前のSFチックな単語しか思い浮かばない。
「落ち着いてください」
「落ち着いてなんかいられないよっ!」
ミゾレが魔物に見えてきた。
「さては巫女めっ! 神道の秘術中の秘術、千里眼を使ったのかあっ!」
ライは思わず、最近読んだSF伝記ミステリーの一節を口にした。
「何わけのわからないこと言ってるんですか。わたしの見た目に引っ張られすぎですよ」
「なら、どうして? どうやって僕の名前を推理したの?」
少女は、胸元でエリを重ねた真っ白な巫女さん風の服を着ている。でも、あくまで巫女さん風であって、よくよく見れば着物ではない。ただ下のロングスカートが朱色っぽい赤なので、よけいにハカマを履いた巫女さん風に見えるのだ。その清らかで神秘的な出で立ちが少女によく似合っていた。
「下の名前は雷じゃなくって、ライって呼んでいいんですよね?」
ライの質問には答えずに、少女は驚愕の発言を続ける。
「どどどど、どうして、下の名前まで知ってるの?」
ライの頭はパニックになった。
「どもりすぎですよ」
「だだだだだって、まるでシャーロック・ホームズだ」
「そんなことありません」
少女はライの驚きを軽くいなすと、逆にライに聞いてきた。
「ひょっとしてカミナリの日に生まれたから雷って名前なんですか?」
「そ、そうみたいだけど」
「うわあ、やっぱり。安易ですよね」
「文句はウチの親に言ってよ」
「いえいえ、一緒です。ウチの親も安易なの。わたし、霙の日に生まれたんですって。だからミゾレ。姉は氷雨の日。だからヒサメ。霙も氷雨も似たようなものらしいんですけど、一応そこにはこだわりがあったみたい」
少女はうふふと微笑んだ。
「ちなみに苗字は鳳凰単語。フルネームで鳳凰霙って言います」
「ホウオウ?」
「めずらしい苗字だってよく言われるんですけど。ネットで調べると、日本全国に十人くらいはいるみたい。漢字だと、こう書くんです」
ホウオウミゾレと名乗った少女は、長机の上にあるクロスワードパズルや数独の問題集を端に寄せると、ノートを開いてボールペンで「鳳凰霙」と書き綴った。
「うわあ、難しい漢字だ」
「そうなんです。鳳凰家に生まれた者は、小学校低学年で、総画数二十五画のこの苗字を漢字で書かされるという大試練が待ち受けているんです。しかも、わたしは名前の霙も十五画。千丈さんが羨ましいな」
この世に生まれたときから千丈。羨ましがられるほどのことではないのだが。それにそうだ。話がそれてしまったが、なぜ彼女が、ライをいきなり「千丈さん」と呼ぶことができたのか。ましてや「雷」という下の名前まで。その理由をまだきいていなかった。
「どこかで会ったことあったっけ?」
自分が忘れてるだけなのか? 率直にライは聞いた。
「いいえ、初対面ですけど。驚きました?」
「驚いたよ。腰が抜けるところだった」
「千丈さんの腰が抜けるところ見たかったです」
ミゾレはかわいい顔をして怖ろしいことをいう。
「勘弁してよ」
「勘弁しません。もっと驚いてもらいますよ」
「もっと?」
「そう。千丈さんて、ひょっとして、ミステリー小説が好きなんじゃありませんか? いまもきっと、推理小説研究会のブースをさがして、ここを通りかかったんですよね?」
図星っ! ふたたびライの頭は混乱に陥単語った。
「そそそそんなことまで、どうしてわかるのっ?」
「しかも千丈さん、将来はミステリー作家になりたいなあ、なんて考えてません?」
「ぎょへえっ!」
あまりの混乱で、ライは意味不明の言葉を叫ぶしかなかった。なぜ赤の他人の美少女がそんなことまで知っているのか? 現実で、一度も口にしたことのない超個人的な遠い遠い夢なのに。
「どうしてわかったと思います?」
「そそそそんなこと、わかるわけないよっ!」
ライはパーカーのフードの上から頭をぐしゃぐしゃ掻きむしった。透視術やテレパシー、ESPやマインドダイブ、そんなひと昔前のSFチックな単語しか思い浮かばない。
「落ち着いてください」
「落ち着いてなんかいられないよっ!」
ミゾレが魔物に見えてきた。
「さては巫女めっ! 神道の秘術中の秘術、千里眼を使ったのかあっ!」
ライは思わず、最近読んだSF伝記ミステリーの一節を口にした。
「何わけのわからないこと言ってるんですか。わたしの見た目に引っ張られすぎですよ」
「なら、どうして? どうやって僕の名前を推理したの?」
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