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第1章 怪しげな依頼

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 わたし、なんか反社の人に恨まれるようなこと、したっけ?

 酔っぱらってるとき、啖呵たんかきっちゃったとか。

 うーん、とくに覚えはないんだけど……

 もし、危ない目に合いそうになったら、噛みつくなり、引っ掻くなりして、逃げ出すしかないかな……

 わたしの心配をよそに、車は目的地に向かって着実に進んでいき、やがて高層ビルらしき建物の駐車場に滑り込んでいった。

「こちらをお持ちになってください。IDカードになりますので」

 車を降り、エレベーターを待つ間、湊さんは透明ケースに入ったカードを渡してくれた。

 3年前に撮った宣材写真のわたしが微笑んでいる。

 何から何まで用意周到。
 いったい何が、わたしを待ち受けているんだろう。

 妖怪じみた金持ちのヨボヨボジジイの世話とか?

 アラブの脂ぎった大富豪の接待とか?
 接待だけならまだしも、どっかに売り飛ばされたりして。

 まさかとは思うけど、実は酒井さんもぐるで、わたしをやっかい払いしようとしてるとか?

 次から次へと浮かぶ疑惑で頭がいっぱいになったとき、ようやくエレベーターは停まった。

 湊さんが先に降り、扉に手を添えて待ってくれている。

 あれ、意外と紳士じゃん。
 そっか、秘書だって言ってたっけ。
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